左近!関ヶ原へ移動するわよ!(壱)
南宮山に疑惑の毛利軍団と共に陣を構える長宗我部盛親を演じる長谷家部君。主人公の左近ちゃんにメロメロだから、コイツは犬のように忠実に戦ってくれると思っていたのに、どうも様子がおかしいです。
ここへ来て西軍の和が・・・崩れていく?
俺はゲーム内で左近ちゃんに変身して長谷家部守人が指揮する長宗我部の陣地に来ている。南宮山の中腹のしょうもないところにこの男が陣を構えたのは前日。美鳴によれば、何だかへそを曲げているらしい。
(アイツめ!俺があれだけサービスしてやったのに!)
と内心で起こりつつも、今は左近ちゃんキャラなので、顔は優しく微笑んで長谷家部の奴を呼び出す。サービスとは、以前、左近ちゃんの格好でデートしてやって死ぬ思いで奴の頬にキスしてやったことだ。その後の伏見城攻めの不甲斐ない戦いぶりを見ていると、コイツは左近ちゃんがすぐ側にいないとどうにもならないやつだと思い始めていた。
だが、コイツの指揮する土佐兵6千はどうしても戦力として欲しい。長谷家部自身の戦闘力も侮れないのだ。
「あ?左近ちゃん!」
俺の姿を見つけて長谷家部の奴が嬉しそうな声を思わず上げた。それを聞いて、俺は今日足を運んだ甲斐があったと思ったが、その声も一瞬で以前では、ありえないことに長谷家部の奴、そっぽを向きやがった。
「どうしたの?守人さん?」
俺は思いっきり、甘えた声で長谷家部の奴に話しかける。
「ふん。君はそうやってまた僕を甘い言葉で誘惑して東軍と戦わせたいのだろう!」
ちょっと怒った口調である。
(ま、まさか?俺が男ってバレた?)
そもそも、アナスタシア高等部が女子校で、そのエリアに入るのに女装させられた俺を一目見て惚れたのが長谷家部との馴れ初めである。コイツの視力が戻ったということか?だが、長谷家部の言動を分析すると男ってバレたわけでもなさそうだ。
「どうしたの?守人さん?わたし、何か悪いことしました?」
「・・・・・・・」
長谷家部の奴、黙っている。でも、立ち去ろうとはしない。まったく、面倒くさい奴だ。
「ねえ、守人さん、関ヶ原で戦勝のあかつきには、私とプールに行きましょう!わたし、守人さんのために新しい水着買ったんですよ。ちょっと恥ずかしいけど、ビキニでハイレグの…ハイビスカスの派手な感じなんだけど」
「ほ、本当に!」
(手応えあり!)
と俺は心の中でニヤリとした。だが、長谷家部の奴、一瞬見せたニヘラ顔を元に戻す。その程度では譲歩しないということらしい。
「ねえ、私とプールはイヤ?じゃあ、夏休み最後に高原の貸別荘でお泊り旅行もいいよ」
どうせ、関ヶ原の決戦で勝てば、左近ちゃんは消えるのだ。俺は長谷家部にはたまらない申し出をするのに遠慮はしない。
これには長谷家部の奴も、
「え?それ、本当?左近ちゃん!」
と思わず叫んだが、頭を2、3度振ると、
「そ、そんな嬉しいこと言ったって、僕は許さないんだからね!」
と言ったのだった。どうも、様子がおかしい。
「ねえ、守人さん、どうしちゃったの?」
「君は…君は、そんな可愛い顔して…僕は知ってるんだ!」
「な、何を?」
(やっぱり、俺が男ってバレたか!)
学校で着替えを覗かれたのだろうか?それともアナスタシア高等部に問い合わせて、島左近(鈴音)なる女学生が在籍してないことを知ったのか?それとも、前にあった部活の先輩が俺のことを思い出したのか…。バレる要素は限りがない。
「君はあのマンションで男と同棲してるんだろう?アイツは何だよ!」
「はあ?」
「とぼけたって無駄さ!君の住んでいるマンションに行ったら、君が入った後に男が出てきたのを見たんだ。アイツは僕も知っている」
「はあ?」
俺の頭の中も混乱している。一体どう言うことだろうか?
「アイツは島大介って奴で、女を次から次へ取って変える女たらしさ。そんな奴と同棲してるって…いや、待てよ!苗字が(島)って、まさか、左近ちゃん、奴と、け、結婚を!」
長谷家部の奴の脳内ワールドが広がる。
「ふふふ。左近ちゃんは可愛いね。大丈夫だよ。俺が優しくしてあげるからね」
島大介に部屋に連れ込まれ、ベッドでキスされた左近ちゃんが押し倒される。
「いや、左近、怖い…」
「大丈夫だよ。はい、脱ぎ脱ぎしましょうね。大丈夫、痛くないからねえ~」
悪魔のようにするりと左近ちゃんの服を脱がす。あっという間に白いブラとパンツのみ。
「は、恥ずかしいよ」
「大丈夫、大丈夫。俺は百戦錬磨だからねえ!君もこれで一人前の女だ!俺の嫁になれ!」
「きゃあああああ…」
ポロリと白いバラの花びらが落ちていく。
そんな長谷家部の脳内劇場が見えたなら、俺は卒倒しただろう。なにせ、鬼畜な自分が女装した自分を襲うのだ。ありえない…それに、俺が百戦錬磨だって?どんな噂を信じているのだ、長谷家部の奴は?俺は正真正銘の童貞君です!
「見たって、守人さん、私の住んでいるところ知っているの?」
「この前、君を学校で見かけて後をつけたんだ。そしたら、学校の近くの高級マンションに消えて…。そしたら、しばらくして、その部屋から男が出てきたんだ。僕はずっとマンションを見ていたけど、その男が帰ってきてから次の日まで君は出てこなかった。ということは、ということは!」
(バカ野郎!ということは、お前がストーカーってことじゃないか!)
俺は心の中でするどく突っ込んだが、長谷家部の奴、
「ということは、少なくとも君は処女じゃないってことだろう!」
例え、ゲームの中とはいえ、大声で叫んで欲しくない言葉だ。
「は、長谷家部さん、ヒドイよ」
「もういいんだ。僕たちは終わりだ。僕の下から去ってくれ!」
長谷家部の奴、急にドラマ気取りのセリフを吐く。この野郎、恋愛ドラマの主人公になりきっている。どうやら、俺が男で左近ちゃんが女装した偽キャラであることはバレていないらしい。だが、状況は深刻だ。
「じゃあ、関ヶ原のゲームはどうするの?」
「こういう状況だから、美鳴ちゃんのためにも戦いたいけれど、勝ち目がなさそうだから、僕は自分のキャラだけ守ってゲームを離脱するよ」
「そんなあ…」
後から思えば、
「あれは兄ですとか、私はそこには住んでいません、見間違いでしょ…」
とか弁解することも考えられたが、長谷家部の奴、陣に引きこもってしまったので、それもかなわなくなってしまった。なんとか、奴の誤解を解きたいが、そもそも、女装して騙していたことも事実なのである。彼をつなぎとめる方法に無理があったことも否めない。
面倒くさい男、長谷家部くん、ストーカーはやめましょう。いくら、左近ちゃんラブでも困ります。




