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西軍が集結するまで岐阜城は死守するわ!(七)

美濃では東軍先鋒と激しい戦いが続きます。その頃、江戸では2つの軍に分けた徳川家康が、関ヶ原に向けて出発をします。中山道で立ちふさがるのは、美鳴ちゃんの後輩、真田雪之ちゃんですが・・・。この話は後日です。

 その頃、江戸の本拠地では、東宮院是清(徳川家康)が、徳川秀忠を演じる東宮院ファンド副社長に命令をしていた。


「お前に我が徳川勢の半分、3万4千を与える。中山道を通って美濃関ヶ原に向かえ」

「はっ。社長」


 是清はこの中山道を移動する徳川勢に一抹の不安を持っていた。というのも、この3万4千を指揮する東宮院ファンド社員は、社内からよりすぐったとはいえ、ゲームはほぼ素人であり、副社長についてもこのプロジェクトのために練習を重ねてきたものの、用兵には不安がある。


 だが、それでもこの素人集団に大軍を預けたのは、それだけ信頼できる人間が少ないことを物語っていた。金で雇った高レベルの一般人では、もし、万が一裏切ったら困るのだ。その点、この副社長は器から言っても裏切れないと判断していた。優秀だが全てにおいて、マニュアル通りに動く男で、是清の出す命令を忠実にこなすことは一流であるが、自ら動く度胸はない。だからこそ、自分の右腕としていた。ある意味、優秀であって野心がない人間は貴重であった。


「途中、信州上田に真田幸村が立ちふさがっている」

「それは無視して関ヶ原に向かいます」


 副社長は一流大学出のエリートだけに、自分が演じる徳川秀忠がこの城のせいで関ヶ原に遅参するという大失態を演じたことを知っていた。1万ほどで取り囲み、自分は戦場に到着するのが使命と思っていた。だが、社長の答えは意外であった。


「決戦に間に合わなくてもいい。上田城は攻め落とすか、降伏させろ」

「え?それでは、3万もの大軍が決戦に使えません」


「それは想定内だ。それより、あの小娘の後輩が無残にも破れるなり、降伏するなりした方が、精神的ダメージを与えられる。リアルのな…」


 そう東宮院は言った。真田幸村を演じる、真田雪之はまだ中学1年生で、「戦国ばとる2」を始めたばかりである。猛練習でレベルを上げたとはいえ、たかだか2千程度の兵力で3万余りの大軍をどうかできる訳がない。


 江戸から徳川秀忠率いる3万4千が出発する。同時に東宮院自身も江戸を出立することにした。少しだけ懸念していた会津情勢は膠着状態であった。会津後方の伊達政宗には、破格の金銭を使い、買収をしていた。そして、彼は契約通り、会津領に侵入して上杉勢を牽制していた。今のところは予定通りであった。だが、人間はそこで心変わりをするか分からない。


 伊達政宗プレーヤーも金よりも徳川家康を滅ぼすという誘惑に負けて、裏切る可能性もないとはいえなかった。また、直江愛が、サラリーマン景勝を説き伏せて、勝敗無視の狂気の遠征をさせる恐れもあった。その2つがない限り江戸は安心であった。


(それでは、僕もそろそろ動こうか。さあ、美鳴、君はどう動く)


 東宮院是清は、上方への遠征軍3万を動員し、出発した。当面の目標は美濃の国、関ヶ原である。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺は手勢1500と共に岐阜城に入城していた。大将である織田麻里さんに謁見中である。


「島左近、よく来てくれました。あなたを援軍に差し向けたということは、美鳴さんはこの岐阜城を見捨ててはいないということですね」


「見捨てるなんて。我主君はこれぽっちも考えていません」


 これは事実である。というより、戦略的にも戦術的にもこの織田麻里という人物は重要であった。なにしろ、戦国ガールズの中心メンバーで現役アイドルである。注目度が違っていた。ネットのつながる向こうで、何千何万というユーザーがこの関ヶ原キャンペーンを見守っている。この状況を作ったのは彼女の西軍への参戦が大きい。


「で、敵は犬山城を落として、火の出るような勢い。あの勢いで攻められたら、この岐阜城も危ういですわ」


「確かに敵は損害も恐れず向かってきます。ですが、この岐阜城は天下に聞こえた名城。上手に戦えば、西軍主力が美濃に達するまで守ることができます」


 城の防衛が成功した例はいくつかあるが、それには共通した出来事がある。それは、援軍の有無である。孤立無援の城はどんな堅城でも、必ず落ちる。だが、援軍が到着したり、戦略的に外部情勢が変わり、攻め手が撤退するしかない状況を作れば守り切ることができる。今回の場合は、西軍主力がこの美濃に到着することだ。


「では、左近にすべて任せます。現在の守備状況を説明しなさい」


織田麻里は家老二人に城の様子を説明させた。


二人ともベテランゲーマーだけに卒のない守備プランを作っていた。適材適所に兵種を設置し、分厚い防御網を築いていた。


「なかなかの守備だが、これだけでは敵の勢いは止められない」

「では、左近殿はいかがいたす」


そう家老の木造具正と百々綱家が問う。


「城を攻めるルートは3つ。それぞれ、七曲口、百曲口、水ノ手口の守備陣はさすがだ。ですが、守るだけでは敵の勢いを止めることはできない。特に敵の中心、福島勢が攻める七曲口の大手門の守備をもう少し厚くし、敵を疲弊させる。そうした上で我隊で夜襲をかける」


「夜襲とな?」


 2人は思い切った提案にしばし考えた。確かに、東軍諸隊は連戦に次ぐ連戦で疲れている。最初の城攻めで疲れたところを攻撃されれば、効果はありそうだ。


「左近殿、よく分かった。その策でいこう」

「それでは、木造殿は大手門、百々殿は搦手を任せる。特に福島勢が攻めてくる七曲口は激戦になることが予想されるので、木造殿は十分注意されたし」


「左近、わたくしはどうすればよいのじゃ?」


そう織田麻里が尋ねる。


「おひい様は、本丸で我らの戦いぶりを応援してくださればよいのです」


 織田麻里親衛隊のメンバーでもある両人が言う。俺も同感であった。織田麻里自身の能力も捨てがたいが、ここはカリスマとして本丸に構えていたほうが、守備側の士気を高めるというものだ。


「織田さんは、歌を歌って士気を高めてください」

「ふふふ…そうね!わたくしは歌手ですから、それも一興。でも、あなたたちが不甲斐ない戦いをしたら、このわたくし自ら指揮し、東軍を蹴散らしますから!」


 強気なところは美鳴と共通していると俺は思った。生き馬の目を抜く芸能界で活躍する人物だけのことはある。


「敵が動き出しました!七曲口、百曲口、水ノ手口に押し寄せてきます」


物見の武者が敵の侵攻を告げる。


「それでは、みなさん、敵に織田の力を見せて、黙らせてあげなさい!」


織田麻里さんがそう命令を告げた。


さあ、本格化する岐阜城攻め。主人公は見事に守りきれるか・・・。

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