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彼は私の婚約者

作者: おかき
掲載日:2025/12/16

彼は今日も彼女と一緒。


そう。彼は私の婚約者。


学園の中庭には、美しい男女が微笑ましく寄り添っている。

周りには婚約者の側近が侍り、美しい男女を守るかのように立っている。


私はその光景を渡り廊下から眺めた。


その時、ふと顔を上げた婚約者と視線が合いそうになった。

だが、彼は私とは視線を合わす事はなく彼女へと視線を戻した。


私は前を見て、教室に移動する。

いつもの事だと⋯⋯。


「リアーナ。いいの?今日もじゃない。」

親友のマリアンネが声をかけてきた。

私は苦笑いをするしかなかった。

私からは何も言えないからだ。


婚約者の彼はラサール大国の王太子殿下だから。

私は侯爵家。私から何かを申し上げる立場にはなかった⋯⋯。


両親は学園の話を耳にして心配してくれた。

婚約の解消を提案してくれたが、私が断った。いずれ殿下から婚約解消をしてくるはずだから、あちらからの意向で解消をした方が争う事なく良いだろうと⋯⋯。

私の判断を両親は受け入れてくれた。


私は学園に入るまで、私なりに殿下を支え好意を示してきた。

殿下も私を大切にしてくれた⋯⋯。


あの日が来るまでは⋯⋯。



学園に入学して半年くらいが経つ頃に、隣国の王女が留学に来られた。

急な留学ではあったが、下の者には話せない国同士の何かがあるだろうと考えていた。


王太子殿下はとても優しい人柄で、困った人を見捨てられずいつも手を貸し人助けをしていた。

私も殿下の側近達も優し過ぎる殿下に困らされつつも、そんな殿下が大好きだった。


王女が学園に来た初日、王太子殿下を見た途端にハラハラと泣き殿下に抱きついた。

周りはその行動に嫌悪の気持ちを抱いた。

何故なら、私が隣にいたからだ。


高位貴族は全ての家門が私と殿下の婚約を認めてくれていた。

殿下が私を大切にし、更に公務に力を注いでいる姿を見ていたから。

私も殿下を支え、お互いが相手の為に国の為に頑張っていた事を認めてくれていたからだった。


「申し訳ありません。」

と、涙を拭い謝罪する王女に殿下は。

「大丈夫ですよ。何かありましたか?お話ぐらいは聞けますよ?」

そう優しく問いかけた。


躊躇いながらも、「聞いて頂けますか?」と、王女が答えた。

側近達と私も同席しようとしたが、王女の一瞬だけ向けられた鋭い視線に私は気が付いた。

(私の同席は嫌なのね。争うのは良くない⋯⋯。)


「私は殿下と王女様とのお話に入る立場にありませんので。殿下がお話を聞いて下さい。」

と、同席を断った。

殿下は渋ったが、側近達に説得され王宮へと帰って行った。


この時、私も同席していたら何か変わったのだろうか。

直ぐに殿下に何を話したのか尋ねていたなら、仲の良いままの婚約者でいられただろうか⋯⋯。

たらればが頭をいつも過ぎる。


相談を受けた次の日からは、殿下からの接触はなくなり王女様といつも一緒にいるようになった。


そんな日々が続き、私は婚約者としての与えられた公務を淡々とこなした。

王妃様との交流のお茶会もなくなり、婚約者としての立場は無くなったのも同然となった。

学園では味方がいたが、社交に出れば蔑む視線や言葉を受けるようになる。



二学年に進級しても、そんな日々が続いた。

婚約を解消する動きもなく、私の心は行き場をなくした。

私は先に進むのか、待つのか⋯⋯。

王族との婚約は大事である。

自身の恋心が辛いからと、辞退する事は出来ない。

殿下も王女様と学園では一緒にはいるが、公の場では一緒にはいない。

何がしたいのか、わたしは理解に苦しむようになった⋯⋯。


最後に一度だけ、話し合いたい事を伝えたく殿下に声をかけようと近くに行った。

直ぐに側近の一人に止められた。


「邪魔をしてはいけません。」


悲しげに首を振られた。その側近は私を一番に気遣ってくれる人だからだ。

マリアンネの婚約者であり、私と殿下を支えてくれた人だから。


その時、私は殿下から捨てられた事を悟った⋯⋯。

立ち去る殿下と王女様。それに続く側近達。私は立ち尽くしたまま動けずにいた。

マリアンネが私を探しに来てくれ、呆然とする私の側に寄り添ってくれた。

マリアンネも自身の婚約者の言動に不快な顔をしたが、

「殿下の側近ですもの。仕方がないのよね⋯⋯。」

マリアンネも思う事があるのか、悲しそうに言葉を漏らした。


私は邸に帰り、両親に相談をした。

殿下と離れたい事を。

学園には行きたくない事を。


両親は何かあった時の為に、逃げ道を作っていてくれた。

母の実家は帝国の侯爵家の出身だった。帝国の中でも古い家門の一つである。

侯爵家ではあるが、帝国では暗黙の了解で爵位以上の立場に位置付けられている。

祖父の手腕によるものだった。

帝国を大陸一の国にしたのも、祖父の力が大きく貢献していた。

祖父は爵位を幾つも持っている。孫である私の為に伯爵家の一つを譲ってくれる話を纏めてくれていた。

帝国も祖父の孫ならばと、快く継承を認めてくれた。

そして、婚約者である王太子の行動を、帝国の皇帝も同じ王族としてあってはならない!と、不快な気持ちを持ったのだ。


帝国の学園への転入もいつでも出来るよう手続きも整えられていた。

話を聞き、両親と祖父には感謝しかなかった。

殿下の事を嫌いになれなかった。

嫌いになる決定打がなかったから⋯⋯。

王女様といつも一緒にいるのは、何か理由があるのかもしれない。

もし王女様を選んだとしても、殿下ならばきちんと説明してくれるはず。

以前の殿下ならば⋯⋯。


私は殿下に関わる事を全て捨てる。


捨てられるのではなく、私が捨てるのだ。

私を見ないのならば、私も見ない。

話し合いをしないなら、私もしない。


両親と手続きや先の話をする為に、学園を数日休んだ。


その日、私は学園に転出届を出しに来た。

教室に向かい、帝国へ転入する事を伝えた。

クラスの皆は殿下と王女の関係に嫌悪しかない為、私の味方でいてくれた。

悲しく辛くとも、学園に通えたのはクラスの皆のおかげだと感謝を伝えた。

泣いて悲しんでくれる者もいてくれた。

泣きながら別れを告げる。

「私は帝国の爵位を継ぐ事になります。この国に帰って来る事も少なくなります。皆さん元気に過ごして下さいね。」

今生の別れではないが、顔を合わす事はほぼ無くなる⋯⋯。


マリアンネが抱きつき、泣きじゃくる。

「リアーナ!なぜ貴女が国を出なければならないのよ!あっちが出ればいいじゃないの!」

マリアンネの言葉は、密かに皆が思う事だった。

殿下は婚約者がありながら、美しい王女と仲睦まじく過ごす。

婚約者を放置し、いつも一緒にいる。


婚約者のリアーナは、立場上何も進言出来ない事も婚約者の役目を放棄出来ない事も皆理解していた。

心優しいリアーナは皆から好かれていたのだ。

リアーナはマリアンネを慰めて、皆に感謝とお礼を伝えた。

皆には帝国の万年筆を感謝の気持ちとして贈った。

帝国の万年筆は人気があるが、輸入するには高く中々手に入らない。

「こんな高価な物を⋯⋯。」

「これって、一番高い工房の物よ!」

皆が受け取れないと話し始めた。


「この万年筆は私の継ぐ家の紋章が入っています。継承のお祝いとして用意した物だから、帝国での販売値段なの。確かに高いけども、受け取ってね。」

クラスの皆は渋っていたが、継承する家紋入りだと聞き。


「リアーナ様の新しい門出のお祝いの品ならば受け取ります。」

「大切に使いますわ。」

「高価な物をありがとうございます。」

お礼の言葉を受け取り、私は教室を後にした。

マリアンネが門まで送ってくれると一緒に歩いてくれた。

「リアーナ。私が帝国に行ったら嬉しい?」

マリアンネが真面目な顔で聞いてきた。

(留学するのかしら?)


「勿論よ。マリアンネは私の一番の親友だもの。帝国での学園生活も楽しくなるわ。」

笑顔で答えた私に、マリアンネは満足そうに笑い。

「解ったわ。」

それだけ答え、いつもの中庭を通った。

私は中庭にはもう視線を向けない。

向けても何も変わらない。


自分の為にも、視線を向けずマリアンネと中庭を通り過ぎた。


いつもと違う私とマリアンネの行動に、殿下と側近達が何を思ったのか知る事はなかった。


学園を出たその足で、私は帝国へと向かった。

国境まで来ると祖父が迎えに来てくれていた。

優しく抱きしめられ、

「頑張ったな。リアーナ、お前は何も悪くない。」

祖父の優しい言葉と腕に、私は初めて涙を流した。

「私は殿下を愛していました。殿下の為に国の為に、そして自分の為に⋯⋯。」

「私はっ⋯⋯殿下と幸せになりたかった。心変わりしたのなら、ちゃんと伝えて欲しかった⋯⋯。」


泣き続ける私を祖父は黙って慰めてくれた。

馬車の中で祖父に学園の事や殿下の事。王女の事を全て話した。

「リアーナ。この国で楽しく暮らしなさい。婚約は私の名を使い、帝国から解消を促す。私に任せてくれるか?」

祖父からの提案を私は受け入れた。

もう殿下達と関わりたくなかったのだ。

「お祖父様に全てお任せします。私は学園生活をやり直したい。」


お祖父様から伯爵家の領地に案内され、いずれ継ぐ領地を視察し領地経営について学んだ。

二学年を数カ月残していたが、進級試験を合格していたので三学年からの編入としていた。


三学年になるまでの数カ月の間は伯爵家の事に全てを使った。

領民達には新しい領主として、祖父から民達に紹介してもらった。

領主としては幼く女だからと不安に思う者が殆どだったが、領地を回り王族となるべく教育を受けた知識を使い、ほんの数カ月で伯爵家の資産を増やし領地を豊かにした。

領民達からの支持も得て、伯爵家の当主としてやり甲斐のある生活を送った。


帝国での学園生活は何も起こらず、楽しく過ぎて行った。

祖父の血縁者である事が大きいが、リアーナの人柄に好感を持ってくれたからだ。


三学年になって暫く経ったある日、学園の前で馬車を降りるといきなり抱きつかれた。

体が恐怖で硬直する。

「リアーナ。会いに来たわ!」

その声はマリアンネだった。

体を離し、リアーナに「来ちゃった!」と、笑顔で声をかけた。


大好きなマリアンネの顔を見て、私は呆然としながらも涙を零していた。


寂しかった⋯⋯。


帝国で平穏な生活は送れたが、今迄いた親友やクラスの皆を思い出す事もあった。でも、前を向く為には寂しがってはいられなかった。


「マリアンネ⋯⋯。会いたかった。会いたかったのよ⋯⋯。」

今度はリアーナから抱きついた。

門の前で抱き合う二人を、皆が遠巻きに見ていた。


そこに一人の男性が声をかけてきた。

「リアーナ。門の前で抱き合うと皆の邪魔ですよ?」

リアーナは我に返り、マリアンネから離れた。恥ずかしそうに、声をかけてきた男性に挨拶をする。

「おはようございます。マチアス様。」

「おはよう。リアーナ。」

男性が返事を返すと、マリアンネを見た。

「マリアンネ・ゴーシェですわ。本日よりこちらの学園に編入いたしました。宜しくお願いします。」

学園内なのでマリアンネは、軽くカーテシーをした。


「リアーナを支えてくれたご令嬢ですね!貴女の名前はリアーナから良く聞きますよ。」と。

マリアンネはその言葉に嬉しくなり、ニッコリ微笑んだ。


「とりあえず教室に向かいましょう。」

と、続きは歩きながらになった。


マリアンネのクラスは私とマチアスと同じだった。

教室まであの国で起きたその後を軽く聞いた。

思う事はあったが、詳しい話は後からと教室に入り席に着いた。


リアーナは授業を聞いていなかった。

マリアンネから聞いた話が信じられなかった。

詳しくは解らないけど、王女様と過ごしていた間も殿下は私を愛していたと。

私も承諾した上で王女様と過ごしていたと⋯⋯。

え?

で、ある。私が浮気を認めていたって事?王女様が抱きついたあの日から、私と殿下は会話どころか、手紙一つ送り合っていないのに。

意味が解らず、頭の中がグルグル思考が回る。

授業の合間も心此処に在らずな私に、マチアスが。

「午後は自由授業です。教師には話しておくので、マリアンネ嬢から詳しく聞いた方がリアーナの為に良いでしょう。マリアンネ嬢から話を聞くと良いですよ。」

マリアンネを呼び、マチアスが説明をしてくれた。

マリアンネも早く伝えたかったのもあり、マチアスの提案を受け入れてくれた。


「マリアンネ。マチアスも一緒にいいかな?」

リアーナに聞かれ、「勿論!」と快諾した。


午後の授業は受けず、マチアスの邸に招待されお茶を飲みながら話を聞く事になった。


「あの⋯。マチアス様はもしかして、大公子息様ですか?」

マリアンネの問いに、マチアスが頷いた。

「そうだよ。皇帝陛下の三番目の弟が父になる。帝国の西を治めるハーマン大公の次男だ。」

マリアンネが驚いていたが、次の言葉にもっと驚く。

「そして、リアーナの婚約者です。学園を卒業したら伯爵家に婿入りする事になっています。」

目を見開き驚き過ぎる親友に、苦笑いをし


「そんなに驚くの?」

リアーナの言葉に、マリアンネが我に返りハッとなる。

「ご、ごめんなさい。そうよね。婚約者がいても不思議じゃないけど、まさかあのハーマン大公子息様とは⋯⋯。」

含みのある言葉に、リアーナは不思議そうにしている。

マチアスはその含みに身に覚えがあるので、マリアンネに問いかけた。


「マリアンネ嬢は私が誰の何かであったかをご存知ですね?」

マリアンネは視線をスッと外して頷いた。


「リアーナ。今から話す話はリアーナと私の立場から見た内容では無い事を覚えておいてね。あくまで、殿下達の言い分だと言う事を。」

マリアンネの言葉に頷き、リアーナは話を聞いた。



リアーナが国を出た事を侯爵は直ぐに王宮に届けた。


帝国の伯爵家の後継となる事。

侯爵家の籍を抜け、帝国の祖父の籍に移してある事。

リアーナとの養子縁組は、祖父の強い希望である事。

王太子殿下との婚約を白紙にして貰う事。


驚いたのは、陛下と王妃様だった。

息子である王太子からは「リアーナ嬢とは仲良くしています。」

そう聞いていた。学園の話も耳にしたが、王女の話を聞き婚約者であるリアーナ嬢の承諾があるならばと、知らぬ振りをしていたのだ。


侯爵から何も言って来なかった事もあり王太子に任せ気にしていなかったのだ。


届けを出した次の日。

侯爵は陛下に呼ばれ謁見の間に案内された。

そこには、両陛下が並び侯爵を待っていた。

青褪めた顔の王太子殿下に側近達。

そして、不貞腐れた顔の王女。


リアーナ側の証人としてクラスメイト数人とマリアンネが呼ばれていた。


「侯爵!どういう事なのだ?いきなりの婚約の白紙撤回など通る訳がなかろう?」


陛下の強い口調にも動じず、静かに陛下を見返す。

王太子殿下も、

「リアーナは私の大切な婚約者です!婚約を白紙になど絶対にしない!」


殿下の言葉は真実かもしれぬ。だが、愛する娘を蔑ろにされ許す親などいないのだ。


「殿下。その言葉が真実ならば、なぜ娘を蔑ろにしたのです。会話一つ。手紙も贈り物も無い婚約者をどうして待たなければならないのです?」


「リアーナは承諾してくれたはずだ。王女を助ける為だと。リアーナは私を信じると⋯⋯。それに、贈り物はきちんと渡した。記念日も誕生日も⋯⋯。」


殿下が必死に話す。

側近の一人が、

「殿下はリアーナ様に贈り物を送っております。リアーナ様よりお礼の品も受け取っております。」

そう答えた。


「娘が殿下への贈り物をする際、帝国の物を用意します。妻が実家に話を通して購入します。なので、贈り物は侯爵家が把握しておりますが、ここ一年は購入をしておりません。」

侯爵は側近に視線を向け、

「その贈り物はどちらの国の物でしょうか?帝国の物でないなら、誰が用意したのでしょうか?我が家に殿下からの贈り物は届いておりません。手紙すら。」


側近は青褪めた。

確かにお礼の品は帝国の物ではなかったからだ。

ずっと帝国の物だったのに今回だけ、自国の物を?と、違和感はあったのだ⋯⋯。


「殿下。そもそも娘は何故貴方様が王女様と一緒にいるのかを知らされてはいないのですよ?浮気を認めるなんて、そんな事を娘が許す訳ないのです。」

侯爵の言葉に、殿下が反論する。


「浮気ではない!王女が冷酷な婚約者から逃げる為に助けて欲しいと相談されたのだ。それに、私はリアーナに全て書いた手紙を託した。返事は了承したと。そう言ったのだ!」

肩で息をする殿下に侯爵が視線を向け、


「リアーナの手元にちゃんと届いたと?リアーナ本人から直接その言葉を聞いたと言うのですね。」


侯爵の言葉に、手紙を託したマリアンネの婚約者のアーサに視線を向けた。


アーサは本来頭が切れる人物なのだ。

今の侯爵の言葉で、全てが王女による嘘なのだと、理解した。


殿下を支え、王女を守るために側にいた。婚約者であるマリアンネからは最初は色々と言われていた。

だが詳しく話す事も出来ず、マリアンネとも距離が出来ていた。

だが、リアーナ様がいつか話して下さるだろうと思っていた。

そして婚約者から問い詰められることも無くなり、安心していたのだ。


アーサは自覚した。

理解してくれたのではなく、見放されたのだと。

ふと思い出す。リアーナ様が一度だけ接触しようとしてきた事を。その時は嫉妬で我慢出来なかったのだろうと、哀れんだ。後少しの辛抱だからと。勝手に気持ちを解釈していたのだと⋯⋯。


今私を見るマリアンネの目は、婚約者を見る目ではないのだから⋯⋯。

それが全ての答えなのだと。


青褪めるアーサに殿下が声をかける。

「アーサ。手紙を渡し返事をリアーナがしたのだよな?」


その問いにアーサが首を振った。

「手紙は確かに受け取りました。ですが王女様がリアーナ様に自分が渡すと。そして自分の事だから説明をし理解してもらうと。」

その話を聞き、皆の視線が王女に向けられる。

「し、知らないわよ!覚えてないわっ!」

プイッと横を向き、黙りを決め込む。


「陛下。お話がございます。」

マリアンネが陛下の前に出て、顔を伏せ許可を待つ。


「話すが良い。」


陛下の許可を貰い、マリアンネが顔をあげ話を始めた。


「ヴィクトリア王女殿下の婚約者であるお方は、帝国のハーマン大公子息様ですわよね?」

帝国の名前に一同驚く。

王女からは、自国の貴族と聞いていたからだ。


「大公子息様は、王女殿下との婚約を解消する旨をずっと伝えていらっしゃいます。そんなに嫌いならば、なぜ婚約解消をされないのです?もしかして、次の婚約者を見つけてからにしようとか?それとも、大公子息に嫉妬してもらいたいとか?」


マリアンネの言葉に図星を突かれ、カッと顔を見合わせ赤くする。

「大公子息なんて知らないわよ!あんな婚約者、嫌よ!婚約なんて、解消しても構わないのよ!」

その言葉に、マリアンネがニッコリ微笑み。


「だそうですよ?大使様。」


マリアンネ達の後ろから男性が二人現れた。

帝国の大使である事は、両陛下が知っている。

「畏まりました。国に戻りこの旨を報告致します。知らない婚約者と解消されても、王女殿下には関係ない事でしょう。」

「これで大公子息も想い人に求婚出来ますし、帝国にとっては吉報です。」

では、失礼します。

と、言うだけ言うと大使は早々に出て行った。

王女は思考が追いつかないのか、自身の婚約が無くなった事も理解出来ずにいた。


「殿下。申し訳ありません。私が王女様に手紙を託したばかりにこの様なことに⋯⋯。」

アーサが深く頭を下げ謝罪する。

だが、王太子殿下は何も言葉を発しない。

理解出来ずにいるのだ。


(リアーナは何も知らされていない?許可などしていないと⋯⋯。ならば、私と王女がずっと一緒にいる姿を見てどう思うのか⋯⋯。)


リアーナの事を考えると、王太子は青褪めるしかなかった。

ただの浮気者でしかなかった⋯⋯。


「殿下。リアーナが知らなかっただけでは済みませんよ。殿下がリアーナを想い続けていてくれたなら、侯爵家としてリアーナを国に留めました。ですが殿下は離れる原因を自ら作っておりましたよ。」


王太子も王女の明るい性格に少しばかりの好感を持ったのだ。

王女が婚約の解消をするまで、嘘の恋人同士として期間限定で楽しく過ごしたのも、また事実だった。

リアーナとは婚約をしている。

リアーナとはいずれ結婚するのだから。と⋯⋯。


侯爵は人を使い王太子殿下の行動から、それを見抜いていたのだ。


陛下は息子の失態を目の当たりにし、侯爵に謝罪した。

「侯爵よ。申し訳なかった。息子任せにし、調べ上げる事をしなかった我にも責任はある。非は王家にある。故に侯爵の要望を聞き入れよう。他に要望があれば受け入れる。それで良いか。」


「リアーナは帝国の人間となります。これ以上は何もありません。私は爵位を長男に譲り近々帝国の妻の実家に参ります。その許可だけ頂きたく。」


侯爵が国を離れる⋯⋯。それは国にとっては痛い事だった。

だが、陛下は許可を出した。


王太子殿下はリアーナとの婚約の解消を拒んだが、陛下によって白紙に戻された。


学園に戻っても殿下達を見る視線は厳しい。

以前から厳しい視線を受けていたが、王女を助ける為だと。婚約者が理解してくれているのだからと、周りからの視線の抗議を無視していたのだ。


策略をした王女が一番悪いが、人助けだからと簡単に策に嵌まる王太子殿下達は資質を問われ、王位継承を下げられた。

王都より離れた公爵領を卒業と同時に継ぐ事となり、側近達もそちらへ赴任が決定となった。


ヴィクトリア王女殿下は国に帰る事は許されなかった。

帝国から全て聞かされた隣国の陛下は激怒し、王女を処罰して構わないとの許可をラサール大国に伝えてきたのだ。

陛下はその書簡を見て、自身の息子が策略に嵌まった責任も感じ王太子と王女を結婚させる旨を伝えた。


隣国の陛下は王女のまま嫁がせるが、国に入る事は許さず。

又、失態をした王女を受け入れてくれたラサール大国には感謝を伝え国の和平を恒久的に結んだ。


国としては良い結末であったが、愛するリアーナとの婚約が無くなる原因となった王女を殿下は愛せるはずなど無かった。


殿下は継承権も奪われ婚約者も奪われ。

学園にも行かず、今は離宮に引き籠っているらしい⋯⋯。



マリアンネからの長い話を、リアーナは自身の過去と照らし合わせて聞いていた。


でも、殿下を恋しいと思う事はなかった。

殿下への愛情は、もう心のどこを探しても見つからなかった。


「話してくれて、ありがとう。マリアンネ。」

「話を聞いていて、ずっとたらればを考えていた自分を思い出したわ。きっかけは小さなすれ違いだったのかもしれない。でも殿下は私が離れないと過信して王女様と過ごす日々を楽しんだ。」


「私もいずれ結婚するのだからと思った時もあったわ。でもそれで良いのか考えたの。きっかけは貴女の婚約者の邪魔をしてはいけないって言葉だけど。」


「私は邪魔な存在だったのかと、そう思ったわ。でも私を育ててくれた両親に、娘がそんな扱いを受けている事を知ったら悲しむ。私は自分の立場をきちんとしなければいけないって思えたの。流されてばかりではいけないって。」

リアーナは笑顔でマリアンネに話す。


「アーサはもう婚約者ではないわ。婚約は私から破棄してやったわ!」

マリアンネの言葉に驚き、リアーナが問いかけようとしたが。


「だって殿下の側近は王命で外されないのよ?そうなると公爵領とは言っても、寂れたあの地に私も一緒に行く事になる。リアーナを傷付けたあの女の近くになんて行きたくないわよ!!」

「それに両親もリアーナの味方だったから、婚約解消じゃなく破棄でやり返してやったわ!」

ドヤ顔で伝えるマリアンネに後悔は見えなかった。

(マリアンネも婚約者を愛していたのに。私のせいだわ。でも謝罪するのは違うわね⋯⋯)


「ありがとう。マリアンネ。私の為に。沢山のありがとうを伝えるわ!」

リアーナの笑顔での感謝に頷き、マリアンネは視線をマチアスに向けた。


「大公子息はいつからリアーナと?」

気になった質問を直球で聞いてみた。


「私はリアーナが王太子の婚約者だった頃から愛していましたよ?」

その言葉にマリアンネは驚き、リアーナは顔を真っ赤にしていた。


「私は幼い頃リアーナと会っています。一方的に好意を持ちました。父に婚約をしたい事を伝えました。父からようやく許可を貰った時には、既に王太子殿下の婚約者となっていました。」

「リアーナが婚約者でなければ誰でも良いと、縁を結ぶ為にヴィクトリア王女との婚約が結ばれました。」


「ヴィクトリア王女は自身の容姿に自信があり、私が惚れ込むと思い込んでいましたよ。彼女は私の容姿を気に入り婚約を喜んでましたし。私は一応婚約者となった王女をきちんと婚約者として対応しました。国同士の婚約です。下手な事はしません。」


「ですが、私にほかに想い人がいる事を知り彼女は激怒しました。ですが、政略結婚とはそんなものです。

彼女は私を許さず自身も浮気をし、恋人を連れて国に来るようになりました。

彼女には私と婚約する前から、沢山の恋人がいたのを知っています。私はどうでも良かったので放置しましたが、父である大公が許さず婚約の解消を申し出ました。」


「父がリアーナとの婚約を直ぐに了承していたら私もリアーナも不幸に遭わなかったかもしれないのに。父にはチクチク嫌味を言ってイジメてますからまあ良いでしょう。」


マリアンネはマチアスの話をウンウン聞き、「それで国に来たリアーナを捕まえたと⋯⋯。」

マチアスは漏らした言葉にクスリと笑い。

「そうです。強引に口説きまくって婚約をしてもらいました。」

そう言うと、マチアスは紅茶に口をつけた。


「お祖父様がね、マチアス様の想い人が私だと知って。長く想い続けてくれるのを気に入ったのもあるの。」

「そうだね。リアーナのお祖父様の援護は強い力になったね。」


リアーナとマチアスがお互い見合い、クスクス笑い合う。


大好きなリアーナの幸せそうな笑顔を見て。

(ざまぁみろ!ヴィクトリア。貴女が嫌ったリアーナは、貴女の婚約者に愛されているわよ!)

ニヤリと笑い紅茶を飲むマリアンネを、マチアスは気に入った。

後日、自身の側近からマリアンネの新たな婚約者として、公爵家の嫡男キリアンを紹介する。

年下ではあるが、マリアンネと気が合うと紹介したキリアンはマチアスの考え通りマリアンネを気に入り婚約をし、そのまま帝国で過ごす事になった。



マリアンネはラサール大国に残るクラスメイトにマチアスとリアーナの話を詳しく手紙に書いた。

勿論、マチアスの許可は貰った。

マリアンネの腹黒計画は同じ腹黒のマチアスにはお見通しだった。

許可を出した時のマチアスとマリアンネの顔は腹黒な顔をしていた。

キリアンはそんなマリアンネも可愛い!と、構い倒していた。


マリアンネの思惑通り、母国でリアーナとマチアスが婚約した事。

マチアスの長年の想い人がリアーナだった事の話が流れた。


ヴィクトリアは、愛した婚約者の想い人が邪険に扱っていたリアーナだと知り絶望していた。

自分が王太子殿下とリアーナの仲を引き裂いた結果、マチアスと自分の婚約は破棄された。

でも新たに殿下の婚約者として残れたので、何とか納得したのだ。

王太子もそれなりの容姿だったがマチアス程ではなかった。

手に入れたかったのは、マチアスだったから。

なのに、マチアスは追いやったリアーナと婚約。

ヴィクトリアは滞在先で荒れに荒れ、手がつけられなくなる。


陛下は引き籠っている息子とヴィクトリアを王宮から叩き出し、公爵領に側近をつけて早々に赴任させた。

殿下や王女が何もしなくても、側近達が領地をやり繰りする手はずなので領民には被害がない。

臭いものに蓋をしただけだった。


帝国で顛末を聞いたマチアスとマリアンネは、悪い笑みを浮かべ笑い合った。


帝国から「ざまぁみろ!」


ヴィクトリアはそう聞こえた気がした。


ヴィクトリアと殿下は邸の部屋に各々引きこもり、社交にも顔を出さなかった。



リアーナとマチアスは学園を卒業すると同時に結婚をし、数年後男女の双子を授かった。

その間、マリアンネの腹黒計画に気が付くことも無く穏やかに過ごした。


それからもマリアンネはリアーナの側に寄り添い、公爵家に嫁いでからも仲良く社交界に二人で顔をだす。


マチアスとマリアンネに守られ、リアーナは生涯を幸せに過ごした。



〜✿〜


元王太子殿下はずっと納得出来なかった。


リアーナが何も言わず離れた事を。

少しだけ浮気心を持ったくらいで、婚約を破棄された事を。

だが、きちんと話をしなかった自分に責があると。


自身を責めたり、反省したり⋯⋯。

次第に殿下の心は壊れてしまった。


マリアンネはそれを手紙で知り、少しばかり可哀想になった⋯⋯。

手紙を覗いた夫のキリアンが、

「可哀想ですね。少しだけ。」

「でも、自業自得です。リアーナ様との婚約が白紙にされても、両陛下から見捨てられた訳ではなかった。やり直せる機会は沢山ありました。それを放棄したのは彼自身です。」

キリアンの言葉に納得し、手紙を暖炉で燃やした。

明日は大好きなリアーナに会う。

手紙の話は全て燃やして忘れる。


リアーナには何も伝えない。

母国の話はあの日以来何も伝えていない。


マリアンネは、これからもリアーナの平穏だけを守る為に動くことを決意する。


誤字報告がありましたので修正しました。

報告、ありがとうございます。


誤字が多く、申し訳ありません。

報告はとても助かります❀


〜追記〜


誤字報告を頂いた中で訂正していない部分もあります。

報告された方が正しいのは承知していますが、あえて使用しています。

ご了承下さい。

作品を気にかけて頂いた事は有り難く思っています。ありがとうございます❀



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