ミンボンの温泉街とゆったりとした時間
時刻は4時。
僕達がトラックのコンテナを貨物用のコンテナからコンテナハウスに載せ替えたり、
僕達のピックアップトラックや、テイヒィ団のピックアップトラックの幌を、人間が乗る事も想定された小窓の付いた厚手生地の幌に替えたり、
チナさん達が水や食料の補充をしたり、
ユバリスさんがミンボン山脈の樹海の温泉街にあるギルドの営業所の通信機器から、フトバル公爵へ宛た保護の依頼のメールや、
ギルドのキトナガエ帝国の西都支店に、一足先にキトナガエ帝国の西都を目指して移動中のニンスキ村の村長への伝言を依頼する電報を打ったりしていたら、
結局、4時間ぐらいがたってしまったので、
昼過ぎまでミンボン山脈の樹海の温泉街の宿屋さんで休息を取る事になり、
僕達はあてがわれた4人部屋に入ったところだ。
因みに、宿泊費やトラックやピックアップトラックの改修費用は、必要経費だという事で、チナさんが払うと言って譲らなかったので、有り難く、ご好意を受ける事にした。
また、テイヒィちゃん達は元々つけていた幌と、今回買った幌を用途に合わせて併用していくらしく、
元々つけていた幌の布や骨組み等をチナさんから貰った小瓶に封印していた。
◇◇◇
「すまねぇ。
また、勝手に色々と話を進めてしまったな。」
あてがわれた部屋に入るなり、ゼロヒト君が謝ってきた。
「気にしな。
ウチはゼロヒトさんの話に賛成や。」
「わたしも賛成。
誰も損しない名案だったと思うわよ。」
「だね。」・「じゃな。」
僕とアマトティちゃんは、ヨロズコちゃんと嫁の言葉に頷く。
「そう言って貰えるとホッとするよ。」
ゼロヒト君が嬉しそうな顔で皆を見る。
「そんな事よりも、姉さん。アマトティちゃん。
先刻、共同トイレに行った時に聞いたんやけどな。
この宿屋の大浴場を開けてくれはったらしいで。
お湯の水は勿論、温泉。一緒に行かへん?」
「マジで。行く。行く。」
「なら……妾も行くとするか。」
テンションの高いヨロズコちゃんや、嬉しそうな顔の嫁とは対照的にアマトティちゃんは渋々。って感じだ。
「この部屋は鍵付きだし、
貴重品の見張りは、コブとドタに任せて、俺達も行こうぜ。」
「うん。」
嬉しそうな顔で話すゼロヒト君の言葉に、僕は笑顔で頷いた。
■■■
「温まる。」
身体を洗って湯船に浸かると思わず声が出た。
「本当だよな。
てか……ボディーソープやシャンプーはムクロジって名前の木の実で出来た物で、洗顔に使ったのは米ぬかみたいだな。」
「へ~。
明治時代以前の日本みたいだね。」
「兄さん。物知りだな。
俺は……調べるまで知らなかったよ。」
ゼロヒト君がヒソヒソ声で返答を返してくれる。
【ガラ・ガラ・ガラ】
大浴場の男湯の扉が勢い良く開く。
そして、チナさんの旦那さんのコラさんと、
小さな男の子を肩車したミンさんの旦那さんのマゼさんと、
クアッドで先導をしてくれているダガマさんと、
ピックアップトラックを運転しているスブンさんとロンさんと、
テイヒィ団のズカワ君、オウオミ君、シラオ君が次々と入って来た。
「お前さん達も来てたか。
この後、ガキ共や老人達もやってくる。
騒がしくなるだろうが大目に見てくれ。」
職員さんの旦那さんを連れて、少しだけ遅れて入って来たケラさんが、僕達に話しかけてくる。
「気にしないで下さい。
騒がしいのも嫌いじゃないですよ。」
「凍えるような中、荷台の中でジッと耐えてくれてるんだ。
騒ぐ権利ぐらいはあるよ。」
「そう言ってくれると助かるよ。」
ケラさんが、嬉しそうな顔をしながら、頭を下げて来た。
◇◇◇
「なんかさぁ……
修学旅行とか、新入社員の時の社員研修とかを思い出すわ。」
「言えてる。」
ヒソヒソ声で話すゼロヒト君の言葉に、僕は思わず頷く。
子供大浴場の名に恥じない広い湯船は、この大人数でもゆったりと浸かる。
「ケラさんも、グリチルさんも、現役の隊商の運屋のように動けてるっすね。
これを機会に現役に戻ろう。とか思ったりしてるんっすか?」
シラオ君が、ケラさんと臨時職員さんの旦那さんに話しかける。
「バカ言え。
安全な隊列の真ん中を着いていくだけで精一杯だ。
隊商の運び屋としてのブランクを感じまくりだよ。」
グリチルさんが苦笑いしながら返答を返す。
「そうっすか。
そんな風には見えないっすよ。」
「嫁や娘には、カッコ悪いところを見せられねぇからな。
意地張って余裕綽々な感じに見せてるだけだよ。
てか……化物なのはケラさんだよ。
運び屋どころか……護衛の冒険者や傭兵でもやれそうな感じだわ。」
グリチルさんが頭を掻きながら苦笑いしている。
◇◇◇
「そうなんっすか。
まぁ……親父っさんは……親父っさん。っすからね……
ところで……スブンさんは、サリさんと進展があったんっすか?
てか、ロンさんはチルさんを落とせそうなんっすか?」
「森の様子が何時もとまるで違うからなぁ……
特別保護院の職員として残る決断をしたチルを落とす為に、社長達と残ったものの……
避難が始まってからは余裕がなくて声すらかけられていねぇよ。」
ロンさんが悲しそうな顔でシラオ君の質問に答える。
「俺は……サリの力に成りたくて社長達と残っただけだ。
しかも、サリが一生懸命な顔で子供達や老人達の世話をしているところまで間近で見られるんだ。
もう大満足だよ。」
「腹立つわぁ……
何が大満足だよ。
サリが、お前さん(スブン)に惚れてるのが分かってるからって、余裕ブッこいてるんじゃねぇよ。」
ロンさんが、スブンさんをジト目で見る。
「ロンさんの、そういうとこがチル先生に軽薄だ。って言われてるんじゃね?」
「黙れレク。
ガキの癖にイエムと付き合ってるからって調子に乗ってんじゃねぇ。」
「ぶひゃひゃひゃ。」×3
「シラオ。ズカワ。オウオミ。笑うとこじゃねぇ。
お前達、年長者を敬いやがれ。」
ロンさんが、そう言いながら、拗ねた顔をしている。
■■■
「えぇ!
チルさんは普段の軽薄な感じからは想像がつかないぐらい黙々と仕事をこなすロンさんの姿に惚れてしまったんだって?
ロンさんは、ここ最近、チルさんと喋れてねぇ。って凹んでたんだがな……
何が功を奏するのか分からねえもんだな。」
ヨロズコちゃんが女湯で仕入れた、この旅でカップルが2つも誕生するかも。っていう情報を聞いたゼロヒト君が驚いた顔をで話す。
「そうなんや。
でっ。スブンさんはサリさんの事をなんて言ってはったんや?」
「サリが一生懸命な顔で子供達や老人達の世話をしているところまで間近で見られるだけで大満足らしいぞ。」
「さよか。
サリさんもスブンさんが、側に居てくれはるから、子供達や老人達のお世話を頑張れる。って言ってはったわ。
早よ付き合いはったら良えのに。」
「だよな……
俺も、そう思うわ。」
「せやろ。
やっぱ、そう思いはるよな。」
ヨロズコちゃんが笑いながら話す。
「パパ。
昼まで寝とく?」
欠伸をした僕を見ながら嫁が心配そうな顔で見てくる。
「そうさせて貰うよ。」
僕は嫁の勧めに素直に従う事にした。
久しぶりのお風呂で身体はポカポカしている。
そして宿屋さんの部屋の布団にくるまったお陰で、暖まった身体は冷やされていない。
ここ最近は、外が寒くて熟睡する事が出来てなかった気がする。
折角、チナさんが、僕達の宿泊費までみてくれたんだ。
しっかりと寝て、体調を整えさせて貰うとしよう。
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