番外編3:王都のライバル職人、まさかの弟子入り
「勝負だ、セシリア・エインズワース!」
王都中央工房に、怒鳴り声にも似た挑戦的な声が響いた。声の主は、アラン。かつて王都製菓組合の中でも若手のホープと目され、プライドが高く、試食会でセシリアに完膚なきまでに敗れた菓子職人だ。
彼はあの日以来、打倒セシリアを目標に、血の滲むような努力を重ねてきた。そして、ついに納得のいく新作菓子を完成させ、セシリアにリベンジマッチを挑みに来たのだ。
「次の王室主催の品評会では、絶対に負けん!俺のこの『七色の宝石ジュレ』で、お前の鼻を明かしてくれる!」
アランが自信満々に差し出したのは、様々なフルーツを使い、虹のように七つの層に分かれた、見た目も美しいジュレだった。
セシリアは、そのジュレを静かにスプーンですくって口に運んだ。そして、ゆっくりと味わった後、にっこりと微笑んだ。
「……美味しいわ、アラン。あなたの努力が伝わってくる、素晴らしい味よ」
予想外の褒め言葉に、アランは拍子抜けする。
「な、なんだと……!お世辞はよせ!」
「お世辞じゃないわ。特に、この柑橘の層の酸味の使い方は、私にはない発想だもの。勉強になるわ」
セシリアはそう言うと、アランもびっくりの提案をした。
「ねえ、アラン。良かったら、うちの工房で働いてみない?」
「はあ!?何を言っているんだ!俺はお前のライバルだぞ!」
「ええ、もちろんよ。最高のライバルだわ。だからこそ、近くで一緒に切磋琢磨したいの。あなたのその素晴らしい才能と情熱を、もっと多くの人を幸せにするために使ってみない?私のチョコレートの技術と、あなた
のジュレの技術を合わせたら、きっと誰も見たことのないような、最高のお菓子が生まれると思うの」
セシリアの目は、真剣そのものだった。敵対する相手を打ち負かすのではなく、その才能を認め、共に高みを目指そうというのだ。その器の大きさと、純粋にお菓子を愛する心に、アランは完全に心を折られた。
「……あんた、本当に……どうかしてるぜ……」
頭をがしがしと掻きながら、アランは顔を真っ赤にして叫んだ。
「わ、分かったよ!そこまで言うなら、弟子に……いや、働いてやる!ただし!いつか絶対にあんたを超えるからな!覚悟しておけよ!」
こうして、王都一のライバル職人は、まさかの形で「ル・セシル」の仲間入りを果たした。工房では、セシリアとアランがお互いの菓子について熱く議論を交わす声が、日常の風景になったという。敵さえも味方にしてしまうセシリアの周りには、いつも甘い香りと、温かい笑顔が絶えることはなかった。




