第10話
「えっ!? ワシが!?」
「当首が言わずに誰が言うのです。お嫌なら私が直接出向いても構いませんが」
「いや、待て、待ってくれ。婚約破棄のことはわかった。ワシとて、可愛い娘を侮り軽んじるような男に嫁がせる気はない。しかし、謝罪まで要求するのはちょっと……」
「なんですか、歯切れの悪い。いったい何が『ちょっと……』なのです?」
「いや、ほら。そこまですると、ウォード家との間に大きな波風が立つだろう。率直に言って、ワシはラスールの機嫌を損ねたくないのだ……」
「なんて情けない……。ラスールがなんだというのです。確かに向こうは、国内で代々重役を担ってきた名家ですが、貴族としての格は我らと同等ではないですか」
「お、お前はラスールのことを良く知らんからそんなことが言えるのだ」
「知ってますよ。厭味ったらしい嫌な男です」
「そうだな。しかし奴は、ただ厭味なだけの男ではない。ほら、『憎まれっ子世に憚る』というだろう? 奴の領地経営はかなり強引だが、その手腕自体は見事で、貴族社会でも頭一つ抜けている有力者だ。嫌な奴のくせに社交性は高く、噂では大公様にも顔が利くらしい。嫌な奴のくせに」
「そうですね。だからこそ、色々と不安がありながらもクリスタとエリックの婚約を認めたのです。同じ貴族でも、我らフォーリー家は領地が小さく、発言権はさらに小さい。それ故に、有力者であるウォード家と結びつきを強めることを求めてしまった。……本当に、愚かな決断でした」
「う、うむ。間違った決断をしたとはワシも思う。だが、ウォード家と対立するのはまずいのだ。後のことは全部ワシに任せてくれ。ワシはラスールと違い凡庸な領主だが、争いごとを丸く収めるのだけは得意なのだ」
「争いも何も、悪いのは全面的に向こうですわ」
「わかっておる。しかし向こうが悪いからと言って、居丈高に『謝れ謝れ』と要求するだけでは関係はこじれるばかりだ。こういうことにも作法や手順というものがある。とにかく、すべてワシに任せなさい」
そう言って胸を張るお父様に、私は頭を下げた。
「お父様、ごめんなさい。領地の運営でお忙しいのに、私のせいで頭痛の種を増やしてしまって……」
「何を言う。謝るのは、策謀めいた思惑でお前をウォード家に嫁がせようとしたワシのほうだ。エリックとのことはもう忘れてしまいなさい。またいずれ、良い相手が見つかるだろう」
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お父様の言葉通り、私はエリックとのことをすべて忘れ、領地内でのんびり過ごすことにした。しばらくは男性どころか、同性の友人たちとも会う気はなかった。
エリックとキャロルのせいで人間不信になった――というわけではないが、近頃はどこに行くにも無神経で騒々しい二人と一緒だったので、少しだけ人疲れしていたのは事実だった。




