第2章その1
「好きだ。付き合ってくれ」
「嫌。あなたと付き合って私に何かメリットがあるの?」
相変わらず淡々と断ってくれるもんだ。俺と付き合えることにメリット以外のものは存在しない。なぜそれが分からない。
「毎日告白される手間が省けるぞ。逆にデメリットはあるのか?」
「あなたと付き合うこと」
「それはメリットの方に入れといてくれ」
「ペットボトルを可燃ゴミに捨てる様な暴挙よ」
「それは良くないな。エコブームの時代だからな」
「でしょ。そろそろホームルームが始まる時間よ。ハウス」
「ク~ン」
「保健所に行きたいのなら手配してあげるけど」
冷たい人間だ。拾ってくれてもいいじゃないか。朝の日課が片付いたところで、席へ戻る。
「よう、広和」あぁおはようと手を少し上げ適当に挨拶を済ます。捨てる神あれば拾うバカあり、こいつとの無駄話まで日課に加えた覚えはないのだが。
「お前この間見たい映画があるって言ってたよな」
そんな気もしなくはないが、困ったことに、全く覚えがない。
「すまん、心当たりがない。なんの映画だ?」
俺が質問すると、晶はかばんを漁りだし、チケットであろう紙を3枚取り出した。
『腐ったら生ゴミ』それが映画のタイトルだ。食糧問題を始めとし、地球温暖化、自然破壊、地域紛争など、今人類が抱える問題に迫った。ドキュメンタリー映画だ。
「なんで俺がそんなもん見ねばならんのだ?」
目をひんむきこれ以上ないといったように驚きの表情を作る晶。
「なんでって、お前が見たいって言うからわざわざ手配したんだぞ」
そこまでしてもらえる程、こいつに恩を売った覚えはない。さては賄賂だな…政治と金、いつの時代でも切っても切れない関係にあるってことだな。
「悪いが俺にお前も知ってる通り、いくら生徒会長といえども俺に権力はない、なにを企んでるかは知らんがやめとけ」
続いてはキョトン顔、いろんな表情ができるんだな。香織に教えてやってくれ。
「そんなことお前に頼むくらいなら短冊に吊すわ。そうじゃない、ただ映画に行こうと言っているんだ」
俺に2枚のチケットを渡す。
「1枚はお前の分、もう一枚はお前の後輩の吊り目の子の分だ」
俺の後輩に吊り目は一人しかいない。遠藤のことだな。
「それが目的か…残念だが遠藤は俺に誘われてノコノコついて来るような奴じゃないぞ」
「そこをなんとかするのがお前の見せ場だ。期待してるぞ生徒会長様」
持ち上げてるつもりか?いつもの嫌味じゃないか。
「断る。自分で誘って2人で行け」
「頼むよ。親友だろ?」
断るよ。知り合いだろ。
「まぁ頼まれたとして、成功報酬は?」
地獄の沙汰も金しだいってな。損得で動く、それが俺のやり方だ。
「お兄ちゃんCDを買って来てやる」
なんだそれ?
「お前の大好きな妹系のボイスCDだ。お前、恥ずかしくて買いに行けないんだろ。俺に任せてくれ」
大きい声をだすな。余計な誤解を生む。
「どこの誰になにを吹き込まれたかは知らんが、大好きでもなんでもない」
「だってあの子、お前のことシスコン先輩って呼んでただろ。」
どこで聞いてたんだ?ストーキングでもしたってのか?
「そんなCD貰って喜ぶのはロリコンかオタクだ。俺はそのどちらにも該当しない。そもそも俺がシスコンという前提から間違っている」
「じゃあ何が望みだ?言ってみろ」
声を荒くする晶、逆切れか?最近の若者は切れやすいと言うしな。
「私を甲子園に連れてって」
精一杯の可愛い声を出す。イメージはのぞみが物をねだるときの声だ。無論、ここ数年の最高最高成績が地区予選ベスト8の野球部に期待なんてかけてはいない。眉間にしわを寄せ、険しい表情へと早変わりする晶。あれ?ツッコミ待ちなんですけど。
「わかった。約束しよう」
いや、結構です。甲子園行くならプロ野球見るわ。自分は冗談ばかり言うくせに、人の冗談は通じないのか?なんて厄介な男だ。
「お前の為、いや遠藤さんの為にも必ず甲子園で活躍してみせる」
別にどちらの為にもなりはしない。天を仰ぎ誓いをたてる晶を呆然と観察しながら、そんなことを考えていると、急に教室が静寂に包まれた。西原が来たようだ。
「西原来たみたいだし、この話はまた後でな」
一人かってに盛り上がる晶に告げ、それ以降の晶の発言を全て無視する。同じ失敗を繰りかえすのはバカのやることであって、俺はバカではない。黙ってホームルームをやり過ごす。
そこから、授業を受け、晶から遠藤に関する質問を受け、また授業を受け、それが終わると晶の質問が始まる、というのを何度か繰り返し、昼休みになった。当然質問タイムが始まった。さっきまでより時間が長い、どうやり過ごそうか…