第6章:王都への帰還、第二の挑戦
エリオット・グレイフィールド子爵という頼もしい支援者を得て、私の王都への挑戦は驚くほど順調に進んだ。彼は自身の所有する建物を格安で提供してくれ、店の内装から材料の仕入れルート確保まで、あらゆる面で力を貸してくれた。ベルフェリア村の店は信頼できる村人に任せ、私はカイとリゼを連れて、かつて追放された王都へと戻ってきた。
「うわあ……!ここが王都……!なんて大きいんでしょう!」
リゼは目をキラキラさせて周りを見回している。カイは無言だが、その鋭い視線は周囲への警戒を怠っていない。私にとって、この街は苦い記憶の残る場所だ。けれど、今は違う。私は“悪役令嬢セシリア”ではなく、菓子職人セシリアとして、自分の足でここに立っている。
開店した「ル・セシル2号店」は、王都のはずれ、貴族街と平民街の境に位置していた。エリオットの配慮で、あらゆる身分の人が訪れやすいようにとの場所選びだった。
開店初日、エリオットが自身の友人である貴族たちを大勢連れてきてくれたおかげで、店は大きな注目を集めた。ベルフェリア産のカカオを使った濃厚なチョコレートタルトは、洗練された王都の菓子に慣れた貴族たちの舌をも唸らせ、その評判は瞬く間に口コミで広がっていった。
しかし、成功は新たな敵を生む。私たちの前に立ちはだかったのは、「王都製菓組合」と名乗る、既存の菓子職人たちの団体だった。彼らは王都の菓子市場を牛耳っており、新参者である私たちが貴族の人気を攫ったことが気に入らなかったのだ。
ある日、組合の長だと名乗る恰幅の良い男が、数人の職人を引き連れて店にやってきた。
「どこの馬の骨とも知れん田舎娘が。王都で商売をするには、我々の許可がいるのだぞ」
彼は店の商品を値踏みするように見回し、せせら笑った。
「こんな泥臭い菓子が、もてはやされているとは。王都の貴族も、舌が落ちたものだ」
それから、陰湿な嫌がらせが始まった。最高級のクリームを納入してくれるはずだった業者が、突然取引を停止してきた。店の前にゴミを撒かれたり、悪質な噂を流されたりもした。リゼは悔し涙を流し、カイは怒りに拳を握りしめていた。
「セシリアさん、あいつら……!」
「気にしてはいけません、リゼ」
私は冷静だった。こんなことで動揺していては、この先生き残れない。
「彼らがどんな手を使おうと、私たちがすべきことは一つだけです」
私は厨房に立ち、新しく届いたベルフェリア産のカカオ豆を手に取った。
「味で勝つ。それだけよ」
私は組合の妨害にも屈せず、タルトの改良に没頭した。王都で手に入る上質なバターやクリームを使い、ベルフェリア産の力強いカカオの風味を最大限に引き出すための新しい配合を模索する。リゼには新しいハーブの知識を学ばせ、カイにはより品質の良い木の実を探してきてもらった。
嫌がらせが続けば続くほど、私たちの結束は強くなった。そして、私のタルトは日に日に洗練され、その味わいを深めていった。
「見ていなさい。小手先の嫌がらせで、本物の味は潰せないということを、証明してあげる」
私の第二の挑戦は、まだ始まったばかりだった。




