寒波の中の移動⑤ / ラジオ放送からの移住希望者への呼びかけ(前編)
「取りあえず、設定を無視して【賢者】のジョブ補正を繋いでるさかい、最悪の場合は幽霊達をきっちりと祓うさかい安心してな。」
ヨロズコちゃんがドヤ顔で話す。
前方には禍々しいオーラを放つトンネルが見える。
あれがケトさんの言ってた幽霊トンネルの1つなのだろうな。
「右側の崖の上には人どころかモンスターや動物すら居ないわよ。」
「左側の崖の上も同じ状況だぞ。」
コブとドタが嬉しそうな顔で情報を共有してくれる。
「この寒さのお陰ね。
外で何か作業をする気にはならないでしょうからね。」
「せやろな。」
嫁の言葉にヨロズコちゃんが頷く。
「姉さん。
突風は大丈夫か?」
「今のところは大丈夫よ。」
ゼロヒト君の質問に嫁が笑顔で答える。
◇◇◇
「ここも、ムカデとか虫の量が少ないのは有難いわね。」
「せやな。
幽霊達も壁と同化しはりながら、こっちを見てはるだけや。
気持ち良えもんやないけど……
敵意は感じられへんのも地味に嬉しいとこやね。」
嫁とヨロズコちゃんが、ホッとした顔をしながら話す。
真っ暗闇のトンネルの中はトラックのヘッドライトの灯りだけが頼りなのだが……
その灯りに幽霊達が映り込むのは正直、気持ちの良い話ではない。
もし、僕が、このトラックのドライバーだったら……
幽霊に驚いて、何度も、トンネルの壁にトラックを激突させている自信がある。
そして、僕達の乗るトラックのドライバーの嫁が、幽霊達に怯えていないのが、唯一の救いであるととも、本当に頭が下がる。
■■■
「ラジオ放送を受信した。
スピーカーにする。」
ゼロヒト君が、そう言いながら携帯電話を操作し始めた。
時刻は7時。
昨晩は、大量の幽霊達を見る羽目になった事と、死ぬほど寒い事以外は、
有難い事に問題は出なかった。
『ギルドのアタルトイ支部です。
キトナガエ帝国政府は、自国の大きな町の街壁の周辺に住んでいる壁外区の住人の中から、
ミンボン山脈の樹海の中の村々の中で、全滅したり、大幅に人口を減らした村への移住を希望する者達との面談の要望をミンボン連邦政府に出されるとの事です。
これに先だって、ギルドのアタルトイ支部では、
当支部の管轄内に拠点を構えられる冒険者や運び屋。商人や職人等に対し、
ミンボン山脈の樹海の中の村々に拠点を構えらておられる、もしくは、拠点を移される方々に対しましては、
今後、5年の間、ギルドへの新規登録料、及び 更新料を免除させて頂く事を決定しました。
以上となります。』
◇◇◇
「移住者を募るねぇ……
兄さん。この件について、どう考える?」
「そもそも、キトナガエ帝国の大きな町の街壁の周辺にあるという壁外区っての、どんな場所なの?」
「壁外区とは無国籍の人々が集うスラム街の事だよ。」
僕の質問にゼロヒト君が答える。
「キトナガエ帝国はスラム街に住む人々を減らす事が出来て、
ミンボン連邦は、今回のモンスター氾濫のせいで大幅に減らしたであろう、ミンボン山脈の樹海に住む人々の人口を増やす事が出来る。
その上で、僕達の捜索網をキトナガエ帝国の西都等のスラム街にも自然な形で広げる事も出来る。
そんでもって、キトナガエ帝国政府やギルドのアタルトイ支部が、ミンボン山脈の樹海の村々に送り込む人達の中に、僕達を捜索する密命を受けた人達を送り込む事で、
ニンムシュ達が、ミンボン山脈の樹海から引き上げた後も、自然な形で僕達の捜索を継続する事も出来る。
とか……そんな感じの事を考えてると思う。」
「兄さんもそう思うか。
俺も同じ事を考えてたよ。」
ゼロヒト君が僕の言葉に頷いてくれる。
「ウチ達は、とっくの昔に、あの森から出てる。ちゅうのにご苦労なこったな。」
ヨロズコちゃんが大笑いしている。
「ハツイロ砦は、ミンボン山脈の北東の出入り口であり、ミンボン山脈の樹海の北東の出入り口でもある。
つまり、俺達は、一旦は、あの森から離れたが……また、近づくって訳だ。
だから、とっくの昔に、あの森から出た。と楽観視する事は出来ねぇぞ。」
「せやったな。
せやかて、今更、フトバル公爵から請け負ったハツイロ砦に手紙とかを届ける仕事をキャンセルする訳にもいかへんよね……」
ゼロヒト君の話を聞いたヨロズコちゃんが苦笑いしている。
「元の世界でもモブの社会人だった経験から考えると、
僕達がモブに偽装する限り、この件に関わらず、正当な理由もなく受けた依頼を断るのは止めた方が良いだろうね。
しかも、相手(フトバル公爵)は、僕達の世界の日本には居なかった貴族という、やんごとなきお方だ。
僕だって、フトバル公爵から受けた仕事をキャンセルが出来れば!って考えはするけれど……
現状を考えると、フトバル公爵から受けた仕事をキャンセルするリスクの方が、
フトバル公爵から受けた仕事をキャンセルしなかった事でニンムシュ達に見つかるリスクよりも高いと思う。」
「兄さんの言う通りだな。
ニンムシュ達が、何処まで本格的に俺達の捜索に動いているのかは分からんが……
これから、ギルドへ皆から貰った推薦状とフトバル公爵からの依頼書を持って、ギルドに登録に行くんだ。
その状況で、いきなり依頼をキャンセルするとか……流石にねぇわな。」
ゼロヒト君が、苦笑いしながら僕の話を補足してくれる。
「やっぱ、フトバル公爵の依頼を断るんは無しみたいやね。
せやったら、ニンムシュ達にバレへんように頑張らんといけへんな。」
ヨロズコちゃんがタメ息をつきながら話す。
◇◇◇
『ケトにゃ。
そろそろ、日の出の時刻にゃ。
20分ほど走った場所に広場があるにゃ。
そこで15時まで休息を取るにゃ。』
ケトさんからの無線が入る。
「了解。」・『了解。』×7
嫁を含めた乗り物のドライバー達が一斉にケトさんに返答を返す。
『チナ。
休息中の役割を指示してくれにゃ。』
『了解。
休息中の見張り番は、打ち合わせ通り、シラトラさんをリーダーとし、パッシとリーと、魔犬のワンゾウと魔犬のバフミに行って貰う。
また、今日の朝御飯と昼ご飯はビスケットと干し肉で済まし、
夕御飯の準備は、ミインさんをリーダーとし、バスのメンバーの中の調理係の人達に行って貰う。
以上。宜しく頼むわ。』
「了解。」・『了解。』×8
ゼロヒト君を含めた乗り物の責任者達が一斉にチナさんに返答を返す。
因みに、パッシ君とリーちゃんは、
ロンさんとスブンさんが運転するトラックに乗っている4人組の中の2人だ。
この3人と2匹のお陰で、ゆっくりと休めると思うと頭の下がる思いだ。
■■■
「ふう。
やっと休める。」
「今日もご苦労様でした。」
ホッとした顔で呟く嫁に労いの言葉をかける。
「まぁ……
これが、わたしの仕事だからね。
そう思うならば、パパもニンムシュ達に見つからないように悪知恵を捻り出すのを頑張ってね。」
「了解。」
僕は苦笑いしながら嫁に返答を返す。
確かに、異能を使って物を増やしたり、皆を守ったり癒したりするよりも、
ゼロヒト君から貰った情報をもとに、ニンムシュ達に見つからない為の悪知恵とかを捻り出している時間の方が多いもんな。
とはいえ……
それが今の僕の仕事だと言われると、なんだか複雑な気持ちになってしまうよな……
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