第15話
あっという間にお屋敷に戻り、馬屋から若く健康な栗毛の馬を一頭連れ出し、鞍をつけてひらりと跨る。そしてまた、あっという間にブライスの元に戻ると、彼は驚きと称賛の混ざった顔で私を出迎えた。
「見事な騎乗だね。まさに人馬一体だ。一年や二年の訓練ではこうはならない。さすがは厩舎育ちだ。乗馬に関しては僕も少しは自信があったが、きみにはとてもかなわないな」
そこまで褒められると、さすがに照れてしまう。私は赤くなる顔をごまかすように馬から降り、ブライスに手綱を引き渡した。
「この子はうちの馬の中でも従順な方なので、ブライスさんの乗馬技術なら初めてでも問題なく乗りこなせると思います。悪路に対する調練も済んでいますから、穴に足を取られるようなことはまずありませんよ」
「ありがとう。……素晴らしい馬だ。世話をした人の実直で優しい心根が伝わってくるよ。馬を単なる道具と捉え、粗雑な扱いをしていては、決してこのような馬体や毛づやにはならないからね」
そしてブライスは私の連れてきた馬に跨る。誰の補助もないのに、舞うように見事な騎乗だった。そんな姿に少し見惚れていると、彼は太陽を背に眩しく微笑みながら、力強く言う。
「もう一度礼を言うよ。ありがとう、クリスタ。この馬は、後日必ず返しに来る。約束だ」
「えっと、それじゃ、またこの草原に連れてきてください。晴れた日は必ずここにいるので」
「ここでいいのかい? きみの厩舎に直接連れて行くこともできるけど……」
確かにその方が自然だが、そんなことをすれば私が厩舎の娘ではなく、フォーリー家の娘だとバレてしまう。いや、別に彼を騙そうとしているわけではないのだけど、高貴な身分であり、それを公言したくないブライスが私の身分を知ったら、なんだか今まで通りに接してくれなくなるような気がして、不安なのだ。
私は少しぎこちない笑顔で答える。
「あの、その、厩舎は関係者以外立ち入り禁止なので……」
苦しい言い訳だった。厩舎が関係者以外立ち入り禁止なのは珍しいことではないが、それなら厩舎の前で馬を引き渡せば済む話だ。しかしブライスは、私が困っていることを鋭く察知したらしく、これ以上追及するようなことはしなかった。
「わかったよ。申し訳ないが、このあと少し立て込んでいてね。再びこの草原にやって来るのは一週間後になると思う。でも、命に代えても約束は守るよ。だから僕を信じてほしい」
彼を疑う気など微塵もなかった。エリックとキャロルのせいで、もしかしたら私は疑り深くなっているかもしれないと心配していたが、まだまだ純な気持ちは消え去ってはいないようだ。
「もちろんです。どうぞ、気を付けてお帰りになってください」
ブライスは私を安心させるように力強く頷くと、初めて乗る馬を手足のごとく操り、風のように草原の彼方へ消えていくのだった。




