第11章:大陸に広がる、甘い革命
国王から「国民御用達」という、前代未聞の称号を与えられた「ル・セシル」の快進撃は、そこからさらに加速した。国のバックアップを得たことで、これまで困難だった課題が次々と解決されていった。
最大の課題は、チョコレートタルトの品質を保ったまま、遠隔地へ届けることだった。私はエリオットや、王城の研究者たちの協力を得て、菓子の保存技術と加工技術の改良に乗り出した。
タルト生地の水分量を調整し、日持ちするレシピを開発。チョコレートフィリングは空気に触れないよう、蜜蝋でコーティングする方法を考案した。さらに、カカオ豆を粉末状に加工する新たな機械が開発され、誰でも手軽に「チョコレートドリンク」が作れるキットも商品化された。
これらの技術革新により、セシリアの菓子は、王都やその近郊だけでなく、大陸の隅々にまで届けられるようになった。
「貧しい村にも、祝祭にも、癒しの一口を」
それは、私の掲げたスローガンだった。
私たちは、国中に「ル・セシル」の支店網を広げていった。ベルフェリア村のような辺境の地を優先し、現地の人間を雇用して菓子の作り方を教えた。弟子になったリゼは、今や立派な指導員として各地を飛び回り、私の理念とレシピを広めてくれている。カイは、全体の物流と安全を統括する、頼もしい責任者になった。
かつては貴族の贅沢品でしかなかった「甘い菓子」が、人々の日常に溶け込んでいく。子どもの誕生日、結婚式、村祭り。そこには必ず、「ル・セシル」のチョコレートタルトやクッキーがあった。戦地へ赴く兵士たちの携行食には、高カロリーで心を慰めるチョコレートバーが加えられた。
私の始めたささやかな商いは、やがてこの国の一大産業へと成長していた。カカオの栽培は貧しい地域の新たな収入源となり、多くの雇用を生み出した。私の理想は、思っていた以上の速さと大きさで、形になっていった。
人々は、この一連の変化を、畏敬の念を込めてこう呼んだ。
――「甘い革命」と。
ある日、私はベルフェリア村にある最初の「ル・セシル」を訪れた。そこでは、開店当初と変わらず、村人たちが笑顔でタルトを頬張っていた。子どもたちの笑い声が響き、村は活気に満ちている。
「セシリアさんのおかげだよ」
私を助けてくれた老婆が、皺の刻まれた手で私の手を握った。
「あんたが持ってきてくれた甘いお菓子が、この村に、この国に、希望をくれたんだ」
私は胸がいっぱいになり、ただ静かに頷いた。
革命だなんて、そんな大げさなものではない。私はただ、目の前の人が笑顔になるのが見たくて、一心にタルトを焼いてきただけだ。
けれど、その小さな想いが、確かに世界を少しだけ、甘く、そして優しく変えることができたのかもしれない。
空を見上げると、穏やかな日差しが降り注いでいた。それはまるで、私の歩んできた道を、祝福してくれているかのようだった。




