第38話
「……というわけで、ウォード家の令嬢キャロルが、フォーリー家の農民の子供を撃ったことがきっかけで、フラストレーションの溜まっていた領民たちの怒りが爆発し、一斉に私兵団に襲い掛かったんです」
事態の急転に、私はおののいた。
「なんてことなの……。それで、被害状況は?」
「不幸中の幸いと言いますか、まだ死者はいません。私兵団も、まさかフォーリー領民たちが襲い掛かって来るとは思っていなかったらしく、本格的な戦闘を始める前にいったんウォード領に下がりました」
お父様が頷く。
「うむ。彼らとしては、嫌がらせの軍事演習をする気はあっても、大した武装もしていない農民たちを虐殺する気はないだろうからな。……少なくとも、今はまだ」
私も頷き、気になったことを、ここまで報告に来てくれた門番に尋ねた。
「あの、キャロルに撃たれた子供はどうなったの? 死者はいないということだけど……」
「はい。キャロル嬢の撃った短銃は女性の細腕でもあつかえる小口径のもので、子供の足首の辺りを貫通し、致命傷にはならなかったんです。それでも、大怪我には違いないですが……」
「そう……。痛ましいことだけど、命が助かって良かったわ。それにしても、投石で威嚇されたとはいえ、怯えた子供を銃で撃つなんて……」
キャロルが理性の働かない性格であることは十分知っていたつもりだが、まさかここまで分別のない行動をするとは。もはや彼女に対して『ワガママ』や『身勝手』などという評価は適切ではない。自分本位の思考を究極まで突き詰めた、究極のエゴイスト――それはもう『怪物』と言っていいだろう。
私の言葉に門番は頷き、先程までの慌てぶりも今ではすっかり落ち着いたのか、静かに意見を返してくる。
「まったくです。しかし、これでウォード家の私兵団も、さらなる蛮行には出にくくなったのではないでしょうか? フォーリー領民が襲い掛かったとはいえ、先に発砲したのは向こうです。そりゃあ、戦いになれば我々は敗北するでしょうが、後で仔細を調べられればウォード家に非があることは明白で、国王陛下から処罰されるのは必至。奴らもそれくらいわかっているでしょうし、きっともう大丈夫ですよ」
だが、お父様の考えは違うようだった。
「いや、どうかな……。キャロルが銃を撃つ前に、我が領内の子供が石を投げたのだろう? これが『先制攻撃である』と主張されたら、突っぱねるのは難しい。周辺の貴族たちも、大公様も、……恐らくは国王陛下も、我がフォーリー家よりウォード家を尊重するだろうからな……」
「し、しかし当主様。子供の投石は当たっていませんよ? 当てるつもりもないようでしたし」




