モンスター氾濫の予兆(前編)
『ガチイだ。
客人。我々は、18時にここを封鎖し、19時頃に、ここを立ち去る予定だ。
ギルドからは何時、モンスター氾濫が起きてもおかしくないという連絡が来てる。
一刻も早く、ここを立ち去りたければ、我々を置いて先に出てくれても問題ないぞ。』
無線機からガチイさんの声が聞こえてくる。
時刻は8時。
僕達は、ガチイさん達と一緒に、森から草原へと出る第6砦を抜けたところだ。
『こちらチナ。
ご配慮、感謝します。
今のところ、皆様と一緒にキトナガエ帝国の西都を目指したいと考えてはおりますが……
状況次第では、ガチイ殿に報告の上、先に出させて貰いますわ。』
『了解した。
その際は、報告を頼む。』
『畏まりました。』
チナさんとガチイさんの短いやり取りが終わる。
『こちらチナ。
16時まで休憩よ。
その後の指示は、16時から随時行うので、16時以降は、何時でも動けるようにしててね。』
「了解。」・『了解。』×10 嫁を含むドライバー達と荷台のリーダー達が、チナさんの指示に短い返答を返す。
■■■
「はぁ……」
トラックの天井にテントを立てた休んでると、ヨロズコちゃんが溜息をついた。
「どうした?」
嫁が心配そうな顔でヨロズコちゃんを見る。
「いやな。
【空の目】で、あの森の最深部を見てたんやけどな。
ザ・冒険者。って感じの装備に身を包みはった、ウチの同級生をチラホラと見かけたんや。」
「そいつ達に何があっても助けには行けねぇ。
だから、お前さんは見ない方が良いと思うぞ。」
ゼロヒト君が溜息をつきながら、会話に加わる。
「せやな。」
ヨロズコちゃんが悲しそうな顔で頷く。
「全員、無事やと良いんやけどな。」
「だね。」・「うん。」・「だな。」・「じゃな。」
ヨロズコちゃんの言葉に皆で頷く。
「はぁ……これ以上、見るの止めとくわ。」
「だな。」
ゼロヒト君が、そう言うと、ヨロズコちゃんの頭をワシャワシャと撫でた。
■■■
「パパ。起きて。」
嫁に揺すられる。
テントからは日の光が差し込んでいるのだが……夕方。って感じがしない。
携帯電話を見ると14時だ。
「どうしたの?」
「モンスター氾濫の可能性が更に高まったらしく、出発時間が早まったの。
それと、あそこの砦も封鎖作業に入ったわ。
あそこの砦の人達の準備が整い次第、皆でキトナガエ帝国の西都を目指す事になったのよ。」
「マジかぁ……
直ぐに準備をする。」
「お願いね。」
嫁は、そう言うとテントから出て行った。
僕は寝袋をたたみ、身仕度を整える事にした。
■■■
「お待たせ。」
「クルサルは凄いのう。
この喧騒の中でも爆睡しておるのじゃから。」
キャビンに乗り込むとウミミナちゃんが、大笑いしながら話しかけてきた。
「面目ない。」
「気にするな。
ここまで突き抜けられたら怒りも湧かぬ。」
「わたしは、恥ずかしさでいっぱいだけどね。」
大笑いしているウミミナちゃんとは対照的に、嫁がジト目で僕を見てくる。
【ガチャ・ガチャ】
「おっ。兄さんも起きたか。」
「おはようさん。」
ゼロヒト君とヨロズコちゃんが、慌ただしく、キャビンに駆け込んでくる。
「ごめん。寝入ってた。」
「気にしなくても良えよ。
クルサルさんの爆睡モードには慣れてもうたわ。」
「確かにな。」
ヨロズコちゃんの返答を聞いたゼロヒト君が吹き出す。
「それは、そうと兄さん。
状況を話すぞ。」
「うん。」
「あの森の中心部で、通常、群れをなさないモンスターや動物が、群れをなして外縁部に向けて移動し始めたのがチラホラと確認され始めてるらしいんだよ。
因みに、これは……過去、モンスター氾濫が起きる直前に、よく見られる現象らしいんだ。」
「つまり……モンスター氾濫が起こる兆候が出た。って事だね。」
「そういう事だ。
ただ、ガチイさん達が言うには、
避難民達が焦って、大きな事故を起こし、街道や林道を使えなくするよりかは、
まだ、何も言わない方が助かる人数が多くなるであろう。という理由で、
ギルドや、今回のモンスター氾濫に関わる場所に領地を持つ為政者達は、一部の人達を除き、発表を控えるらしんだよ。
大局的に見れば良い判断だとは思うが……
人道的には、どうなんだ?つう内容だ。
兄さんが爆睡中だったから、ヨロズコと打ち合わせに出たんだけど、
こいつが、ギルドや為政者達の判断に物申さないか、ヒヤヒヤしっぱなしだったよ。」
「大事な時に寝坊しちゃって、すみませんでした。」
苦笑いしながら話すゼロヒト君に頭を下げる。
「【空の目】で、
街道でモンスターに襲われはった人達のトラックとかの乗り物が、道を塞いではるせいで、迂回していはる人とか見てたからな。
お偉いさん達が、言わんとしてはる事も分からへんでもなかったし、
その辺もクリアーになる代案を出せ。って言われても思いつかへんかったから、文句を言うんを我慢してん。」
ヨロズコちゃんが悔しそうな顔で話す。
「でっ。パパは……代案とか思いつく?」
「流石に厳しいね。」
「お寝坊した上に、挽回も出来ないと。」
「ごめん。」
「まぁ……パパだもん。そんなもんだよね……」
嫁が溜息をつきながら僕を見る。
■■■
『ガチイだ。
次は、俺達の班が出る番だ。
難しい事は言わねぇから、返事は不要。
昨日の隊列を崩さずに、前の班に着いて行くぞ。』
時刻は16時。
無線機からガチイさんの指示が聞こえてくる。
「雑な指示やなぁ……
点呼も確認も無しかいな。」
「1時間前から出発時間の連絡が来てたからな。
乗り遅れた奴は、老若男女問わず自己責任。つう事じゃね。」
ヨロズコちゃんの言葉に、ゼロヒト君が苦笑いしながら返答を返す。
「あっ。ケラさん達の乗るピックアップ トラックが動き始めた。
皆、出すよ。」
嫁が、そう言うと、ゆっくりとトラックが動き始めた。
◇◇◇
「前も、後ろも、右も、左も乗り物だらけやね。
姉さん。大丈夫か?」
「だだっ広い草原だから、今までの狭い森の中の道と違って、そこまで車幅とかを気にする必要もないから楽だし、
渋滞にもなってないから、元の世界で帰省ラッシュの
中を運転するよりも楽。
欲を言えばアスファルトで塗装された道が良いけど……
しこたま森の中のガタガタ道を運転したお陰で、そういう道にも、もう慣れたよ。」
心配そうな顔をしているヨロズコちゃんに嫁が笑顔で答える。
「気をつけるべき危険なモンスターは、
アース ドラゴン(ユタラプトルに似た姿) 、
リトル アース ドラゴン(ディノニクスに似た姿)、
ミクロ アース ドラゴン(ミクロラプトルに似た姿)
それに魔狼や魔豹。
って……ミンボン山脈の樹海と代わり映えしねぇな。
おっ。
ブラッド ライオンや、キャリオン ハゲワシなんつうのも、危険なモンスターとしてシレッと追加されてるな。
そんかし、ブラッド ベアや、ブラッド タイガーは、この草原には居ねぇみたいらしいぞ。
後、モンスター氾濫が起きたら、鹿や馬。牛等とあった草食系のモンスターも、凶暴化して襲ってくるらしいな。
ただ、普通の動物は、モンスター氾濫が起こっても、凶暴化はしならしいから、気をつけるのは大型の肉食動物ぐらいで良いみたいだな。」
ゼロヒト君がノートパソコンを動かしながら、次々と貴重な情報をくれる。
◇◇◇
「カァ。カァ。カァ。」・「カァ。カァ。カァ。」
「カァ。カァ。カァ。」・「カァ。カァ。カァ。」
「カァ。カァ。カァ。」・「カァ。カァ。カァ。」
「カァ。カァ。カァ。」・「カァ。カァ。カァ。」
「カァ。カァ。カァ。」・「カァ。カァ。カァ。」
「カァ。カァ。カァ。」・「カァ。カァ。カァ。」
「カァ。カァ。カァ。」・「カァ。カァ。カァ。」
「カァ。カァ。カァ。」・「カァ。カァ。カァ。」
「カァ。カァ。カァ。」・「カァ。カァ。カァ。」
カラスの鳴き声が上空から聞こえてくる。
「あれさぁ……森の魔鴉の群れだよな?」
「そうね。
草原の魔鴉と違って足が太いもの。」
「何故、森の魔鴉達が、草原に出てきてるのだろう……」
「本当よね……ってバカ。そんな事、どうでも良いわ。
ドタ。タオルの中に隠れるわよ。」
「おう。」
ドタとコブが慌てて、ハードタイプの犬猫用キャリーケースの中に入れているタオルにくるまる。
「大丈夫や。
流石にトラックのフロントガラスを突き破ってまで襲ってこうへんよ。
てか……そんなに心配なんやったら、タオルに隠れはるんやのうて、結界でも張りはったら良えやん。」
ヨロズコちゃんが、そんなコブとドタを見ながら爆笑している。
「草原の魔鴉ではなく、森の魔鴉かぁ…
ゼロヒト君。念のためチナさん。バスコさんとかに報告しておいた方が良い気がするんだけど……」
「兄さんの言う通りだな。
無線機をオンにする。
ヨロズコ。イラン事を言うなよ。」
「了解。」
ゼロヒト君の指示にヨロズコちゃんが不服そうな顔をしながら、短い返答を返す。
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