西軍が集結するまで岐阜城は死守するわ!(四)
今回は主人公を巡る女の戦いと美鳴ちゃんのツンのお話です。西軍、戦う前に崩壊してしまうぞ!
「あ、あの舞さん」
俺は思い切って話しかけた。でないと、何だか重苦しい雰囲気であったからだ。
「な、なんだよ」
「もう大丈夫ですか?」
俺は身内にあんな仕打ちをされた舞さんの心の傷を案じた。相当傷ついているはずだ。すると、舞さんは俺に近づき、急に俺の胸に額をつけた。
「お前は優しいな。私は男嫌いで、男と変なことするくらいなら、家を出てやると思っていた。でも、今はちょっと違うんだ」
「ち、違うって」
「お前ならいいような気がする」
「え、え~っ!」
俺は固まった。ちょ、ちょっと待て!狩野舞さんは、男嫌いのツンキャラだ。立ち位置は美鳴とかぶる。メインヒロインとかぶるキャラはややこしい。このまま、ラブコメ路線突入じゃあ、まずいだろう!
でも、あの3日間監禁事件は、十分なフラグである。
「いや、お前には美鳴がいるし、そ、そのなんだ。私はお前を婿にするとかじゃなくて、お前の子供を産んでもいいぐらいのつもりだからな!」
顔を真っ赤にして告白する舞さん。
いや、本命はヒロイン美鳴に譲るけれど、あなたの子供は生んであげるわ!である。
この言葉、すごいですから!
だが、俺たちの様子を偶然、聞いてしまった人物がいた。手にしたお菓子を思わず落としたその人物。小西雪見ちゃんであった。彼女は伏見城攻撃に参加して、維新入道と一緒に今日、この美濃に到着したばかりであったのだ。京みやげのお菓子を持参して俺に持ってきたようだ。
「ゆ、雪見ちゃん!」
「だ、大介さん、これはどういうことですか?」
「どういうことって、雪見ちゃん?聞いてる?」
雪見ちゃんの目の中は炎である。俺の言葉は聞こえていないようだ。雪見ちゃんは、自分の前では寡黙キャラであったはずだが、この状況を見て、元レディースヘッドの血が蘇ったのか、びっくりするぐらいの大きな声で、
「狩野舞!大介さんから離れなさい!この泥棒猫」
「な、なんですって?誰が泥棒猫ですって?」
なぜか、いきなり修羅場だ。しかも、二人ともかなり険悪な状態だ。
「まあまあ、二人共、ちょっと、落ち着いて」
俺は割ってはいるが、
「大介は黙っていて!」
「大介さんは黙っていて!」
と同時に言われる。二人共、目にはメラメラと嫉妬の炎が燃えたぎっている。これはやばい状態だ。小西行長と舞兵庫が、大垣城で刃傷沙汰になってしまう。
オロオロしてしまう俺。女の子二人が俺を巡って争うなど、小学校2年生以来だ。あの時は、縄跳びを一緒にやるか、折り紙を一緒にやるかで両手を引っ張られて、あまりの痛さに俺はわんわん泣いてしまった。女は小さくても恐ろしいのだ。
「どうしたの?大介、いや、左近?」
そこへ石田美鳴までやってきた。織田麻里さんの使者との謁見はもう終わったようであった。でも、この状況はまずい!非常にマズイ!俺を巡って争っている二人の女の子にあの美鳴である。恐怖のトライアングルに俺は閉じ込められてしまう。
「これはどういうことですか?雪見さん、舞?」
小西雪見ちゃんは、美鳴を一目見て、
「あ…あなたには…関係ない」
舞さんは舞さんで、
「本妻は口を挟まないで!」
と取り合わない。なので、俺は例のごとく、美鳴の奴に耳を引っ張られて天守閣から引きずられ、小部屋に連れ込まれる。
「左近!今は大事な決戦なのに、色恋沙汰で西軍を崩壊させるつもりですか!」
「いや、美鳴、俺はそんな気はないですから」
「いいえ!わたしは知っているんだからね!あなたが…その…舞と…」
「何を知ってるんだ?誰に聞いたんだ?」
「ふ、風魔の小太郎よ!あいつのメールで、あなたが舞さんと一緒にいるって!」
(風魔の小太郎!ちゃんと説明してくれ。完全に誤解されてる)
「一緒って、別に一緒にいたからって、俺たちはやましいことは…」
「いいの!」
美鳴の奴、何だか目をウルウルさせている。コイツ、泣いているのか?
「あ、あなたは、そりゃ、健全な男ですから…舞と三日も夜を共にすれば、そりゃあ、え、え、え…」
美鳴の奴、目から涙がこぼれつつ、顔を真っ赤にしている。
「え、エッチなことしてしまうと思うけど…」
「してません!してません!天に誓って舞さんには指一本触れてません!」
(ごめんなさい。俺、うそ言いました。指一本触れてないはさすがに嘘。指一本どころか、あのボディに密着して寝ました。でも、それだけです!)
美鳴の顔がパーっつと輝く。まるで分厚い雨雲から、日の光りが差したみたいだ。
「ば、バカね!左近、あなた、本当に馬鹿な意気地なしの童貞くんだわ。女の子と三日も一緒に暮らして手を出さないなんて、草食も草食。あなた、羊かヤギね」
「羊かヤギって…美鳴、それはひどくないか?」
そう言いたくなる。誰のために手を出さなかったと思うのだ、この女は!
でも、言葉とは裏腹に美鳴は俺の側にそっと寄ってきて、俺の鎧の端をキュッと掴んだ。
「大介、あなたが肉食動物になる時があったら、私にならちょっとぐらいいいからね」
「え?ちょっとって…」
「もうバカ!童貞君はこれだから、空気読んでよ!」
(いや、お前も処女だろ!)
「だから、Hしたい時は私に言えばって言ってます!」
「み、美鳴、お前…」
美鳴の奴、俺の手を取って自分の慎ましい胸に触らせる。
(慎ましい上に鎧の胸当てで感触分かりません!)
そして、俺の首に手を回してキスをしてきた。ちょっと長いキスだ。
「でも、最後まではダメ。それは勝利の後にね」
「美鳴~」
俺はあまりの可愛さにもう一度、キスをしようとしたが、美鳴の奴、急に俺の頬をひっぱたく!
「痛!」
「ちょ、調子に乗らないで!左近、主君に自らキスしようなんて10年早いわ!」
ピロリン…と美鳴のパソコンにメッセージが。
すると、伝令の足軽が俺たちの前に駆け込んでくる。
「敵襲来!東軍先鋒隊およそ4万、清洲城に入りました」
「なんですって!」「なんだと!」
美鳴ちゃんはカワイイが、舞さんも雪見ちゃんも捨てがたい。瑠璃千代もそうだし・・・吉乃ちゃんにあの岐阜城のおひい様も・・・。責任取れるんだろうなあ?
主人公よ。