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真夏の蛍は賑やかに踊り、桔梗は語り部にならず

作者: 遠野秀一

そうじたかひろ様主宰による短編企画「秋風月に花束を」の参加作品です

今起こっていることを、ありのまま話そう。

私は一年振りに幼馴染と会った。

こうして言葉にすると、思ったより驚くようなことじゃない気がするから不思議だ。私としては人生の中でも四番目くらいに驚いたのだが。事情を長々説明する気もないので、再会の感想については置いておく。


「……何しに来た、君は?」


ひとまず問題なのは、この幼馴染のことだ。

こいつのせいで教室中が騒然となってしまった。

騒然となった理由は言うまでもない。夏休みの講習中に無関係な奴が闖入してきたら、事情を知っていようといまいと驚くのは当然だ。

さて、最初に言うべきことだったが、私は平塚桔梗という者だ。大学進学を目指して受験勉強に勤しむ高校三年生。今も寂れた田舎の木造校舎で行なわれている夏期講習に参加していたところだ。


「決まっている。君を攫いに来た」


今、馬鹿な発言をした私の幼馴染の名は、豊橋蛍雪。名前から察するに賢い子に育ってほしかったのだろうが、結果は残念だった。


「勉強の邪魔だ、地獄へ帰れ」

「相変わらず超クール! 俺、心が折れそう!」


大袈裟なジェスチャーで悲しみを現す蛍雪。こいつは相変わらず熱い。


「っていうか、いきなり何だ、てめぇ! 無関係な奴は教室から出てけ!」


隣の席からバンっと机を叩く音と怒った男子生徒の声がした。

この教室で蛍雪の登場に動揺しなのは、やはり東家君だけだった。

クラスメイトの東家君。不良に憧れているのか、悪ぶった発言とか格好が目立つが、基本はいい人だ。夏期講習にも真面目に参加しているし。


「んっ? 桔梗、こいつは?」

「彼は東家君。今年の春に転校してきた。更に言うと、一学期の終わりに私に告白してきた。まぁ、一秒で振ったが」


「それ、ここで言う必要あるのか、平塚!」

「別に隠す必要もない。あと、騒ぐようなら隣の席に座るのは止めてもらおう」

「畜生! 相変わらず、超クール!」


東家君、撃沈。何故か泣きながら机に突っ伏してしまった。


「さて、一人静かになったし、お前も帰れ。キュウリの馬を用意してやる」

「馬鹿言うな。俺はお前を攫いに来たんだ。お前の意見なんか知らん」


蛍雪は自分勝手なことを言い出すと、私の膝裏にチョップをかまし、私が体勢を崩したところを掬いあげるように抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこという奴だ。


「何をする。下ろせ」

「わぉ、超クール。ちっとも動揺見せないよ」

「あぁぁ~! てめぇ、なんて羨ましいこと!」


机に突っ伏して泣いていた東家君が起き出して、また激昂した。どうにも怒りっぽいようだ、彼は。


「ははは! じゃあ諸君、俺達はここでお別れだ! 来年会えたら、また会おう! グッバイララバイ、シーユーアゲイン!」


やたらテンションの高い蛍雪は私を抱えたまま窓から飛び出した。木造校舎の二階から飛び降りるなんて相当やんちゃな真似なせいのためか、先程までいた教室から悲鳴が響いた。

私は蛍雪の言葉どおり、見事に攫われてしまったようだ。






お姫様抱っこをされていても、歩いている場所が田舎の畦道だと今一つロマンチックさが足りない。そう思っても、蛍雪の手前なので黙っておく。

さて、それよりもいい加減、蛍雪の目的を聞かないといけない。


「で、私を攫ってどうする気だ?」

「一年前に言い忘れたことがあったから、それを言いたくて」

「……そうか。なら、とっとと言え」


私は身体を捻り、蛍雪の腕から逃れて危なげなく地面に着地する。そして、私達は夏草が茂る田舎の畦道で向かい合った。

一年前と変わらない蛍雪。

懐かしく、忘れようのない大事な幼馴染。


「もう少しムードが欲しいんだけど、時間がないし。仕方ないか」


ごほん、と咳払いをして珍しく真面目な表情になる蛍雪。顔を引き締めると、それなりに格好良くなる。


「桔梗、俺はお前が好きだ」

「あぁ、私も好きだったよ」


私達はどちらも照れることをほとんどしないため、告白はさっくりあっさり一秒で終わってしまった。これではムードがあっても、多分大して変わらないだろう。


「さて、これで用は済んだろ。いつまでも迷ってないで、さっさと地獄へ逝け」

「告白した後も超クール。まぁ、それでこそ桔梗だ」


蛍雪は苦笑いをしながら、ポンポンと私の頭を撫でた。こうして撫でられるのは久し振りなので、少しだけ感傷的な気分になった。涙が出そうだが、それだけは死ぬ気で堪えた。


「じゃあ、俺は逝くよ。来年もまた来るから」

「そうか。なら、出迎えの準備くらいはしてやろう。だが、ナスは用意しない。私が嫌いだから」

「ははは。なら、来年も歩きで帰りか。……じゃあ、またな、桔梗」


そう言って、蛍雪は颯爽と去っていく。

遠くなっていく背中に向けて、私は一言呟いた。


「会いに来てくれて、ありがとう……」


儚く消えていく蛍雪の姿を見つめながら、ふと桔梗の花言葉を思い出した。私の愛は、これからも変わらずにいられるのだろうか。それはわからない。

だが、来年の盆には、ナスは用意しない。




言わぬが花。

多くを語らぬ桔梗さんだからこその物語って感じですね。

桔梗の花言葉は、是非ともご自分でお調べください。


まぁ、でも、2000字だけでは語れなかったことも多かったので、2000時じゃないバージョンも書いてみようかなーと思ったり、思わなかったりです。多分書かない気がww


色々と思うことがあるのですが、色々と書くと本編より後書きが長くなる気がするので、この辺で終了です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。「秋風月に花束を」に参加しているsyouと申します。 執筆お疲れ様でした。 「真夏の蛍は賑やかに踊り、桔梗は語り部にはならず」拝読しました。 蛍雪くんの陽気さが寂しく感じる作品…
[一言] こんばんは、遠野秀一様。企画に参加させて頂いた、明智ひなと申します^^ 感想遅くなってしまい、大変申し訳ありません(>_<) 読み終えるまで、全くラストが読めませんでした^^; 読み返して…
[良い点] 初めまして。 こちらこそ、感想が遅れてしまい申し訳ありません。 最初のドタバタ展開から今回の企画の裏テーマであるお盆をうまく最後に持ってきていて、するりと読む事が出来ました。 登場人物達…
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