第22話
「うわぁっ!?」
間一髪。エリックは尻もちをついてなんとか事なきを得る。さすがに驚いたのか、立て板に水を流すような上機嫌な演説はストップした。私は馬上から彼を見下ろして言う。
「だから言ったじゃない」
「お、お前……! わざとやったな!?」
「そんな馬鹿なこと、するわけないでしょ。うちの馬の足は、しなやかに道を駆けるためにある。間違っても、あなたのようにくだらない男を蹴飛ばすためにあるわけじゃないわ」
「ぐ、ぐ、ぐ……おのれ……! 見てろよ! 地方領主の会議でのことなど、始まりに過ぎない! 本番はこれからだ! カスはカスらしく、きれいに掃除してやるからな! 楽しみに待っていろ!」
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エリックの言葉がただの脅しではないことを思い知ったのは、それから三日後のことだった。ウォード家の抱える私兵団が領地の境界をまたぎ、我がフォーリー家の領内にはみ出るような形で軍事教練を開始したのである。
もちろん、こちらを攻めてきたわけではない。しかし、領地を侵犯しているのは明らかだった。彼らの軍事教練は銃器も多用するので、耳をつんざくようなその音に、フォーリー領の領民たちは大いに怯えた。
当然お父様が私兵団の責任者に抗議に行った。……なんと、私兵団の隊長はあのエリックだ。いつだったか『俺は100人の部下を一度に指揮することができる』と自慢話をしていたことがあるのを私は思い出した。
普段はおおらかなお父様も、この時ばかりは激昂し、叫ぶのに近い声でエリックに猛抗議する。
「エリック! どういうつもりだ! ここは我がフォーリー家の領内だぞ! 一言連絡があれば、軍事教練のために場所を貸すくらいのことはするが、何の連絡もせずに銃器まで使って訓練するのは無礼だろう! 民が怯えている! 速やかに兵を移動させたまえ!」
激しいお父様の剣幕にも、エリックは涼しい顔である。一度だけ、ちらりとお父様の方に視線を向けると、訓練を続ける私兵団に視線を戻し、何の責任も感じていない声でスラスラと語りだした。
「フォーリー家の領内と言っても、我がウォード家の領地からほんの少しはみ出てしまっただけじゃないですか。ふふ、『一言連絡があれば、軍事教練のために場所を貸すくらいのことはする』と仰るのなら、今連絡しますよ。軍事教練のために、あなた方フォーリー家の土地を少し貸してください。これでいいでしょう? ふふふ」
腹の底から相手を舐め切った態度だった。
しかし、銃器で武装した100人の私兵団を実力で退去させる力は、フォーリー家にはない。こちらにも一応私兵はいるが、それは過去に軽い軍事訓練を受け、現在は農業に従事している農夫たちであり、現役の兵士ではない。緊急事態には招集に応じるという予備役的な存在である。




