わたしの旗の下に集まらないといけないんだからね!(七)
今回は美鳴ちゃんの敵の紹介と意外にがんばる歴研メンバーたち。それぞれの魅力と才能でレベルアップしてます!
東宮院是清名前からしてどこかの旧家のおぼっちゃまかと思いきや、本名は佐々木健治。小さい頃に両親を交通事故で亡くし、孤児院で育った。働いて高校、大学と進んだが、学業優秀で、大学在学中に株取引のディトレードで巨万の富を築く。
現ナマで100億円は軽く動かせるというからただもんではない。その資金を使って、ファンドを立ち上げ、企業買収しては切り売りをして儲けるやり方で、今の地位を築いていた。まだ、若干、29歳という若造である。性格は冷酷でおよそ人間らしいところがないのは、そういう愛のない子供時代を過ごしたせいだろう。
幼少の頃、金で苦労した割には、金に執着することもないのが不思議であるが、企業買収して元オーナーから会社を取り上げることを楽しみとしている節がある。唯一のコンプレックスは、生まれの悪さらしく、金のチカラで東宮院という旧家の養子になり、名前を変えたことぐらいである。
(それにしても、今回のゲームはただのゲームじゃない。美鳴ちゃんにとっては、リアルで失いつつあるものをゲームの結果次第によっては覆せるかもしれないチャンスではある)
「だが、これじゃあ、このチャンスもあってないようなものだな…」
アギトは調査ファイルをパラパラとめくり、愛くるしいい笑顔で映っている美鳴の写真を見て、少し気の毒になった。冷酷な雇い主は間違いなく、このお嬢さんを不幸のどん底に叩き落とすはずである。
(唯一の希望は、この男だが…)
アギトは後ろに島大介と書かれた青年の写真を見た。
「戦国オタクに姫は救えるか…まあ、あまりワンサイドじゃあ、つまらない」
いつもの部活時間。いつものとおり、俺は歴研部員の少女たちと美鳴の学校の部室でレベルを上げるためのシナリオに各自挑んでいた。今のところ、レベル上げは順調で真田雪之ちゃんは、天性の戦術眼と正確なゲーム操作を駆使して連戦連勝で、武将レベルを上げているし、直江愛ちゃんは、これまたネット上で友達作りが上手で、そのカリスマ力で上杉景勝プレーヤーをゲットすることができた。
(まあ、上杉景勝プレーヤーはキャンペーンでも関ヶ原の戦場には出てこないので、戦死する可能性が低く、西軍につくというデメリットが低いこともあるが…)
ただ、このプレーヤー、ネットだからどこのどいつか知らないが、絶対、愛ちゃんにメロメロである。
言動が愛ちゃんラブだから分かる。昨日も、
「ねえ~殿~…兼続の一生のお願い!」
「なんだい、兼続ちゃん」
「米沢30万石、か・ね・つ・ぐにくださいな!」
「えーっ…まだ、兼続ちゃんが僕の陣営に入って間もないし、それはちょっと…」
「それなら、兼続は別の景勝様のところにいっちゃうよ」
「だーっ、それはダメ。兼続ちゃんみたいな可愛い女子はめったにいないから、それは困るよ~」
「だったら…兼続のお願い、聞いてくれなきゃダメ」
「わ…分かったよ。30万石進呈します。そしたら、どう?オフ会で会ってくれない?」
「どうしようかな?私と一緒に西軍で今回のキャンペーン参加してくれたら、考えちゃおうかな?」
「やります、やります…西軍で参加します!」
自称、会社員と言っている上杉景勝は、愛ちゃんに手玉に取られている。赤い眼鏡ちゃんの舞さんは、ずいぶんゲームに慣れてきたようで、戦術家としては一人前になってきた。1000人程度の部隊による戦闘なら、安心して見ていられる。
さすがは生粋の歴女。記憶している戦国時代の数多の戦いをインプットしている頭脳を駆使し、それを体現していく。鎧姿のバーチャル空間の容姿もかなり様になっている。
(相変わらず、俺には優しくないが…)
さらに病弱な小谷吉乃ちゃんが、意外な才能でシナリオモード連戦連勝であった。武将は大谷吉継を選択。マニュアルを読破してそれをゲームに忠実に活かす能力といい、独創的な部隊運用、そして大胆な作戦、決して引かない勇猛さなど、あの儚げな吉乃ちゃんのイメージとかけ離れていた。
現実の大谷形部少輔吉継は、天下人、太閤秀吉から、「百万の軍の采配を預けてみたい」と言わしめた武将で、実際の関ヶ原の戦いでも勇戦して時代に名を残した名将であった。
(ただ、せっかくの才能も実在の人物と同じく、病気で1日2時間しか体力が持たないから、レベルアップも限界がある…)
美鳴の西軍で才能のある真田雪之ちゃんと小谷吉乃ちゃんが、共に小大名で戦力的には大きくないのが残念であった。
上杉景勝・・・愛ちゃんにすべて絞り取られそうな勢い。この人、関ヶ原キャンペーンモードに参加させられちゃうんだろうなあ・・・。事情も知らされず。