モンスター氾濫の予兆(後編)
「ラジオ放送を受信した。
スピーカーにする。」
時刻は19時。
ゼロヒト君が、そう言いながら携帯電話を操作し始めた。
『ギルドのミンボン山脈支店です。
ミンボン山脈の樹海の最深部で異常な濃度の瘴気が噴出し続けてる原因を調査されておられるニンムシュ様から、
今晩にでも、ミンボン山脈の樹海の最深部でゾンビが発生する可能性が高まった。との情報を頂きました。
尚、調査団に関しましては、【疾風の黒狼団】・【納勤乙女団】・【チーム ジャス & ティス】・【ベゴン団】・【ムミョウ団】を除き、
既に、高い街壁に囲まれた、ミンボン山脈の温泉街へ退避されておられらしく、
今、言った5つの冒険者のパーティー以外は、長期化さえしなければ、今晩からゾンビが発生したとしても問題は無いとの事です。
それと【疾風の黒狼団】・【納勤乙女団】・【チーム ジャス & ティス】・【ベゴン団】・【ムミョウ団】の皆様。
ニンムシュ様から、各々が与えられた調査を中断し、ミンボン山脈の温泉街へ撤退するように。と言うご指示が出ております事を、お伝えします。
当ギルド(ギルドのミンボン山脈支店)としましては、【疾風の黒狼団】・【納勤乙女団】・【チーム ジャス & ティス】・【ベゴン団】・【ムミョウ団】の皆様へ救出部隊を出せない事を、お詫びすると共に、
皆様が無事、ミンボンの温泉街に辿り着かれる事を、心より願っております。』
「【双頭の叡知】や【スローライフ切望団】は、今のところ無事みたいやな。
ホンマ、良かったわ。」
ラジオ放送を聞いた、ヨロズコちゃんが、嬉しそうな顔で呟いていた。
◇◇◇
「そう言えば、ヨロズコちゃんは【空の目】の映像で、あの森の最深部を見てたもんね。
その顔を見る限りでは……
【疾風の黒狼団】と【納勤乙女団】は、ヨロズコちゃんの知り合いではなかったみたいね。」
嫁が嬉しそうに話す。
「いや。
【疾風の黒狼団】も【納勤乙女団】も知り合いや。
せやけど、【疾風の黒狼団】のメンバーは……
ウチに暴行をしようとしてきはったから、返り討ちにしてやった人達やねん。
しかも、その後、
小規模なヤ◯ザさんで幹部をやってはるリーダーの男の子の親御さんが、治療費と慰謝料を払え。って、ウチの家に怒鳴り込んで来はったんや。
でっ。弁護士をしてはる、お母ちゃんと、そいつ達と違うて大規模なヤ◯ザの二次団体で組長をしてはるお父ちゃんがクレームを入れはったんや。
そしたら、組長さんが、直ぐに菓子折りを持って、ウチの家に来はってな。
リーダーの親御さんを破門にしはった上で、
次、こいつ達が、ウチに迷惑をかけたら、責任を持って山か海に沈めるさかい。今回だけはこれで勘弁して欲しい。って言わはったんや。
ウチのほうに実害があった訳やないし、これ以上、揉めて、逆恨みされても嫌やから、
お母ちゃんと、お父ちゃんに、その申し出を受け入れて貰うように頼んであげたんやけど……
正直な話、あいつ達が、
ウチの目の前で、ゾンビに喰われはってるんを見たとしても、ザマァ見さらせ。としか思わへんわ。」
ヨロズコちゃんが、不機嫌な顔をしながら、思い出話を語ってくれた。
◇◇◇
「何それ、【疾風の黒狼団】って、最悪な奴等じゃん。
てか、ゾンビさん、頼むから頑張ってくれ。
でっ、【納勤乙女団】も糞みたい奴等なの?」
嫁がイラついた声で質問をする。
「せやで。
ウチはガンだれられはるぐらいで、特になんかされた訳やないけど、
油断すると、格がとうたらとか訳わからん事を言わはりながら、
オタクとか腐女子とか、弱そうな人達にチョッカイをかけはるから、しょっちゅう、説教してやってたわ。
まぁ……あいつ達、アホやから、ウチの言葉なんて伝わらへんみたいやったけどな。
そんな奴達やさかい、下手にプチチートな能力とか得はったら、弱い者苛めをしはりまくるんが目に見えてはる。
そんなん、ウチ達の学校。っていうよりか……ウチ達の世界の恥やん。
せやから、正直な話、
この世界の人達に、多大なご迷惑をかけはる前に、サクサクっとゾンビでも何で良えから殺して貰うほうが、世の為・人の為になる思うんや。」
「うわ。最悪。
ゾンビさん。出番ですよ。
今なら、糞や屑が食い放題ですよ。」
「せやろ。
姉さんも、ゾンビを応援したくなるやろ?」
嫁とヨロズコちゃんが物騒な答えで一致団結している。
◇◇◇
「おいおい。
気持ちは分からんでもないが、人の命が軽い、この世界に馴染み過ぎじゃね?
勿論、自分達に不利益を与えて来たり、目の前で他の人に理不尽な事をしてたら止めさせるの問題無ぇが、
殺すのはやり過ぎじゃね?」
「別に目の前でイキり捲ってるのを見ても、半殺し以上の事は、する気なんて無いわ。
だからこそ……必◯仕事人的な存在を応援してるだけでしょ。」
「せやせや。
願うぐらいは自由やん。」
ゼロヒト君の言葉に、嫁とヨロズコちゃんが不機嫌な顔で反論する。
「この世界には、主達の世界とは比べ物にならぬ程、 呪術の効果が強い。
人を呪わば……って言うじゃろ。
気持ちは分からぬでもないが……
他人の不幸な死なんて望まぬ方が身の為じゃぞ。」
ウミミナちゃんが諭すように話す。
「何それ。怖。」
「せや。姉さん。
あいつ達の事はNPCやと思う事にしよや。
そしたら、あいつ達に変な感情なんて湧かん気がする。」
「NPC?」
「ノンプレイヤーキャラクターの略だよ。
プレイヤーが操作しないキャラクターの事を指す言葉なんだ。
わかりやすく言えば、ロールプレイング ゲームに出てくる村人とかの事だな。」
嫁とヨロズコちゃんの会話にゼロヒト君が加わる。
「成るほどね。
とりあえず、わたし達の周りでウロチョロしない限り無視する存在。
そんでもって、目の前に現れたら、サクッと駆除する存分。って事ね。」
「せやな。」
嫁の言葉に、ヨロズコちゃんが頷く。
「おいおい。
いきなり駆除はダメだろ。
この世界に来て更正してるかもしれんだろ。
まずは様子を見てやるべきだ。
でっ。やっぱ、ダメだら……
人外地へ放り出す程度にしといてやれよ。」
「更正してはったら、ウチ達の邪魔にならへん限りスルーすんるは賛成やけど……
更正してへん奴を人外地に放り出しはっても戻って来はるか、他の人外地に出没しはるだけなんとちゃうんか?
無駄に犠牲者が増えはるだけちゃうんか?」
「ヨロズコちゃんの言う通りね。
人の世界からのゴミは、人の世界で処理しなきゃ。
人外地に不法投棄するのは違うと思う。」
宥めるゼロヒト君の言葉を聞いても、ヒートアップしている嫁とヨロズコちゃんの心には響かないようだ。
「ゼロヒト君の異能って、他者のジョブ補正の接続を紐付けたり、外したりする事も出来るんだよね?」
「あぁ。そうだよ。」
「だったら、人外地に放り出す時にジョブ補正の接続を切るのはどう?」
「そいつ達も違法な召喚を受けたんだぞ。
違法な召喚された無能者は脳や肉体が活性化される。ってウミミナちゃんが言ってたじゃん。
それは、それで危険な事になるんじゃね?」
「大丈夫じゃ。
接続を切ったとしても無能者にカウントはされぬ。
何故なら、あくまでも接続を切っただけで、再接続が不可能な訳では無いからじゃ。」
僕とゼロヒト君の会話に、ウミミナちゃんが加わってくる。
「なら、ゼロヒト君にジョブ補正を切って貰うのは、
アース ドラゴンとか、リトル アース ドラゴンとか、魔狼とか、人肉が好きなモンスターの近く。って事で。」
「せやな。
あいつ達だけやのうて、この世界の屑どもにも使えるんちゃう?」
「たしかに。
ヨロズコちゃん。天才ね。」
「まぁな。」
ヒート アップしている嫁とヨロズコちゃんが、まだ見ぬ敵?への報復を計画し始めた。
「はぁ……
その刑に相応しい奴を見つけたら……その時は刑を執行させて貰うわ。」
ゼロヒト君がタメ息をつきながら、ヒートアップしている嫁とヨロズコちゃんを見ている。
■■■
『ガチイだ。
ギルドからのラジオ放送を聞いた奴も居るかと思うが、ミンボン山脈の樹海の最深部がヤベえ状況らしい。
その影響で、モンスター氾濫が何時、起こってもおかしくないと思われる。
だから無線で班長会議をした。
でっ。俺達で出した、お前達への指示を話す。
指示は実にシンプルだ。
だから返答は不要。
では指示を出すぞ。
休息時間を可能な限り減らし、1秒でも早く、キトナガエ帝国の西都に辿り着く。
以上だ。』
時刻は20時。
無線機からガチイさんの雑な指示が聞こえてくる。
◇◇◇
「雑な指示やなぁ……」
「それ分かるわぁ……」
ガチイさんからの指示にヨロズコちゃんと嫁が苦笑いしている。
「モンスター氾濫が起きれば、この辺りも安全とは言えないらしい。
だから間違えた指示を出した訳では無いと思うぞ。」
ゼロヒト君が苦笑いしながら話す。
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