どうしてわたしの命令を聞けないの!(壱)
岐阜城攻略を諦めた東軍は、大垣城と対する赤坂に野陣を構えます。各地に散っていた西軍も徐々に集結してきます。まずは、東宮院の元恋人で、今は復讐の鬼となっている浮竹栄子さん。彼女は宇喜多秀家を演じていて、総兵力1万8千と、西軍最大の野戦兵力を持っていました。
「美鳴様!伊勢路から、宇喜多備前中納言の軍勢、1万8千が到着しました」
伝令の兵が美鳴の陣営に現れ、報告をする。
「来たようね!」
美鳴はこれまでの不安が解消されていくのを感じた。この美濃において、圧倒的に兵力差があり、東軍の先鋒隊に岐阜城が囲まれ、火のように攻められているというピンチから救われた気がしたのだ。
「これで左近も帰ってくる」
そう傍らに控える狩野舞が、つぶやいたのを美鳴は聞いた。
(そう、これで東軍は撤退するはずだわ。岐阜城から左近が帰ってくる)
美鳴は心の中で島左近という年上の男性がとても頼もしく感じている自分に気がついていた。左近というか、島大介のことを思うと心臓がドキドキしてくるのだ。
(そりゃ、あの男とわたし3回もキスしましたよ…(1回はゲームの中だけど)鎧越しに胸も触らせました。この戦いに勝ったら、わたしを自由にしていいと言いました。だからといって、わたしがアイツのこと好きだなんて…)
美鳴は確信していた。島大介という男。この関ヶ原の戦いで勝利してもきっと、それを理由に自分を抱いたりしないだろう。彼はそんな男なのだ。好きになった相手しかそういう行為はしない。
(じゃあ、わたしとキスしたのは?わたしのことが好きだから?大介ったら、わたしのことが好き?うそ…。じゃあ、わたしの気持ちは?)
(わたしは好きでもない男とキスできる女なの?)
(舞と大介が三日も一緒に過ごしたなんて聞いて悲しくなったのはなぜ?)
(雪見さんや瑠璃千代が大介にまとわりつくと無性に腹が立つのはなぜ?)
美鳴は自分に自問自答している。美鳴は頭のよい女の子だ。こういう自分の気持ちがどういう状態なのかを理解できた。でも、美鳴は頭を2、3度振って両手でほっぺたを叩いた。
(どうした!わたし!この大事な局面でこんな腑抜けな感情になってどうするの!島大介はわたしを助けてくれるパートナー。それ以上でも以下でもない)
◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆
「美鳴、今すぐ、東軍に攻撃をかけましょう!」
浮竹栄子は、大垣城に入ってくるなり、そう美鳴に意見した。東軍は岐阜城攻めを諦め、この大垣城の目の前を清須に向かって撤退中である。千載一遇のチャンスにも見えた。
「いえ、浮竹さんの軍は長い行軍で疲れています。今は十分休養を取って…」
美鳴は消極策を唱えた。東軍は撤退中とはいえ、数は4万。こちらは浮竹栄子が加わたとはいえ、まだ3万ちょっとである。兵数ではまだ劣勢であった。
「美鳴、戦いは勢いよ。今、奴らに襲いかかれれば、勝利は間違いないと思う。あなたがやらないなら、私の隊だけでもやるわ!」
再度、浮竹栄子は、そう美鳴に告げる。
もし、進言したのが島大介だったら、美鳴はおとなしく従ったかもしれなかった。だが、浮竹栄子は途中から仲間に加わった年上の大人であり、さらにゲームレベルはそんなに高いわけでなかった。それが美鳴の判断を積極的にさせなかったのだ。
(この人が言うのも分かるけれど、万が一、東軍に逆襲されたらどうなるの?ここは左近が戻ってくるまで、城に籠るのが懸命だわ)
美鳴は栄子に、
「まだ西軍は集結していません。もうすぐ、親友の小谷吉乃が北陸から到着します。その軍勢が到着するまで、待ちましょう」
そうきっぱりと言った。小なりとも西軍の実質上の大将である石田美鳴の判断だ。浮竹栄子も渋々と従わざるを得ない。彼女は宇喜多勢を大垣城下に駐屯させることにした。
実は美鳴は、島津維新入道にも東軍打つべしと進言されていた。今、東軍に攻撃すれば勝利は確実であると…。だが、主力となる浮竹栄子の意見も聞かなくてはならないから…とお茶を濁した。栄子が維新入道と同じ意見だと知った時に、もし、美鳴がこの「戦国ばとる2」百戦錬磨の立花瑠璃千代や、素人ながら絶妙な用兵をする小谷吉乃、好戦的な織田麻里だったら、迷わず、東軍に襲いかかっていただろう。
だが、石田美鳴は気が強いようで、やはり普通の女の子だった。つい消極的な判断をしてしまった。
余談ながら、史実でも宇喜多秀家は到着後、犬山城攻めで疲れた東軍に夜襲をかけることを石田三成に進言している。だが、三成は家康が来ていないことを理由に拒否している。もし、歴史に「もし」があったのなら、この時、宇喜多勢が東軍先鋒に夜襲をしていたなら、関ヶ原の戦いに大きな変化が起きていただろうと筆者は思っている。
美鳴にとって不幸だったのは、攻撃を進言したのが島津維新入道一人だけで、彼女を支える人間の意見を聞けなかったこと。もし、彼女の側に俺(島左近)がいたら、攻撃せよと強く言って実行させていただろう。小谷吉乃ちゃんが到着していても、彼女なら同じく進言したはずだ。俺や親友の意見なら、さすがの美鳴も従ったはずだ。
こんな理由で東軍4万は、危機を脱することができた。清洲城に戻った福島帆稀以下、東軍の先鋒は、ここでおとなしく東宮院是清の到着を待つことになる。奇しくも史実と同じ展開となった。
どんどん西軍は集まってきますが、美鳴ちゃんの命令を聞かない人たちも出てきます。東軍の裏工作が徐々に進行しているような・・・。




