老人達の記憶と危険な賭け
『コンピじゃ。
アタシには、霊耐猿の群れが、光魔法で光球を作りながら、凍った川を渡り、森の奥の方へと移動しておるように見えるのじゃが……
見間違えかのう……』
『イナノよ。
確かに、コンピお婆ちゃんの言う通り、霊耐猿の群れが、光魔法で光球を作りながら、凍った川を渡り、森の奥の方へと移動しているのを見たわ。
念の為、ズカワには、後方の警戒は強めて貰うけど……
アタシ達を挟み撃ちにする為に移動しているのでは無いと思うわ。』
『こちらバスコ。
霊耐猿に挟み撃ちをされる可能性よりも、
霊耐猿を凍った川の上を走らせた何かと鉢合わせする可能性の方が高いと思うわ。
ただ、霊耐猿が居るのは崖の下。
だから、霊耐猿を走らせた何かと、アタシ達が鉢合わせする確率は、コンピお婆ちゃんが思っているよりも低いと思うし、
たとえ鉢合わせしたとしても、アタシ達は、崖の上という戦闘において有利な場所に居る。
倒しきれないにしても逃げる時間ぐらいは稼げると思うわよ。』
コンピさんの言葉にイナノちゃんとバスコさんが返答を返す。
◇◇◇
『30年前に、
この森の中心部で大量のゾンビが発生し、
それと同じタイミングで、この森の中央部から発生したモンスター氾濫のせいで、
この森の中央部や外縁部だけでなく、周辺の平原の多くの町や村まで壊滅的な被害が出たのは知っておるよな。
でっ。これから話す事は、ギルドの公式記録には残されておらぬのじゃが……
この2つの事件が同時に起こった直前に、この森のあちこちで、霊耐猿の群れが森の中心に向かって一心不乱に移動しておるのを見た者達が居るのじゃ。
アタシを含めた、ここに居る年寄り連中は、残念ながら霊耐猿の大移動を目撃した者が居らぬので何とも言えぬが……
窓の外に見えた霊耐猿達を見ていたら、ふと思いだしたんじゃよ。』
コンピさんが感情を抑えるように淡々とした口調で話す。
『コンピお婆ちゃん。不吉な事を言わないでよ。
それって……
モンスター氾濫を怖れて村に戻れば、村長達が言っていたようにゾンビの群れの襲撃を受ける。って事でしょ?
でっ。それを恐れて逃げた先ではモンスター氾濫が起きる。
そんな事になれば……アタシ達はどうすれば良いのよ。』
ミンさんのイライラした声が無線機から聞こえてくる。
『ミン。落ち着きな。
コンピお婆ちゃんは昔話を語ってくれているだけよ。
そして、まだ、何も起きていない。
たとえ、近々、モンスター氾濫が起きるとしても……
それまでに安全圏まで逃げ切りさえすればアタシ達の勝利。
瘴気の濃度が薄まってきているからと油断せず、今まで通り、最速でフトバル公爵領を目指す以外にやれる事などないわ。』
チナさんが、そんなミンさんを嗜めるように話す。
『取り敢えず、街道を避けた最短ルートを進むわ。
ヤバイ難所を長時間、移動する事になるんだけど……
皆、朝まで耐え切ってね。』
『了解。』×10・ 「了解。」
各々の乗り物のドライバー達と、各々の乗り物の荷台のリーダー達が、バスコさんの指示に短い返答を返す。
◇◇◇
「チナさん達も、近々、モンスター氾濫が起きはる。っていう結論に達しはったようやね。」
ヨロズコちゃんが、無線機が切れているのを確認しながらボソッと呟いた。
「みたいだな。」
ゼロヒト君が短い返答を返す。
「最悪の場合……どうする?」
嫁が僕を見る。
「ニンスキ村にワームホールを繋ぐ為のマーキングはしてるの?」
「一応してる。って……戻るつもり?」
「それをユバリスさん達が、
ご先祖様が引き起こした奇跡。と捉えるか、
悪霊からの呼び出し。と捉えるかは別として、
ユバリスさん達を見捨てない場合……
確証は無いけれど、モンスター氾濫の真っ只中に居るよりかは、生き残れる確率が高い気がする。」
「ニンスキ村の柵は脆弱とはいえ、
コブとドタのチートな結界を張らぬとした場合、柵が無い場所に居るよりかは、遙かに、まっしじゃろうな。
妾もクルサルの策に賛成じゃ。」
「ゾンビは、他のモンスターよりも動きも鈍いしな。
ウチもクルサルさんの意見に賛成や。」
嫁とのやり取りを聞いていた、アマトティちゃんと、ヨロズコちゃんが、僕の意見に賛成してくれる。
「じゃあ……
最終手段は、ユバリスさん達も含めて、サモナブちゃんに作って貰ったワームホールでニンスキ村に戻るとして……
問題は決断のタイミングだよね……」
「確かにな。
最終手段を使わずに済むのに越したことはねぇもんな。」
僕の言葉にゼロヒト君が頷く。
「その判断は、アタイとドタでやるわ。」
「だな。
人間は鈍感だから……モンスター氾濫が起こる直前を見逃してしまうだろうからな。」
コブとドタが真剣な顔で会話に加わってくる。
「せやな。
コブとドタに任せるわ。」
「うん。」 ・ 「おう。」
ヨロズコちゃんの返答を聞いたコブとドタが嬉しそうな顔で頷いた。
■■■
『こちらバスコ。
これから朝日が昇るまで雪と氷で覆われた川を下るわよ。
川の真ん中を通らなければ、クアッド以外の乗り物が浸水するような水かさではない筈だから、
アタシ達とイナノ達以外は、氷が割れても冷たい水の中に浸かる事は無いとは思うけど……
不測の事態に陥っても慌てずにアタシ達の指示に従って行動してね。
それと……隊列の順番を変えるわよ。
先導と殿に変更はでないけど、
2台目・3台目はテイヒィ団のピックアップトラック。
4台目と5台目はコブドタ商会のピックアップトラックとトラック。
6台目と7台目は、チナミン商会のトラックとピックアップトラック。
この順番で移動するわよ。』
『了解。』×10・ 「了解。」
各々の乗り物のドライバー達と、各々の乗り物の荷台のリーダー達が、バスコさんの指示に短い返答を返す。
■■■
「なぁ……
川下りを始めてから、パキパキ。ちゅう変な音がトラックの下から聞こえまくってへん?
今更、こんな事、言いたくあらへんけど……
バスコさんの判断、間違えてはると思わへん?」
凍った川の川下りを始めてから1時間が経過した頃、
ヨロスゴちゃんが無線機が切れているのを確認しつつ、泣きそうな声で話し始めた。
「皆、前を走るクアッドやトラック。ピックアップトラックの走るラインから絶妙に変えたラインを走っているから、何とかなっている。って、誤解しているだろうね……」
嫁がジト目で僕を見る。
「僕が、皆が通る部分に、
15分間の制限付きで【自動設定】を一重で掛け続けている事に気がついてたの?」
「ゴメン。
【自動設定】に時間設定をしていたとか、
何重に掛けてるとかまでは把握してないよ。
ただ、わたし以外の皆が、何回か、明らかにライン取りをミスって、氷が割れて川の中に沈みそうになった瞬間に、割れた氷が元通りになって助けられてる事には気がついてたわ。
今の今まで、ヨロズコちゃんが氷魔法を使って皆をフォローしてくれている。って、思ってたんだけど……そうじゃなさそうだったから、
消去法で考えて、パパが何かしているのかな?って思っただけよ。
てか……そんな狡いウラ技が出来るなら先に言っといてよね。
パパが何も言ってくれてなかったせいで、
後ろを走るチナさん達が乗っているトラックが、ライン取りをミスして川に沈みそうになったのを見た時に、滅茶苦茶、冷や汗が出たんだからね。」
嫁が不機嫌そうな顔で僕を見る。
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