【サイドストーリー】希望
「のう。ギルマス(ニンスキ村の)。
やはり、あの時、ユバリスの提案を突っぱねて、特別保護院の連中を連れて来た方が良かったかのう……」
「村長(ニンスキ村の)。
それは不可能だった。
そして、それを証明する為に、
娘達(サリ & チル)は、特別保護院の職員としてだけではなく、
俺達、村の代表者の親族として、ユバリス達と残ってくれたんだ。
だから、何度、あの時点に戻れたとしても……俺達は、きっと同じ選択をするしかないんだよ。
そう。あの時、ユバリスが言ったように、
名義が誰かは別として……バスを1・2台、村で購入してなかった時点で詰んでたんだ。」
「分かってるさ、そんな事。
だけど……それでも……」
「明日の朝にはキトナガエ帝国の西都に着ける。
このメンツで、それが出来ただけでも奇跡だ。
だが……俺は諦めてねぇ。
ユバリス達は、最初の難関だった、運び屋を確保する事が出来た。ってのはラジオ放送で聞いたろ?
だから、きっと……更なる奇跡を起こしてくれるんじゃねぇか。って思ってる。
それに、ケラも居るんだ。
俺達のヒーローだった、あいつは……
たとえ年老いても不可能を撥ねのけるって信じてるんだ。」
「そうだな。そうだよな。
まだ……死んだとは決まってない。」
「そうだぞ。
まだ、決まってないんだ。」
トラックの二列目で、ギルドマスター(ニンスキ村の)と村長(ニンスキ村の)が夢物語のような話をしている。
彼等も、そんな奇跡が起こる事が、限りなく0%に近い事は分かってる筈だ。
だけど……俺は、それを言いたくない。
娘さんや仲間達を思う、2人の気持ちに水を差したくないからじゃない。
俺自身も、その有り得ない奇跡を信じている1人だからだ。
だから、頼む。ケラの兄貴。
心の底から驚かせるような武勇伝を増やしてくれ。
ラジオ放送はモンスター氾濫が起こったと伝えているが……
その死地の中から仲間達を引き連れて、俺達の元に生きて帰って来てくれ。
ーーーーーーー
いつか、テイヒィの姉御達やケラさんを追い越して、村で初となるSクラスの冒険者になる。
アタシとレクは飽きるぐらい話してきた。
だから、コブドタ商会の人達がアタシ達の応援に来てくれた時は、嬉しいような悔しいような複雑な気分だった。
アタシとレクは、来年で15才。
独り立ちするにはメンバーが足らないから、引き続きテイヒィの姉御達の補佐をしながら経験を積むか、
ギルドから貰っているアカデミーへの推薦状を使って、レクと共に、アカデミーに入り、そこで同年代の子達と研鑽を積むかで悩んでいた。
それなのに……
アタシ達と同年代であろう彼女達はチナ姉達やテイヒィの姉御達。ケラの親父っさん達と対等な立場で仕事をする為に現れたのだ。
ただ、今は……
悔しい気持ちが全く無いと言えば嘘になるが……
なんか、スッキリもした。
そして、有難い事に、レクも同じ気持ちだと言っていた。
ケラの親父っさん曰く、
アタシとレクは、自分と同じ秀才。
しかも、秀才の中では、トップクラスの才能があった自分とは違って、アタシとレクは秀才の中では凡庸。
頑張り次第では最強のAクラスには届くだろうが……それ以上は望めない。との事だ。
後一歩でSクラスになれたというケラの親父っさんの言葉を軽く見てた訳ではないが……
コブドタ商会の人達と出会う前のアタシとレクは、
アタシとレクが調子に乗らないように言ってくれているだけだと思ってた。
ケラの親父っさんは上を目指すよりも、ユバリスさんをはじめとするパーティーのメンバーや、同じギルドの営業所に所属する登録者達との絆を優先した事でSクラスに届かなかった。って、他のギルドの支店や営業所に所属する先輩達は言っている。
そして、テイヒィの姐御達は、
そんなケラの親父っさんの悪癖まで受け継いでしまったから、Sランクには届かないだろうとも言っている。
そんでもって、チナ姉達も、冒険者と貿易商人の違いはあれど、ケラの親父っさんの悪癖を引き継いでしまっているのでSランクに届かないだろうとも言っている。
一度、レクがへべれけに酔っ払った時に、
『そいつ達が言う、ケラの親父っさんの悪癖とやらを引き継いだまま、Sランクに到達し、そいつ達を黙らせてやる。』
とテイヒィの姉御達に宣言した時に、
『あんた達も、そいつ達も、本物の化け物に出会えたら考えが変わる。』
とイナノの姉御が大笑いしたのを今でも鮮明に覚えてる。
今なら分かる。
その本物の化物とはきっと……
コブドタ商会の人達のような人達を指しているんだろう。
アタシやレクと同年代の人が、チナ姉達やテイヒィの姉御達。ケラの親父っさん達と対等な関係で仕事をする人が居るなんて、想像すらしてなかったもん。
◇◇◇
ラジオからモンスター氾濫が起きたという一報が流れて来たのを聞いたアタシは、思考の渦から呼び戻された。
「イエム姉ちゃん。
クムちゃん達とまた会えるよね?」
寝つけなかったのか、起きていたソモが不安そうな顔で聞いてくる。
ソモがいうクムちゃんとは、
アタシ達よりも一足早く村(ニンスキ村)を出た子供の1人で、彼女の親友だ。
「アタシは会えると信じてる。」
アタシは絶対に会えるとは言わず、敢えて希望を口にする。
「うん。
アタシも信じる。」
ソモは祈るような仕草をしながら窓の外を見ていた。
ーーーーーーー
「アタシも耄碌したかねぇ……」
「チナ達もテイヒィ達もコブドタ商会の方々も現役です。
一線を退き、特別保護院の院長に収まられているユバリス先生とは違いますよ。
けど、まぁ……コブドタ商会の方々を見て、自信を失われるのは分かる気がします。
レクとイエムと大して変わらない年齢の方が、チナ達やテイヒィ達と遜色の無い働きをしてくれていますもんね。」
ユバリス先生の愚痴にアタシは相槌を打つ。
「そこじゃない。
そういう奴は稀に居る。
凄いのは……あの特許の品の発想や、
乳児達のミルクを作る為のお湯を都度、沸かさなくても済むように、新品の湯湯婆の中に貯めておく。っていう発想だよ。
会った時から、アタシの直感が、
あの子達の事を旦那の言葉を借りれば化物だ。って言ってた。
だから、そこは驚いてはないんだけどさぁ……
あの特許の品や、新品の湯湯婆の中にお湯を貯めておく。って発想は人外地を快適に移動する為の知恵。って感じじゃない?
その辺は……年長者であるアタシ達の独壇場だと思ってたんだけど……
本当、笑うしかないわ。」
「その割には嬉しそうですね。」
「そりゃ、そうさ。
湯湯婆の発想が無かったら、休憩の度にお湯を沸かしていただろうから……
その分、行軍が遅れてた。
それは、ほんの僅かな時間かもしれない。
だけど……
その僅かな時間がアタシ達の生死を分けたと思うと、あの子達に感謝もするさね。」
ユバリス先生が祈るような仕草で話される。
「生死を分けたですか……
確かに、お腹空いたの大合唱から始まって……
その声に起こされた幼児達のギャン泣き攻撃を食らってましたわね。
交代で休みが取れてるのも、それが無いお陰。
外に居るのモンスターに殺される以前に、
中に居る可愛いモンスター達に過労死させられてたかもしれませんね。」
「それもあるかもね。」
ユバリス先生が笑いながら窓の外を眺められていた。
■■■
ラジオからモンスター氾濫が起こったという一報が伝えられた。
元冒険者のユバリス先生は落ち着き払っている。
先刻のやり取りから考えると……
きっと、この事を予見していたのだろう。
ルユ先生が娘さんであるワフちゃんをギュッと抱き締めたのだが……拒否される。
ワフちゃんがルユ先生を拒絶したのは、
「ママ(ルユ)を手伝って、赤ちゃん達のお世話をするように、パパ(グリチル)から言われているのに……
ママ(ルユ)にギュウされると、赤ちゃん達のお世話が出来ない。」
という理由らしい。
それを聞いて、何故か、吹っ切れた。
たとえ、外がどんな状況であろうとも、アタシ達が出来る事は限られているのだ。
「こちらチル!
ロン!
あんたに惚れた!
嫁に貰え!」
『ウォォォォォォ!チルゥゥゥゥ!
喜んでぇぇぇぇ!』
「宜しい。じゃ。後で。」
親友は、いきなり無線機を使って公開逆プロポーズをかまし、その結果、ロンに嫁入りする事になった。
あんた(チル)……何してんだ?
てか……ロンが浮かれてポカやらないか心配で仕方がない。
まぁ……スブンが付いてるんだ。
彼ならば何とかしてくれるだろう。
なんてったって、アタシの未来の旦那様なのだから。
「さてと。
言いたい事も言えたし、お仕事も頑張りますかな。」
ここ最近、借りてきた猫のように大人しくなってた親友は、久しぶりに、とびきりの笑顔を見せてくれる。
そう。それ。そんな、あんた(チル)にロンは惚れたんだぞ。
淑女のような、あんた(チル)は……あんた(チル)じゃないよ。
てっ……アタシも頑張ろ。
てか……スブン。あんたが頑張ってよね。
いかん。いかん。今は、そんな場合じゃない。
ワフちゃんを見習って、やれる事を全力でやろ。
頑張れアタシ。負けるなアタシ。
ここを乗り越えれば……スブンとの明るい未来を掴み取れる筈。てか……絶対に掴んでみせる。
評価や感想やレビューやいいねを頂けたら有り難いです。
頂いた感想には、出来る限り答えていきたいと考えております。
宜しくお願いします。




