動き出したニンムシュと字(あざな)
『こちらバスコ。
川下りは終了よ。
皆、ご苦労様でした。』
時刻は6時。
言葉とは裏腹に疲れきったバスコさんの声が無線機から聞こえてきた。
『こちらチナ。
川下りの終了、了承したわ。
毎日、同じ事を言って申し訳ないけど……
調理を担当する者と、
魔犬達の散歩をさせる係の者と、
仮設トイレを作る者と、
仮設トイレを利用する者以外は、
トラックやピックアップトラックから降りないでね。
後、仮設トイレを利用する時は、誰かに一言、言ってからにしてね。
では、調理担当は13時から仕事を始めて、
それ以外の人は出発時刻の14時まで休んでてね。
何時もよりも、1時間ほど休憩時間が短いから、間違えないでね。』
『了解。』×10・ 「了解。」
各々の乗り物のドライバー達と、各々の乗り物の荷台のリーダー達が、チナさんの指示に短い返答を返す。
■■■
「疲れたぁ……
パパもご苦労様。
今日は、わたしも少しだけ寝かせて貰うわ。」
「どうぞ。どうぞ。」
嫁の言葉にヨロズコちゃんが笑顔で頷く。
「あのまま林道を走ったよりか、6時間以上、距離を稼げてる。
結果だけを見ればクルサルさんの異能のサポートがなければ失敗していただろうが……
運を信じてリスクを取ったバスコさんの判断も、強ち間違いとはいえないな。」
「せやな。
クルサルさんのサポートにも気がついてはらへんようやし、結果だけ見ても皆に取って良かったんちゃう。」
ゼロヒト君の言葉にヨロズコちゃんが頷く。
「ホヒュー。グゥゥゥゥ。」
嫁が気持ち良さそうな顔でイビキを掻き始めた。
余程、疲れていたのだろうな。
「見張りはウチがするさかい、クルサルさんも寝ときなはれ。」
「有り難う。
そうさせて貰うよ。」
僕はヨロズコちゃんにお礼を言うと静かに目を閉じた。
■■■
「パパ。起きて。そろそろ出発の時間よ。」
「おはよ。」
携帯電話を見ると13時30分と表示されている。
先刻、寝袋に入ったばかりの気がするが……
どうやら、爆睡していたらしい。
「トイレに行ってくるよ。」
「おう。」
寝袋を畳ながら話すと嫁が笑顔で頷く。
今日も長い1日が始まる。
■■■
『こちらバスコ。
皆が昨日、頑張って川下りをしてくれたお陰で明日の朝までには平原に出れそうよ。
今日は隊列を川下り前の通常の隊列に戻す。
では、出発。』
『了解。』×10・ 「了解。」
各々の乗り物のドライバー達と、各々の乗り物の荷台のリーダー達が、バスコさんの指示に短い返答を返す。
「明日の朝までに平原に出れそう。って……
えらい早ないか?」
ヨロズコちゃんが無線機が切れているのを確認しながら小首を傾げながら話す。
「この辺りに出るつもりじゃね?」
ゼロヒト君が、そう言いながら、携帯電話をヨロズコちゃんに投げて渡す。
「へ~。
スクショしてくれはった画像を見ると、この辺りだけ森が開拓されてはって平原になってはるみたいやね。
有難う。意味が分かったわ。」
ヨロズコちゃんが納得した顔をしながら、ゼロヒト君に携帯電話を投げ返す。
■■■
「うわ。
ミンボン山脈の樹海は、ミンボン連邦とういう、
ミンボン山脈。及び、ミンボン山脈の樹海に住む人々の連合体に所属しているらしいんだ。
でっ。ギルドのアタルトイ支部。つうのが、
ミンボン連邦や、ニンムシュが拠点としているキトナガエ帝国など、この辺りの複数の国々にあるギルドの支店や営業所等を統括しているらしいんだが……
そのギルドのアタルトイ支部が、ミンボン山脈の樹海の中央部でモンスター氾濫が起こり、
ミンボン山脈の中央部や外縁部。及び、その周辺の平原の多くの町や村まで壊滅的な被害が出る可能性が高いう声明を出した。
それと同時に、
ミンボン山脈の樹海の中心部では大量のゾンビが発生する恐れがあるので、
ミンボン山脈の樹海の最深部の湖へ行く調査団の拠点となる、6つの町は警備を強化して欲しい。という声明も出した。
ギルドも、コンピお婆さんが言っていた50年前の事件の再来が起きると睨んでいるようだな。
また、ニンムシュは、このギルドの声明に対して、
ミンボン山脈の樹海の最深部の湖へ行く調査団には、拠点となる町の死守。及び、モンスター氾濫の鎮圧の補助をさせる為、
特殊な魔道具を使用して、調査団をミンボン山脈の樹海の最深部の湖へ転送する。という声明を出した。
いよいよ、ニンムシュに、アマトティちゃんの欠片の封印が解けている事を知られる事になるんだろうな。」
ゼロヒト君が無線機が切れているのを確認しながらボソッと呟く。
「そう言えば、アマトティちゃんは、サモナブちゃんの姪っ子に偽装しているんだったよ?
名前?字?も鑑定結果を偽装する事は可能なの?」
「確かに、字を作り、実名は隠しておいた方が良いな。
どれ、今から妾の事はウミミナと呼んでくれ。」
「了解。」×6
僕達はアマトティちゃん改め、ウミミナちゃんの言葉に、コブとドタを含めた皆が頷く。
◇◇◇
「ところで……
ギルドやニンムシュ達も、いよいよ、モンスター氾濫が起こりそうや。ちゅう話を、どうやってユバリスさんやチナさん達にヤンワリと伝えはるつもりなん?」
ヨロズコちゃんが興味津々な顔で質問をしてくる。
「既にユバリスさんやチナさん達は、モンスター氾濫が起こる事を前提に動いてる。
だから、ギルドやニンムシュ達の見解を知ろうが知るまいが、やる事は変わらないと思う。
だったら、ここは、僕達がチートだとバレない為に敢えて、この情報は伏せておくべきだと思う。」
「兄さんの意見に賛成だな。」
僕の答えにゼロヒト君が賛成してくれる。
■■■
「すまないが、所属と代表名を名乗ってくれ!」
時刻は16時。
異世界物のマンガや歴史物の漫画とかに出てきそう石で出来た砦の上に、魔力弾のライフルを構えた数十人の男女が居る。
その中の拡声器を持った1人の男の人が問いかけてくる。
「アタシはギルドからBランクの評価を受けてる貿易商会のチナミン商会のチナ。
下請けのコブドタ商会と、
ギルドのミンボン山脈支店に拠点を持つ、ギルドからBランクの評価を受けている冒険者のパーティーのテイヒィ団と共に、
ニンスキ村の特別保護院から受けた輸送依頼の仕事をこなしている最中だ。
砦の門を潜る許可を願いたい。」
チナさんがトラックに設置された拡声器を使って呼びかけに答える。
「了解した。
俺はミンボン山脈の東の石切り場の第一砦の副所長のケントウだ。
砦の門を潜られる際、
犯罪歴のある者や、指名手配されている者が混じっていないかや、
盗品等の違法な物や、申請が必要な物を隠し持っていないか等を確認する為に、鑑定装置を起動させて貰う。
これは、ミンボン連邦議会、並びに、ギルドからの指示。及び 避難先となるキトナガエ帝国からの要請によるものだ。
間違っても、俺自身、亜人差別も、身寄りの無い低所得者への差別もするつもりもないし、部下達にもさせるつもりもない。
もし、この措置が気に食わなければ、後日、ミンボン連邦評議会にでもギルドへでもクレームを入れてくれて構わない。
だから、今は、無用な争いを避ける為、不本意かもしれないが、俺の指示に黙って従ってくれ。」
ケントウと名乗る人の淡々と話す声が拡声器から聞こえてくる。
『念の為に聞くけれど……
コブドタ商会は、鑑定装置の前を通過しても問題無いわよね?』
「あぁ。問題無い。」
無線機を使ってヒソヒソ声で尋ねてくれたチナさんに、ゼロヒト君が短い返答を返す。
「鑑定装置の件、了解したわ。」
「有り難う。
今、門を開ける。」
ケントウと名乗る男が、そう言うと、砦の門がゆっくりと開き始めた。
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