第27話
こういう『告げ口』みたいなことは、本来最後の手段である。フォーリー家だけで、穏便にトラブルを解消する力がないことを露呈するのと同じだからだ。もしかして国王陛下から『フォーリー家は地方領主としての才覚が乏しい』と判断されてしまうかもしれない。
しかしお父様は、ウォード家の私兵団による威圧で怯える領民のことを思うと、自分の評価が落ちるとしても、速やかな解決を図った方が良いと判断し、断腸の思いで直訴したのである。
……だが、結論から述べると、その決死の直訴は功を成さなかった。大公様から返って来た手紙に書かれていたお言葉は『隣り合う領主同士、穏やかに事を収めよ』であり、国王陛下からのご返答も、大差ないものだった。
つまり『自分の領地のことは、自分で何とかしなさい』ということだ。あまりにも突き放した物言いに、遠くから響いてくる軍事教練の音を聞きながら、私はお父様に言った。
「お父様、大公様も国王陛下も、これだけのことが起こっているのにどうして何もしてくれないのですか? ウォード家のやっていることは、どう見ても悪質な嫌がらせですし、領民も怯えています。このままじゃ……」
「うむ……。しかしまだ、私兵を用いてこちらの建物を破壊したり、領民を攻撃したりはしておらんからな。地方領主の間では、領地の境界線を越えて人の行き来があることも珍しくない。だから大公様も国王陛下も、大したトラブルではないと判断されたのだろう……」
「『領地の境界線を越えて人の行き来がある』のは、互いに信頼関係のある領主同士の話です。今のフォーリー家とウォード家の関係には当てはまりません。それに『まだこちらの建物を破壊したり、領民を攻撃されてはいない』って、そんなことが起こってからでは遅いです。何とか今のうちに対策を考えないと」
「わかっている……わかってはいるが……。これ以上ワシに何ができる? ウォード家に力で対抗するのは不可能だし、近隣の他の領主もウォード家を恐れて助けてはくれん。頼みの綱の大公様と国王陛下への直訴も無意味だった。これ以上どうすればいいのか、ワシにはもうわからん……」
大公様と国王陛下へ直訴さえすれば何とかなると思っていたお父様は、すっかり落胆し、肩を落としていた。張りのあった声もしゃがれて、この数時間で一気に十歳ほど老けてしまったように感じる。その弱々しい声で、お父様は語りを続ける。
「……実を言うと、なんとなくこうなるのではないかと思っていたのだ。もう二十年以上昔だが、我らの属するトゥルコ王国が、隣国のグラント王国と戦争になった際、ウォード家当主のラスールは、大公様の直属の部下として戦地に赴いたそうだ。だから、大公様から信任を得ているのだろう」
「…………」
「ワシはその当時、戦地にはいかず、いつも通りに軍馬の調練に励んでいた。軍馬の供給は重要な仕事であり、自分の役目に誇りを持っておるが、それでも実際に戦地に行ったものと行かなかったものに対する評価が違ってくるのは仕方ない。恐らく、国王陛下もフォーリー家よりウォード家を信頼しているのだろうな……」




