真田は強いアル!かかって来いアルよ!(四)
ついに上田城戦に決着が・・・。雪之ちゃんの圧勝?
「くくく…まったく大人は馬鹿アル。こんなに簡単に引っ掛かかるとは!」
雪之ちゃんは、敵の動きがあまりに自分の想定通りで呆れ返ってしまった。最初の300が陽動と思わせるくらいは計算済みであった。敵がこれを無視することも。だから、この300の方が自ら率いる本軍であった。敵が無我夢中で追撃している右翼が囮であり、影武者の幸村である。
「ここで特殊能力(縮地)発動するアル!」
縮地は、雪之ちゃんが最近覚えたゲーム上の能力である。効果は自軍を一瞬で移動させること。疾風や極疾風とは違い、敵陣にワープするのだ。但し、動かせる軍は300程度の小勢。だから、使いどころは難しい。敵の本陣を一気に襲えるが、守りが硬ければ自分の方が敵陣に孤立する技だ。だから、今回のように本陣の兵を追い払う必要があった。
左の林にいた300の真田雪之ちゃんの本軍は、一瞬で徳川秀忠の本陣に現れた。すぐさま、護衛の兵を切り伏せ、秀忠に迫る。
「こ、これはどうしたことだ!なぜ、真田兵がここにいるのだ!」
「それはお前がこのゲームのこと知らないからアル。早く死ぬアル!」
「うぎゃああああ!馬鹿な!私が討ち取られるなど…ありえない!」
「往生際が悪いアル!」
雪之ちゃんが、槍を振るって秀忠の首を一瞬で上げた。
「真田幸村!徳川秀忠の首、討ち取ったり~い」
これが実際の徳川軍だったら、復讐に燃えて真田勢に襲いかかってきただろうが、東宮院ファンド社員は混乱して逃げ惑うばかりであった。しかも、機会を伺っていたバイトで雇われていただけの外様大名たちが、チャンスとばかりに裏切りを始めた。ウロウロするだけの東宮院社員が扮する大将格を次々と討ち取り、経験値を荒稼ぎする。
ゲーム終了の午後10時を過ぎた時には中山道を進んだ東軍3万4千は雪が溶けるように消失した。
「馬鹿な!どうしたらそういう馬鹿な結果になるのだ!」
是清は携帯電話に怒鳴り散らす。いくらなんでもありえない。確かに副社長以下の社員はゲーム素人であったが、10倍以上の戦力差があったのだ。関ヶ原の戦場にたどり着けないだけでなく、全滅するとは…。
「社長、こんなゲームルールを自分は聞いていません。こんなこと知っていれば、私はもっとうまくできました」
「言い訳はするな!無様な真似をしやがって!」
「しかし、社長。たかがゲームじゃありませんか!」
「これはたかがゲームじゃない。結果はビジネスに直結するのだ。それを理解していない人間は我社にはいらない」
「そんな社長!」
「とにかく、貴様はゲームから除外だ。敗残兵は総務部長がまとめているのか?」
「いえ、彼も戦死したようです」
「揃いも揃って役たたずが!」
是清がゲーム画面で確認すると、真田雪之は寝返った信州、甲府の外様大名と共に江戸へ侵攻中である。
(この関ヶ原には間に合わないと見ての次の一手か。だが、江戸には2万の軍が守備中だ。簡単には占領することはできない。上杉も伊達に背後を取られては江戸侵攻などできない)
そう是清が会津戦線を確認すると、恐るべき状況を知ることになる。
伊達軍と上杉軍が合流して、移動しつつあるのだ
「馬鹿な!あの男、裏切りやがったのか!」
東宮院是清が最も注意を払ったのが、この伊達政宗プレーヤー。報酬は他のプレーヤーを圧倒する300万円。これは手付金で、戦勝の後にはあと500万円払うと約束していた。無論、戦勝したあとは反故にするつもりではあったが。その男がこともあろうに上杉と結託して、江戸攻めをしようというのだ。
「許せん!関ヶ原で勝ったら、奴をキャラロストさせてやる!」
伊達政宗プレーヤーは、ネットでも有名なゲーマーであった。かなり初期の頃から参戦していた男で、利に聡く、抜け目のない男であった。そんな男だから、「利」で釣れば大丈夫と思っていたのだが、どうやって上杉が引き込んだのか…。
実のところ、直江愛ちゃんの交渉力の賜物であった。彼女に言い寄られた伊達政宗プレーヤーは、愛ちゃんの魅力に残り500万円の利益など吹き飛び、キャラロスト覚悟で上杉と連合軍を組んだのであった。
「宇都宮の軍に守備させておけば、そう簡単に江戸までは来れないはずだ。早く、関ヶ原に向かい、美鳴のやつを撃破すればそれで済むことだ!」
是清は急ぎ、自分の軍を移動させる。浜松を通過し、今日中には尾張清洲城に入れる。明日には東軍の前線基地である美濃赤坂に到着するはずである。
直江愛ちゃん、恐るべし・・・。
西軍が各地で圧勝してます。これなら、美鳴ちゃんも安心かな?




