再出発 / 疑問と確認
「はぁ……名残惜しいわぁ……」
「本当よね……」
ヨロズコちゃんの言葉に嫁が頷く。
時刻は13時。
僕達はミンボン山脈の樹海の温泉街を出て、再び、避難を始めた。
ミンボン山脈の樹海の温泉街は、ミンボン山脈の樹海の最深部の湖へ行く調査団の拠点になるので、騒ぎが落ち着くまで昨日の宿屋さんに泊まり続ける事が出来なかったのだ。
「スベさんが言わはるには、今晩は、昨日よりも更に冷えはるみたいや。
せやから、ウチ達がコンテナや幌を替えずに夜通し移動してたら凍死者が出てはったかも?ちゅう話やったやろ。
なんやかんや言って、まだ、運には見放されてへんみたいやね。」
「確かに。
仲良くなった人の生き死にがかかってる時にまで、チートは隠す。なんて……そんな薄情な事は出来ないもんね。」
「せやな。」
「はぁ……
主達は、お人好し過ぎじゃ。」
嫁とヨロズコちゃんの会話にアマトティちゃんが苦笑いしながら入る。
「パパとゼロヒト君が居れば何とかなる。てか……何とかして貰う。」
「せやな。」
「おいおい。
出来る事と、出来ねぇ事があるぞ。」
楽観的な嫁とヨロズコちゃんの会話を聞いたゼロヒト君が慌てて止める。
◇◇◇
『こちらユバリス。
すまないが、夜になったらエアコンを付けさせて貰っても良いかい?』
ユバリスさんから無線が入る。
「今から付けて貰っても良いぞ。
風邪を引く事を考えれば、その方が良い。」
『それは流石に贅沢だよ。』
「子供達、ユバリスさんが思ってはるよりも体力を消耗してはる思うで。
魔石だけは仰山、持ってるんや。
気にせずに使ったって。」
『有難う。恩に着る。』
ゼロヒト君とヨロズコちゃんの返答を聞いたユバリスさんの嬉しそうな声が無線機から聞こえてきた。
■■■
「配給だよ。
毎日、同じメニューですまないねぇ。」
「いやいや。
貰えるだけで有難いですわ。」
時刻は16時。
申し訳なさそうに話すバスコさんから、ヨロズコちゃんが今晩の晩御飯を受け取る。
「風が昨日よりも冷たかったわ。
こりゃ……昨日よりも冷えるで。」
ヨロズコちゃんが不機嫌な顔で話す。
「コンテナや幌をバージョンアップしてて正解だったわね。」
「せやな。
ミンボン山脈の樹海の温泉街の警備隊長のスベさんが言わはってたように、コンテナや幌をリニューアルしとかへんかったら、マジで凍死者が出てたかもしやんな。」
「かもね。
だけど……装備を揃えたからと言っても必ずしも死なない。っていう保証はない。
いざって時にパニクって、イラン事を言わないようにしないとね。」
「せやな。」
嫁の言葉にヨロズコちゃんが静かに頷く。
■■■
『こちらバスコ。
眼下に街道を捉えた。
暫く、この街道と平行して走る丘の上を通る迂回路を通りながら、街道に入るタイミングを伺う。
この時間でもチラホラと移動を続けてる人達が居るわ。
盗賊への警戒は勿論だけど……
アタシ達が盗賊に間違われるても困るから、不用意な行動を避けてね。』
時刻は17時。
無線機からバスコさんの緊張した声が聞こえてくる。
「了解。」・『了解。』×10
嫁を含むドライバー達と荷台のリーダー達が、バスコさんの指示に短い返答を返す。
「盗賊なぁ……
ホンマ、物騒な世界やで。」
ヨロズコちゃんが、無線が切れている事を確認しながらボソッと呟く。
「言えてる。
雪道とモンスターと虫だけでも大変なのに……
勘弁して欲しいわ。」
嫁が苦笑いしながらトラックを走らせ続けてくれる。
「【空の目】の映像を見る限りでは街道沿いにある休憩場には人が居ない。
皆、俺達のように夜営は避けて日が昇るまで動き続ける気なのかもしれねぇな。」
「せやね。
てか……【空の目】の映像をみてると、
ところどころ、物凄い数のクアッドや車。トラックが、列を成して移動してはる場所があるね。」
ヨロズコちゃんが、携帯電話を見ながら驚いた顔をしている。
「同じ村の村人達が集まって移動しているんだろうな。
ユバリスさん達を除いた、ニンスキ村の人達も皆、一緒に村を出たらしいじゃん。
そんな感じだろ。」
「成るほどな。
せやけど……酷い話やで。
ニンスキ村の人口は300人ぐらいらしいやん。
いくら、ユバリスさん達が、迷惑をかけへんように、
ラジオ放送で特別保護院の入居者達を運んでくれはる冒険者を募るから先に行ってくれ。っちゅうたからと言って……
ホンマに先に行きはるんは、どうかと思うで。
しかも、サリさんはニンスキ村の村長の娘さんで、チルさんはギルドのニンスキ村出張所のギルドマスターの娘さんらしいやん。
実の娘まで置いてきぼりにしはるなんて神経を疑うわ。」
ヨロズコちゃんがイライラした顔で話す。
「私情を挟まなかったのか……
村人が全滅しない為に二手に分かれる為の方便だったのか……
どちらにしろ、この世界の人達と僕達の感覚は違う。
どちらが正しい。というよりも……どちらも正しい。と割り切るしかないんじゃない?」
「はぁ。パパは……ドライすぎるよ。」
「せやせや。」
僕の話を聞いた嫁とヨロズコちゃんが、ジト目で僕を見てくる。
「それはそうとニンムシュは何故、ミンボン山脈の樹海の最深部の湖へ行く調査団を、僕達みたいに直接、現場まで転移させないのだろうね。
てか……直接、現場まで転移させられるのであれば、逆にニンムシュの拠点まで転移もさせられる気がする。
もし、そうならば、ミンボン山脈の樹海の温泉街は、ミンボン山脈の樹海の最深部の湖へ行く調査団の拠点にする必要性も無い気がするんだどなぁ……」
「上手く話題を変えたわね。
けど、確かに気にはなるわね。」
嫁がジト目で僕を見る。
◇◇◇
「前にもチラッと話したが、説明不足じゃったみたいじゃな。
あやつが、水晶等に予め座標も登録されたワームホールの術式が付与された魔道具を使ってではないとワームホールを出現させる事は出来ぬのは、あやつが特異点のアサグでは無いからじゃ。
でっ。あやつが、件の魔道具を使って、主達をあの場所に転移させた時に、
件の魔道具が誤作動を起こし、この森中心にある湖に瘴気を集める為の装置の術式を傷つけてしまった事が原因で、妾と主達が出会えた事は話したよな。
ニンムシュが妾を解き放ってしまった事にまで気がついておるかは分からぬが……
主達を転移させた時に件の魔道具に誤作動が起きた事には、流石に気がついておる筈じゃ。
じゃから、また、件の魔道具が誤作動を起こすのを怖れて、
ミンボン山脈の樹海の最深部の湖へ行く調査団には、あの場所まで、車やトラック。ピックアップトラック等の乗り物を使って移動させる事にしたのじゃろうな。」
アマトティちゃんが僕の疑問に私見を話してくれる。
「成る程ね。
でっ。もし、ニンムシュがアマトティちゃんが解き放たれている事を知ったとしたら……
他の神仏の代理人や【虹を産んだ者達】。僕達の世界から召喚されて権力者にのし上がった人達に、この事を共有する思う?」
「五分五分じゃな。
この世界を閉じたままの世界にしておく為には、あやつ達が共闘するのが一番じゃ。
じゃが、今、あやつ等は、誰が妾と相方の後釜に誰が座るかで揉めておる。
もし、件の魔道具が誤作動を起こした原因がニンムシュにある場合、
この失態が原因で、その権力争いから脱落するのを良しとは考えず、
妾が解き放たれた情報を他の者達には共有をせずに、自力で何とかしようとするじゃろうな。」
アマトティちゃんが、僕の質問に淡々とした口調で答えてくれる。
「アマトティちゃん。
あんたの顔は、ニンムシュ達に割れている。っていう認識で良いんだよな?」
ゼロヒト君が会話に加わってくる。
「主達が妾の欠片を全て集めてくれて本来の姿を取り戻し、サモナブとの契約を解除した、妾の本当の姿。という意味ならば、顔は割れておる。
じゃが、今の姿は分からぬじゃろうな。
何故なら、妾のこの仮初めの姿は、所有者の親族に偽装する事が出来るよう、本来の姿とは似ても似つかぬものとなっておるからじゃ。」
「そうか。
ヨロスゴと同じ事を言うのは癪だが……
俺達の運はドン底ではなさそうだな。」
ゼロヒト君が、そう言いながらニヤリと笑う。
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