モンスター VS 見知らぬ人達(後編)
「この世界では町や村の外は【人外地】って呼ばれる危険な場所。ってのが常識なんでしょ?
覚悟を持って【人外地】に踏み出したのであれば、その結果、何が起きても自己責任だと思う。
もしかしたら彼等も、わたし達のように理不尽な理由で住んでいた所を追い出されたのかも知れないし、
もし、そうであれば、見捨ててしまってごめんなさい。としか言い様がないけど……
理不尽な理由で住んでいた所を追い出された事が分からない限り、
わざわざ、危険な【人外地】に足を踏み入れた見知らぬ人達の為に命を懸けてあげるつもりはない。
って……パパ?
先刻から何も言わずに必死で携帯電話の画面を見つめているけど……パパはどう思ってるの?」
「僕達だって、何時、モンスターや動物に襲われるか分からない。
彼等の行動が、手本になるのか、反面教師になるのかは分からないけど……
僕達にとって、彼等は生きた教材だと思う。
だから、彼等の行動の一挙一動を見逃したくないんだよ。」
僕は、自分の素直な気持ちを嫁に話す。
「一番、ドライだったのは、一切、不謹慎な発言をしておらんかったクルサルじゃったとはのう……
語り合ってみなければ分からぬも事あるものじゃのう……」
アマトティちゃんが、苦笑いしながら僕を見ている。
「せやけど、クルサルさんの言わはる事はごもっともや。
確かに、罪悪感に浸ってる場合でも、現実逃避してる場合でもあらへんな。」
「だな。」・「だね。」
ヨロズコちゃんの言葉にゼロヒト君と嫁が小さく頷く。
◇◇◇
【ドォォォォーン】・【ドォォォォーン】
【ドォォォォーン】・【ドォォォォーン】
【ドォォォォーン】・【ドォォォォーン】
【ドォォォォーン】・【ドォォォォーン】
【ドォォォォーン】・【ドォォォォーン】
【ドォォォォーン】・【ドォォォォーン】
【ドォォォォーン】・【ドォォォォーン】
【ドォォォォーン】・【ドォォォォーン】
【ドォォォォーン】・【ドォォォォーン】
結界の外から轟音が少しずつ小さくなっていく。
僕達の居た場所から徐々に離れて行っているのだろう。
【キュルルルルルル】
【ドゴォン】
思わず、そんな音がした気がした。
2トントラックのような乗り物の右前のクローラーをリトル アース ドラゴンが風魔法か何かで破壊したようだ。
その結果、2トントラックのような乗り物が挙動を失い林道のような道を塞ぐようにひっくり返った。
【ドォォォォォーン】
と聞こえた気がした。
ひっくり返った2トントラックのような乗り物に、直ぐ後ろを走っていた、ピックアップトラックのような乗り物が追突する。
そして、最後尾を走っていた、クアッドのような乗り物は林道を外れ、木々に覆われた森の中へと消えていった事で【空の目】では捕捉が出来なくなった。
2トントラックのような乗り物からも、ピックアップトラックのような乗り物からも、燃え盛る気配どころか煙りすら殆ど見えない。
燃料がガソリンや軽油。ハイオク等といった石油系のような燃える物ではないのだろうか……
「この世界の乗り物の燃料は、化石燃料や電気ではなく、
モンスターの身体の中や、瘴気が溜まった場所から採取する事が出来る魔石という鉱物が使用されているらしいんだよ。
この世界の乗り物のエンジンに取り付けられた魔石には、
外から吸入された空気中に含まれるマナを圧縮させたり、膨張させたりする術式が付与されているらしく、
魔石の力で引き起こした力で生まれた圧力を利用してピストンを押し下げる力を、
この世界の乗り物を動かす為の動力として利用しているらしいんだ。
因みに、俺達の世界のカゾリン車に取り付けられたエンジンは、
吸気バルブをあけて、空気とガソリンの混合気をシリンダー内に吸入したものを、
バルブを閉じる事でピストンで混合気を圧縮させ、
圧縮された混合気をスパークプラグで点火させ、
その爆発と燃焼で混合気が膨張させる事で生み出された圧力を利用してピストンを押し下げる力を、
ガソリン車を動かす為の動力として利用しているらしいんだ。
それと、俺達の世界のガソリン車等で問題になっている排ガスとは、
押し下げられたピストンが上に上がってくるときに、排気バルブをあけて排ガスを外に逃がす工程で発生するんだが……
この世界の乗り物は空気中含まれているマナの形状に、ほんの一瞬だけ関与してるだけなので、環境に悪影響を与えたりしないらしいだ。
もし、この世界版のエンジンを開発した者が、
エンジンに取り付けられた魔石に、
空気中に含まれるマナを膨張させる術式でなく、爆発や燃焼をさせる術式を付与する形態にしていたら、
この世界の乗り物も事故った時に、俺達の世界の乗り物と同様、爆発したりしたんだろうけど……
この世界の乗り物は事故しても、俺達の世界の乗り物と違って、爆発とかはしないらしいんだよ。」
ゼロヒト君が、まるで僕の心の中でも読んだかのように豆知識を披露してくれる。
◇◇◇
「先頭のバイクみたいな4輪バギー(クアッド)……
仲間達を助けに戻らずに、そのまま走り去っちゃったよ。」
「最後尾のクアッドは分からへんけど……
トラックに乗ってはる人達の方は、ああなってしもうたら助けようがあらへん。
それに、追突した方のトラックに乗ってはった人達の方は、既に死んでもうてはる可能性すらある。
せやから、先頭を走ってはるクアッドに乗ってはる人達は、無駄死にしはるんを避けはったんちゃう。」
驚いた顔でタブレットを見ている嫁の呟きに、ヨロズコちゃんが返答を返す。
【ガサ・ガサ・ガサ】・【ガサ・ガサ・ガサ】
【ガサ・ガサ・ガサ】・【ガサ・ガサ・ガサ】
【ガサ・ガサ・ガサ】・【ガサ・ガサ・ガサ】
【ガサ・ガサ・ガサ】・【ガサ・ガサ・ガサ】
【ガサ・ガサ・ガサ】・【ガサ・ガサ・ガサ】
【ガサ・ガサ・ガサ】・【ガサ・ガサ・ガサ】
【ガサ・ガサ・ガサ】・【ガサ・ガサ・ガサ】
【ガサ・ガサ・ガサ】・【ガサ・ガサ・ガサ】
【ガサ・ガサ・ガサ】・【ガサ・ガサ・ガサ】
そんな音が聞こえそうなぐらい、
最後尾に居たクアッドのような乗り物が入って行った場所の近くの木々が激しく揺れている。
「【空の目】からの映像を見る限りやと、
最後尾のクアッドを霊耐猿。ちゅう名前のモンスターの群れが追いかけてはるように見える。
もし、ウチの予想が当たってたとしたら……
最後尾のクアッドに乗ってはる人達もかなりヤバい状況やろうね。
何故なら、祓い魔法が使えはるエルフ等の亜人を含めた人間と、人間の従魔になりはったモンスター等を除いた、魔法や魔術。呪術等を使いはる、殆どの生き物は幽霊や悪霊を恐れはる。
せやから、悪霊等が好みはる瘴気の濃度が濃い場所に逃げはればモンスターは追って来やんねんけど……
霊耐猿は人間以外で魔法や魔術。呪術等を使いはる人間以外の生き物の中で、幽霊や悪霊に対抗する魔法が使えはる珍しい生き物なんや。
しかも、単純な攻撃力こそ高ないけど……
半球睡眠が可能でスピードも持久力もあり、風魔法や結界魔法とかも使えはって、知恵も回りはる。
そんなんに四六時中、追いかけられはったら、村とかに辿り着きはる前に根負けして、生きたまま喰われはるかもしやんな。」
ヨロズコちゃんが、ボソッと呟く。
「そういう意味では、先頭を走ってたクアッドも同じ感じだな。
半樹上性と完全な地上性の違いはあるが、
霊耐猿と似たような特性を持っている魔狼と呼ばれているモンスターの群れに追撃されている。
雪が積もったこの森の中を、タイヤの代わりにクローラーを履いたクアッドで走るには、時速30キロ程度が限界だろう。
魔狼なら、時速30キロ程度で走る乗り物なら、数日は追い続ける事が出来るだろう。
あのクアッドに乗ってる者達が、力尽きる前に近くの村に辿り着けなければ、魔狼の餌になるだろうな。」
ゼロヒト君がボソッと呟く。
「2台とも、わたし達の居る場所から離れて行ったわね……
それに、彼等の結末もある程度だけど分かったし、
わたし達が、彼等に何かをしてあげる事もない。
だから、もう……彼等の事を見続けなくても良いんじゃない?」
「だね。」・「だな。」・「せやな。」・「じゃな」・「そうね。」・「うん。」
僕達は、嫁の言葉に頷いた。
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