第45話
「ええ。でも、どうしてこんなことになってしまったんだろうと思うと悲しくて。……エリックの恨みの矛先は私です。私だけが前に出て犠牲になれば、他のすべての人が助かったりはしないでしょうか」
「無理ですね。発端があなたとあの馬鹿息子のトラブルだったとしても、もうこの争いはそんな次元じゃなくなっているんです。怒れるフォーリー領の人々と、ウォード家の面子との戦いになっていますから。それに、たとえあなた一人の犠牲で争いが終わるとしても、私が行かせやしませんよ、絶対にね」
その言葉に、私は小さく頭を下げるしかなかった。
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明日の決戦を迎える前に、私は手紙をしたためることにした。もはやまともな返事が期待できない国王陛下と大公様にではなく、愛しい人――ブライスに対してだ。
『ブライスさん。お体変わりなく、元気にしていらっしゃるでしょうか? 初めてのお手紙で、ひとつ謝罪しなければならないことがあります。私は、実は厩舎の娘ではありません。本当は、地方領主レスター・フォーリーの長女なのです。高貴なる身分と思しきあなたが、ご自分の家名を名乗らなかったので、私も戯れに身分を隠しました』
ここまで書いて、再びペンにインクをつけ、もう一度気持ちを書き連ねる。真っ白な便せんに、心のすべてを映し出すように……。
『悪意を持ってあなたを欺こうとしたわけではないことを、わかってもらいたいと思います。……我がフォーリー家は現在、隣接するウォード家と険悪な関係になり、とうとう私争が始まってしまいました。国王陛下や大公様に仲裁をお願いしましたが、有効な返答はありません。今のところ死者は出ていませんが、これからはそうもいかないでしょう』
ペン先を走らせるうちに、切なさで胸が締め付けられる。脳裏に浮かんでくるのは、たったの三日に過ぎない、ブライスとの楽しい時間だった。
『私はもしかしたら、明日死んでしまうかもしれません。……ブライスさん。あなたと過ごした短い日々が、ウォード家とのことで思い悩む私にとって、最高の癒やしで、最高の幸福でした。あなたも苦しいお立場かと思いますが、どうか希望を捨てず、健やかにお過ごしください。きっと、あなたにまた会えると信じて、この手紙を書き残します。――クリスタ・フォーリー――』
言うまでもないが、他国の人質であるブライスに助けを求めたわけではなかった。ただ、本当に明日死んでしまうかもしれないのに、彼に身分を偽ったまま、そして、今の気持ちを伝えないままでいることが耐えられなかったのだ。
愛するブライスに手紙を書いたことで、ひとまず気持ちの整理はついた。これで、明日死んでも悔いは――いや、もちろん死にたくはないし、悔いばかりだが、何も書き残さなかった場合よりは、きっと良いだろう。
ブライスから貰った仲介所の住所に手紙を送ると、最後の言葉を彼に送ったような気がして、より一層の切なさが胸の中に浮かんで来る。嫌ね。これじゃ本当に明日死ぬみたいじゃない。
弱気は駄目ね。
そうよ。
エリックみたいな最低の男にやられてたまるもんですか。
私は何とか自分を奮い立たせる。
そして、決戦の日がやってきた――




