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どうしてわたしの命令が聞けないの!(弐)

微妙に史実とずれていくゲーム展開ですが、西軍が一度も勝ったことがないというこのゲームのプログラムによる因果律が影響してきます。今のところ、順風満帆な感じではありますが・・・。

「美鳴様、島左近様、岐阜城よりお戻りになりました」


そうゲーム画面の家来に報告されて、美鳴はすぐ俺に会いに来た。俺は一応、彼女の家来であるから、通常は主君に俺の方から会いに行くのが筋だが、我姫は可愛いところがある。


「さ、左近、よく無事で…」


 相変わらず、バーチャル画面の美鳴はきらびやかな和服風の戦闘服に軽く鎧パーツを付けていて、姫武将としてのスペックを落としていない。それにしても、岐阜城攻防戦中の2日間、リアルでも美鳴に会っていなかったが、よく考えてみれば、美鳴は俺の部屋の直結エレベータで行けるところに住んでいるのだ。2日間、ゲームで一緒に過ごした織田麻里さんは、リアルでは東京に住んでいるわけで、何だか不思議な感じがする。


「姫、岐阜城、死守しました」


俺はそう美鳴に報告する。何だか美鳴の奴、ボーッと俺を見つめている。


「ん?どうした?美鳴?」

「な、なんでもないわ。よ、よくがんばりました」

「敵は清須方面に撤退したが、どうして浮竹さんと一緒に迎撃しなかった?」

「そ、それは、我が軍はまだ劣勢ですから、大事を取ったまでです」

「強気の美鳴らしくない」


 俺はそう言ったが、いくら強気で傍若無人の美鳴でも、やはり女の子だ。戦の判断を一人でやれというのは酷だろうと俺は思った。


「ふん。それより、大介!」

「急になんだ?」

「あなた、岐阜城で浮気はしてませんよね?」

(ギクッ)

「し、してません」

「ふ~ん。なんだか、怪しいわ?」

「してませんよ。織田麻里さんは、現役アイドルだぜ?俺なんか相手にしないって」

「どうだか…。悔しいけれど、あなた、何故かモテるのよね。でも、モテるからって、女の子を泣かせたら、わたしが承知しないんだから!」

「はい。美鳴は泣かせません」

「ば、バカ!わたしじゃないわ!」


 そう言ったが美鳴はなんだか、嬉しくてニヤニヤしてしまうのを抑えられなかった。


「美鳴様、小谷吉乃(大谷吉継)様の軍団が北陸より、只今、到着しました」

「よ、吉乃が!」

「吉乃ちゃんか…」


 俺が小谷吉乃ちゃんとリアルで会ったのは、夏合宿の時以来。ゲームの中でも随分と会っていない。彼女は現在、病院から自宅に帰り、療養中であるが、約束通り、1日2時間だけゲームに参加してくれていた。


関ヶ原キャンペーンモードが始まって、彼女は自分と自分の与力に付けられた諸将をうまく使いこなし、北陸戦線で圧倒的な勝利を収めてきた。史実でも大谷吉継は、この方面の西軍参加の大名を増やし、東軍の北陸方面位における中心の加賀前田家を翻弄した。このため、前田利長は、釘付けにされて関ヶ原に参戦することはできなかった。


 吉乃ちゃんは、史実以上に活躍していた。彼女の魅力に心酔したこの方面の東軍参加者は、こぞって東軍を見限り、現在、金沢城にこもる前田利長(東宮院ファンド社員)を包囲していた。


「吉乃、よく来てくれました」

「美鳴、今のところ、順調のようね。左近様もいろいろあったようですけど、無事でなによりです。美鳴のこと、よろしくお願いしますわね」

「は、はい。吉乃ちゃん」


 俺は吉乃ちゃんの何とも言えないほんわかした雰囲気にボーッとなてしまう。この子にはそういうカリスマがある。北陸方面の東軍がこぞって寝返ったのも分かるような気がした。


「彼らの報酬が微々たるものであったからということもあります」


 北陸方面の作戦結果を報告した吉乃ちゃんは、そう言って微笑んだ。この方面は自分の腹心を送り込んで演じさせた前田家で十分と思った東宮院は、東軍参加者の報酬を適当に設定したようで、1、2万円程度で雇っただけらしい。金に糸目をつけない東宮院にしてはケチな話だが、その話が本当なら北陸方面の社員が出し渋ったか、それとも自分の懐にでも入れたのかもしれない。


「東軍の弱い部分ですね。奴自身は強大でも、これだけ広い戦域を一人では把握できない。信頼できるのは金のみ。金に目のくらんだ連中は、伏見城のように戦況が悪くなるとさっさと逃げ出す」


「そうね。左近のいうことはもっともだわ。その点、私たち西軍は、お金じゃない人間関係でつながっている。私たちが負けるはずがないわ」


 美鳴がそう言う。東軍が有利といえども、人間関係の希薄さが弱点ではある。


「ですが、清須に引き上げつつある東軍先鋒は侮れません。彼女らは報酬では動いていないようですね」


 吉乃ちゃんの指摘通り、非常に皮肉な話であるが、この東軍先鋒隊4万の中核は、美鳴憎しで集めた軍団であり、「利」で集めた東軍でなく、西軍のように「情」で集まった軍団であった。美鳴の言う「人間のつながり」でいけば、「負のつながり」なのである。


 いずれにしても、小谷吉乃ちゃんの軍団、約5千が到着し、東軍と戦力比が近くなった。吉乃ちゃんの戦闘力があれば、東軍を蹴散らせるかもしれない。


「どうする美鳴?清洲城を攻めるか?」

「城攻めするほど、わたしたちはまだ兵力が集まっていないわ。伊勢路から来る毛利の軍団と大津の瑠璃千代たちを待ちましょう」


 俺自身にも迷いがあった。岐阜城で戦ってみて、東軍先鋒は意外に手ごわいことはよく分かっていた。美鳴の言う通り、こちらの戦力が整ってからでも遅くはないかもしれない。ただ、江戸から東海道を進む東宮院是清(徳川家康)本隊がいつ来るかということも関係してくる。

 

 現在、直江愛ちゃん情報では、東宮院は会津に2万ほどの兵を残して江戸へ引いている。愛ちゃんの上杉勢は、東宮院に加担する伊達政宗と交戦中で、江戸への遠征が行えない状況。戦いは一進一退であった。中山道を進む東軍の別働隊は、まもなく、真田雪之ちゃんが守る信州上田に到着する予定である。


この大軍をどう食い止めるかが、この歴研最年少メンバー、雪之ちゃんにかかっていた。


美濃方面の主戦場と、真田雪之ちゃんが戦う中山道、直江愛ちゃんの戦う会津方面、そして、押しかけ女房の立花瑠璃千代ちゃんが戦っている大津城攻防戦。結構、書かなきゃいけないことがたくさんある。どれも勝利しないと、西軍が負ける因果律を断ち切れない!

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