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第1章その3

数分後、静かに扉が開かれた。お待ちしておりました。買い物袋を持った香織と遠藤が、談笑しながら美術室へ入ってきた。あともう少し遅かったら、のぞみに全て話しているところだった。その少しあと小野先生もやってきた。

役者は揃った。ただ今より、解決編開幕いたします。

「皆さんをここに集めたのは、他でもありません、事件の真相を解き明かすためです」

 気分は探偵、室内をうろうろ歩き回り、全員の様子を伺う。

「シスコン先輩、なんのお話をされているのでしょうか?常々頭のおかしい人だとは思っていましたが、本当におかしな人だったのですね」

買って来たばかりの絵の具を取り出しながら、一度も俺のほうへ視線を送らないままに罵倒の言葉を浴びせてくる遠藤。失敬な、俺は至って正常だ。

そうか、香織と遠藤は俺が事件を捜査していることをしらないんだったな。

「実は、俺の絵が何者かに持ち去られたんだ。そして少し前、俺は天才的推理力を駆使し、犯人の目星をつけたところだったんだ」

ここから始めるべきだったな。出だしで躓いた推理ショーだが、本番はこれからだ。

「謎を解く鍵は現場に全て残されていた。まず、なくなっていた粘土、これは盗まれたのではありません。小野先生が陶器を作るのにつかったと見て間違いありません。そうですね。小野先生」

 教卓の前に座っていた小野先生に尋ねる。

「ええ、そうですよ。それと今回の事件と何の関係があるのですか?」

「今日、小野先生は焼却炉にいた。随分長いことかかっていたようでしたが、いったい何を焼いていたんですか?今日は点検を兼ねてわずかなゴミを燃やした程度のはずですそれほど時間が掛かるとは思えない」

 指摘を受けた小野先生は、いつもの笑顔のまま、続きをどうぞと言うかのように、手を差し出した。

「小野先生は、焼却炉で陶器を焼いていたんです。違いますか?」

 小さく首を上下させた小野先生。

「そして次に、入れ替えられていた引き出し。入れ替えたのは引き出しの利用者、香織だ」

「そうよ。それがどうかしたの?」

 遠藤の絵をじっと見つめていた香織が、ようやく俺の話を聞く体制になってくれた。

「香織の引き出しは俺の引き出しの1つ上だった。それを移動させるために引き出しを抜いたとき、すぐ下の引き出しの1番上に置かれた絵、つまりなくなった俺の絵を見つけたんだ。そしてお前はその絵を小野先生に渡し、焼却炉で焼くように持ち掛けた。小野先生は俺のなくなった絵がどの絵だったか知っていましたよね。あの時それをしっていたのは俺と犯人だけなんですよ」

「意味のよくわからない推理だけど、上出来ね」

 香織が立ち上がり、俺の元へ歩み寄る。

「そう、私がやったの。あなたの推理通り絵は焼却炉で燃やしたわ」

 いつもの淡々とした口調で語る。

「でも、あなたを救うためにやったのよ」

 俺を救うため?どういう意味だ?

「あの絵が完成したとき、あなたによくない事が起きる。私はそれを知っていたの。だから…燃やした」

 さっぱり意味がわからない、なんだ?よくないことって。

「あの絵が完成したら、あなたは肖像権の侵害で訴えられていた。私に…」

「お前にかよ!」珍しくツッコミをいれてしまった。

「確かに悪かったわ、でもあなたの方に非があると思ったの。許して」

「もちろん許す。でも一つ条件がある」

「却下します」即答。まだ何も言ってないのに…しかし、気にすることなく、俺は条件を提示する。

「肖像画を描く許可をくれ」

 許可さえでれば、今度は燃やされない。こそこそ描く必要もない。真相を突き止めたとき、俺はこの機会を生かして正式に許可をもらうことを思いついた。

 絵を焼失してしまったのは惜しいが、肖像画を描く権利を得られれば、足し引き0どころか大幅の利益だ。さすが俺様、抜かりないな。

「…まあ、それくらいなら…いいよ」

 許可をくれた香織は、遠藤の元へ戻った。これで事件は全て解決だ。意外とあっさり認めたもんだな。もっと否定するもんだと思っていたのだが。

「お兄ちゃん、のぞみの絵も描いていいよ」

 香織と入れ替えで俺の前に現れたのぞみ、そうだな香織の絵が完成したら描いてやろう。のぞみは助手として良く働いてくれた。お礼になるかは分からないが、プレゼントしよう。

「探偵するの面白かったね。そうだ新しいスケッチブックの最初の絵、名探偵のお兄ちゃんを描こうかな。あっ、でもちゃんとどっか連れてってよ。どこにしようかなぁ。花見も兼ねて桜の綺麗なとこがいいなぁ」

今度はどんな恐ろしい作品を生むつもりだ?でも花見ってのは良いアイデアだな。

「お花見へ行くなら是非私も」

 絵を描く手を止めず、遠藤が参加の意思を表明した。会話に参加するならそれなりの姿勢を見せてくれ、一瞬誰がしゃべったのかわからなかった。

「静も行くなら私も行こうかな」

全員参加の行事に早代わりだ。香織も来てくれるのか。遠藤もたまには役に立つんだな。

「でしたら、シスコン先輩の邪魔をするのも野暮なので私たち2人で行きしましょうか?」

 こいつも空気を読むってことを知ってるんだな。

「可愛い妹ちゃんと楽しくお花見してください」

だよな…そうなるんだよな…知ってたよ。

「4人で行けば良いのよ。場所取りが居ないといけないでしょ」

 場所取り係に内定したと捉えて良いのか?香織と一緒に花見ができるなら場所でも、火鼠の衣でも取ってくるさ。面白くなってきたな。

「場所取りですか…シスコン先輩だけでは不安なので私も行きます。香織先輩のために最高の場所用意しますから」

 まさか…ライバル登場か?お前にだけは負けたくないな。

「お兄ちゃん、そろそろのぞみ帰る時間だよ。今日買い物もしなくちゃいけないしそろそろ出ないとアニメの時間なんだから」

 俺の袖を引き時計を指す。そうか、今日はのぞみが毎週見ているアニメの放送日か。

「じゃあ早く帰る仕度をしろ」

 はーい、と元気良く返事すると、絵を持って準備室へと駈けて行った。

「花見の件だが、日程とかそっちで決めといてくれるか?」

 黙したままうなずく2人、そういうとこ良く似てるな。さすが毒舌コンビ。

「お疲れさまでした」忙しくなってしまった1日を振り返り、のぞみと共に美術室を後にした。

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