真田は強いアル!かかってこいアルよ!(壱)
関ヶ原の主戦場では何だか不穏な空気が流れていますが、今回は信州上田城を守っている歴研の最年少部員、真田雪之ちゃんのお話です。東宮院ファンドのおエライさん方を相手に戦います。
中山道を進む東軍3万4千は、東宮院ファンド副社長が率いている。彼を中心とした徳川譜代の諸将はすべて、東宮院ファンド社員であり、ほんの一部が金で雇われた外様プレーヤーであった。そんな身内の中にいるから、総大将である徳川秀忠を演じる副社長は気楽であった。
(社長も困ったものだ。こんなお遊びゲームごときに夢中になって…)
副社長は是清よりも5歳年上であり、大手銀行の若手有望株として働いていたところをヘッドハンティングされた経歴を持つ。外資系の投資ファンドや金融機関とタフな交渉を担当しており、こんなゲームをしている暇はないと思っていた。
だが、ストンデングループ買収の件は重要案件であるので、このゲーム結果がビジネスに大きな意味を持つことは一応理解していた。
「だからと言って、たかがシミュレーションゲームだろ?しかも相手は女子中学生じゃないか?中坊ごときに大人が、しかも日本最高学府を出た私の頭脳に勝てるはずがない。まったく、時間の無駄だとは思わんかね?部長?」
そう行軍で自分のサポート役になった総務部長に話しかける。
「はい、副社長。まったく同感です。君、副社長にコーヒーをお持ちしろ」
そう傍らの秘書に命ずる。一応、東宮院ファンドの社内の大会議室でこのゲームをしている。役割がある社員10名とサポートする社員で総勢15名ほど、部屋でパソコンを広げ、ゲーム画面を見ている。
「あれが上田城か?ちっぽけだな」
「副社長、いっきに攻めますか?」
「まあ、待て。一応、社長から警戒するようにとは言われている。中一の女子に警戒するとはバカバカしいが、敵は3千ほどなんだろう?」
「はい。3千5百程度です」
「こちらは3万4千。こういうゲームは、要は数の勝負だ。多少の小細工もこれだけ違うとまったく意味がない。まず、降伏するよう勧告したまえ」
「はっ。副社長」
「こんな城、さっさと落として関ヶ原に向かおう。社長は来なくていいとは言ったが、こちらにも思惑はあるんでね」
副社長はこんなくだらないゲームでも、一つだけ意味があると思っていた。ゲームで活躍すれば、大投資家の五代帝治郎に目をかけられるかもしれない。少なくとも近づくきっかけになるはずだ。自分は将来は独立してファンドを立ち上げたいと密かに思っていたので、今回、自分の働きが目に止まれば、その際の資金援助もお願いできるかもしれないと計算をしていたのだった。
東軍から使者を迎えた真田雪之ちゃんであったが、もう心の中で作戦は決めていた。
「おじさん、なに血迷ったアルか?この上田の地でゲームから除外して欲しいアルか?」
と使者に冷たく告げる。使者役の東宮院ファンド係長が、
「お嬢ちゃん、怒られないうちに降伏した方がいいんじゃないのか?」
と思わずリアル口調で勧めたが、雪之ちゃん取り合わない。
「かかってこいアル。ここで負けて会社をクビになりたいアルね?」
「それとも、わたしを倒して冬のボーナス査定アップを狙うアルか?」
と挑発さえした。
史実の上田攻防戦は、真田昌幸、幸村父子の巧妙な心理戦から始まる。彼らの目的は、時間稼ぎであったから、最初は降伏する振りをして時間を稼ぎ、次に論争を持ちかけて時間を稼ぎ、ついに開戦となったら優れた戦術で時間を稼いだ。
だが、今回の場合、東軍は大軍ながらもゲーム素人が軍の中枢を担い、しかも、ゲーム自体を馬鹿にしている様子であった。上田城に進行する布陣を見ても、兵種がバラバラでいい加減な感じであった。多分、兵種の特性も移動のさせ方もよく分かっていないだろうと雪之ちゃんは看破していた。マニュアルを熟読しておけば分かることすら、十分やっていないようである。
「こういう場合は、相手を激怒させて、まずは一戦し、これを叩くアル!」
雪之ちゃんが、予想したとおり、副社長(徳川秀忠)は激怒した。
「小娘が!ちょっと優しくしてやったことが理解できないようだな。総務部長、お前がちょっと行って、小娘の尻を叩いてこい!」
そう言って、総務部長扮する大久保忠隣に兵1万を与えて攻撃を命ずる。1万の軍勢が上田城城下に押し寄せる。だが、兵種をよく整理していないので先頭が足軽の槍隊、その後ろに弓隊、その背後に騎馬隊とスピードを考えていない。鈍足の足軽槍隊に阻まれ、騎馬隊が立ち往生している時に、左右の茂みから強烈な銃撃が行われる。
あらかじめ、雪之ちゃんが隠していた鉄砲隊200が次々と動けない騎馬隊を射撃して撃ち倒す。
「くそ、左右の鉄砲隊に攻撃!あれ?こちらの鉄砲隊は?こっちの方が数が多いのに!」
慌てた総務部長は鉄砲隊を置いてきたことに気がついた。慌てて前線に移動させる。ドタドタと鉄砲隊1千が田舎道を駆けていると、左右の林から騎馬隊300が襲いかかる。伏兵だ。最初からこの鉄砲隊を狙って、足軽隊や騎馬隊は無視したのだ。
騎馬隊に至近距離から攻撃されては鉄砲隊はなすすべがない。
「いかん、急ぎ、救援を…」
総務部長は部下に命じて前線の足軽槍隊2千を慌てて反転させて、鉄砲隊の救援に向かわせる。
「バカある!敵の目前で槍隊の背を向かせるとは、本当に大人アルか?」
真田雪之ちゃん自身が率いる1千の軍勢が城門を開いて撃って出た。背後を取られた槍隊ほど弱いものはない。たちまち、半分の兵力に散々打ち破られ、敗走していく。
雪之ちゃんは、主人公曰く戦術の天才。最高学府を出ていると自慢しているおっさん達をバッサバッサと斬りまくる!気分爽快?




