第59話
「大丈夫です。私、キャロルがどこに逃げたのか、だいたい見当がつきます。今からご案内しますよ。あ、でもその前に、水筒のような物があったらお借りしてもいいですか?」
「喉が渇いたの?」
「そんなところです」
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私とブライスは、私たちの大切な場所である例の穴だらけの草原にいる。思い出話をするためではない。キャロルを追いかけて、ここに来たのだ。
私は以前、キャロルにこの草原について語ったことがあった。いつも人の話を邪魔してばかりのキャロルが、その時は珍しく聞き入っていたからよく覚えている。何故キャロルがこの草原に関心を示したのか? その理由は、私の話が終わった後にキャロルが呟いた言葉で分かった。
『ふぅん。そんなに穴だらけなら、誰かに追われてるときに逃げ込めば、いい感じに足止めしてくれるわね』
その時の私は、まだそれほどキャロルと険悪な関係でもなかったので、冗談めかして『でも、子供の頃から走り慣れてる私ならともかく、慣れていないあなたの場合、追手と一緒に穴に足を取られちゃうわよ』と言ったが、キャロルは自信満々にこう言った。
『問題ないわ。私、運動神経いいから』
これは本当のことだった。特別な訓練をしているわけでもないのに、キャロルは飛んだり走ったりといった基本的な運動能力がとても高かった。浅はかで物事を深く考えない頭脳の代わりに、神様が運動方面の才能を与えてあげたのかもしれない。
初めてブライスと出会った時よりも随分と伸びた草をかき分けるようにして進みながら、ブライスが口を開く。
「やれやれ、草が伸びて、前よりさらに穴が見えづらくなっているね。今日乗って来たのはノームじゃないから、馬でこの草原を走るのは不可能だ。……でも、確かに追手から逃れるには絶好の場所だけど、キャロルは逃れてどうするつもりなんだろう? お嬢様が一人で生きていくなんて不可能だし、どうしようもないじゃないか」
私も草をかき分けながら、一度だけ振り返る。キャロルを追っているのは私とブライスだけだ。ブライスの側近がついて来ようとしたが、逃げたお嬢様を追いかけるより、100名のウォード兵をしっかり見ておく方が大事だとブライスに諭され、結局彼は、主の命令に従ったのである。
「それがキャロルという子なんです。頭の回転自体は悪くないのに、とてつもなく浅慮で、後先のことを全く考えていないんですよ。今はとにかく、追手から逃れたい――その一念だけで行動しているんだと思います」
「困ったものだね。逃げれば逃げるほど、心証も悪くなるというのに」
それからしばらくの間、私たちは無言で歩みを進める。そして……
「いました。キャロルです」
「うん、見えているよ。凄いな、クリスタ。完全にきみの読み通りだったね」




