第47話(エリック視点)
「その智謀、剛腕! 地方領主で収まる器ではありません! いずれは父上こそが、情けない王に変わってこの国を……」
「これこれこれこれこれこれこれ。めったなことを言うものではないぞ。……誰がどこで聞き耳を立てているか分からんからな。謀略というものは、小声でやるものだ」
「し、失礼しました」
「ふはは、よいよい。お前の気持ち、嬉しいぞ。……大きな声では言えぬが、ワシだって、今の軟弱な国王よりは、ワシの方がはるかに王者として相応しいと思っておるからな。ふはははは!」
「ははははは!」
二人で高笑いしていると、それに混ざって足音が聞こえてくる。キャロルだ。ああ、今日は本格的な戦いが始まるから来てはいけないと言ったのに。困った子だ。その困ったところも可愛いのだが。
「お父様、お兄様、頑張ってね! こ汚いフォーリーの連中をボロ雑巾みたいに引き裂いてちょうだい!」
「んん~ん、キャロルか。今日の戦は、おなごにはちと刺激が強いぞ。少なくともワシの視界に入っている連中は、女子供年寄り関係なく、全員ぶち殺すからな。たとえ生き残った者がいたとしても、見せしめのために八つ裂きにする。お前はそんなものが見たいのか? ワシは残忍な男だが、可愛い娘におぞましいものを見せるのはさすがに気が引けるなぁ」
「嫌だわお父様。その『おぞましいもの』が見たくて、ここまでついて来たのよ。私、血を見るの大好き! もちろん、他人の血限定だけどね!」
「ふはははははは! そうか! さすがはワシの娘だ! それじゃ、そろそろ始めるか。……おい」
父上が低い声で『おい』と声をかけると、私兵団の中でも近衛と言っていい10人が、前にいる兵に指示を始める。その指示にかぶせるようにして、父上が猛々しい獅子のごとき声で命令する。
「よく聞け! ワシの前で腑抜けた戦いをする者は許さん! 士気に欠けると判断すれば、近衛兵に背後から撃たれると思え! その代わり、敵を討った者に対する褒美は大きいぞ! 金をやる! 土地をやる! 女もやる! 殺せ! 殺せ! お前らは殺すために生まれてきた狩人だ! フォーリー領の畜生どもを狩り尽くせ!」
凄まじい言葉だった。闘志がなければ後ろから撃たれるという『罰』と、金、土地、女という『褒美』を同時に提示することで、いまだにやる気があるのかないのか分からない状態だった兵士たちから人間らしい思考力を奪い、一気に殺戮者に変えてしまった。
俺は感極まって、思わず涙してしまう。
「父上……俺は幸せです……! あなたの息子で良かった……!」
「ふはははははははははははは!」
ふふふ。
クリスタよ。恐ろしいか?
お前は愚かにも、この凄まじい父上と俺を敵に回したのだ。
今頃、俺との婚約を破棄したことを、死ぬほど後悔しているだろうな。
だが、もう遅い。
全ては終わったのだ。
いや、そうだな……。
泣きながら土下座して謝るなら、命だけは助けてやらんこともないな。
一度は愛した女だし、何といっても俺は優しいからな。
ふふ。
ふふふ。
あのクリスタが地に額を擦り付け、涙して俺に謝る姿。
見れるものなら、是非見てみたいものだ。




