ラジオ放送と依頼(前編)
「窓を開けはったら寒いんやろな。」
「絶対、開けるなよ。
押すな!押すな!は押せ!って事だな。的な意味じゃないぞ。
マジで開けるなよ。」
ヨロズコちゃんの呟きにゼロヒト君が反応する。
「寒いと言うよりも……痛い。と感じるじゃろうな。」
そんな2人のやり取りを聞いていたアマトティちゃんが淡々とした口調で会話に加わる。
「思ってたよりも車内が揺れないね。」
「空間魔法の術式が付与されたサスペンションは、俺達の世界のサスペンションよりも優れているんだろうな。」
僕の言葉を聞いたゼロヒト君が、自分の考察を話してくれる。
「にしても……
おにぎりを空中に浮かしはりながら食べはるとか……姉さんは器用な事をしはるね。」
「まぁね。」
尊敬の眼差しで話すヨロズコちゃんに、嫁が得意気な顔で短い返答を返す。
◇◇◇
トラックのヘッドライトと室内灯の灯りが届く範囲以外は、何も見えない。
そんな中でも運転手の嫁は、
ゆっくりではあるものの、トラックを確実に前へと進めている。
そんな嫁を助手席に座るゼロヒト君と、
前列の補助席に置かれたハードタイプの犬猫用キャリーケースの中に居る、コブとドタがフォローしてくれている。
ダブルキャブのトラックの二列目には、
左から、僕。エコバック。アマトティちゃん。ヨロズコちゃんの順番で並んで座っている。
走りながら、食事をする為、エコバッグの中の原状を何時でも変えられるように、僕の横に置く事にしたのだ。
トラックの運転席回りのレバー等や、他の席を含めた内装も、僕達の世界の物と、殆ど変わらないように見えるが、
座席の下が開き、マジックボックス化した荷物入れになっていたり、
大きなドリンクホルダーって感じのマジックボックス化された武器入れがあったりと、
この世界に合うような形に変化しているらしい。
てか……見た目の容量以上に物が入るマジックボックスは、本当に便利なアイテムだな。
きっと、元の世界に戻った時に、恋しい物の1つになるだろうな。
◇◇◇
「ラジオ放送を受信した。
スピーカーにする。」
ゼロヒト君が、そう言いながら携帯電話を操作し始めた。
『ギルドのミンボン山脈支店です。
ニンスキ村にある、ギルドが運営する特別保護院から、職員と入居者をミンボン山脈の樹海の外側に運んで頂ける方の募集が入りました。
因みに、運んで頂きたい人数は20名程となりますが、全員を運んで頂く必要はございません。
当ギルド(ギルドのミンボン山脈支店)と致しましては、ギルドへの登録の有無に関わらず、1名を乗せて頂くごとに金貨1枚(10万円の価値)を報酬として差し上げます。
後、職員や入居者を運んで頂ける方には、必要であれば、道中の食事を特別保護院の方で、ご用意させて頂きますので、最初に申し出て欲しいとの事です。
最後に、この依頼の受注は先着順ではございますが、
状況を鑑みて、この依頼の受注が終了次第、ラジオ放送にて、ご報告を差し上げます。
以上となります。』
◇◇◇
「特別保護院。ってのは、どんな施設なの?」
「保護院とは、保育園と児童館と老人ホームを混ぜたような施設らしいんだが、
特別保護院とは、更に、孤児や身寄りのない老人も預かる施設らしい。
因みに、特別保護院以外でも孤児を預かる事もあるらしいんだが、
それは同じ町や村に親類縁者が居る場合に限られるらしいんだよ。」
僕の質問にゼロヒト君が答えてくれる。
「このペースだと、何れぐらいでニンスキの村へ行けそう?」
「時速30キロ。ってところだから、休憩無しでも14時間はかかるな。
こまめに休息を取るとすると、20時間ぐらいはみといたほうが良さそうだな。」
嫁の質問にゼロヒト君が淡々とした口調で答える。
「姉さん。
ニンスキの村へ行くつもりなん?」
「うん。」
「途中で運転を変わるわ。
交代しながらやったら、トイレ休憩以外の休憩時間を短縮する事が出来るやろ。」
「そうね。宜しく。」
「任しとき。」
嫁とヨロズコちゃんが真剣な顔になっている。
特別保護院の情報をゼロヒト君から聞いた時から、
嫁が、特別保護院の人達を助けに行く。と言い出しかねないとは思っていたが……
ヨロズコちゃんも同じ気持ちだったらしい。
ゼロヒト君も、そのやり取りに文句を言わないところをみると……同じ気持ちのようだ。
◇◇◇
「皆、妾の話を聞いて欲しい。
ニンムシュは、主達を転移させる時に、水晶に予め座標が登録されたワームホールの術式が付与された魔道具を使って転移させたのじゃが、どうやら、その時に誤作動が起きてしまったようなのじゃ。
そのせいで、この森中心にある湖に瘴気を集める為の術式を傷つけてしまったのが、この騒動の発端になるのじゃ。
因みに妾は、濃くなった瘴気を利用して、閉じ込められておった小箱を抜け出し、主達の元へ向かう事が出来るようになったお陰で、サモナブに所有者となって貰ったので、問題ばかりという訳でもないが……
てっ。話が逸れ始めたのう……
まぁ、妾が何が言いたいかというと、
この事は、何れ、ニンムシュを始めとしたバカ達に知られる事になるという事じゃ。
勿論、そうなれば、あやつ達は、妾の行方を調べるじゃろうし、
妾が主達に接触し、主達と一緒に、この森を出た事も考慮して、主達の行方も探す筈じゃ。
勿論、主達の人助けの心意気を否定する気もないし、妾も罪無き弱者は助けたい。
じゃが……そのせいで目立ち過ぎるのは良くない。
無理難題を言っておる事を自覚しておるが、
どうか、チートな力を隠し、妾達の安全を確保しつつ、罪無き弱者を救えるように動いて欲しいのじゃ。」
アマトティちゃんが、そう言うと、頭を下げる。
「ウチと姉さんは、理不尽な事がありはっても、
クルサルさんやゼロヒトさんの反応を見ながら、場合によってはスルーしやんといけんみたいやね。」
「出来るかなぁ……」
「すんのや。」
「へいへい。分かりました。」
ヨロズコちゃんの圧に押されて、嫁が渋々、頷く。
「ニンスキの村の特別保護院は必要ならば道中の食事を提供する。って言ってるみたいだけど……
食糧を載せて運ぶトラックとかを持っているのならば、食糧を載せるスペースに人を乗せて走ろうとは考えないのかな?」
「24時間体制に近い形で乗り物を走らせても、この森の外に出るのには、1週間以上はかかるだろうからな。
その間、食事を抜く。って訳にはいかない。って事だろうな。
それに、気になって調べたんだが、
ニンスキの村の特別保護院は、職員や入居者を合わせると40名以上の大所帯になるみたいだ。
それなのに、募集しているのは20名程の人間を乗せてくれるトラック。
そこから考えると、元々、それなりの人数を運べる乗り物を確保していたが、それでも足りない。って事なんだろう。」
僕の疑問にゼロヒト君が答えてくれる。
「成るほどね。
ところで……普通は、予備の乗り物を封印した物を用意したりするものなの?」
「クアッドを封印した物は一般的みたいだな。
稀に封印したピックアップトラックを持ち運ぶ者も居るみたいだが……封印したトラックまで持ち運び者は基本、居ないみたいだな。」
「成るほど。
じゃあ……最悪、封印しているピックアップトラックを貸し出してあげる事は出来そうだね。」
「そうだな。」
僕の言葉の意図に気がついたのが、ゼロヒト君が嫁とヨロズコちゃんを苦笑いしながら見ている。
「後、分かればで良いんだけど……
ギルドに登録しない人って、一定数、居るの?」
「ギルドからの仕事を請ける際、
ギルドに登録していない者に関しては、一旦、違約金を前払いで支払い、
依頼を達成後、報酬と一緒に前払いで支払っていた違約金も払い戻して貰う。
っていうルールがあるらしい。
そこから考えると、ギルドに登録をしない者が、一定数だが居る。っていう推測が出来るな。」
ゼロヒト君が、僕の疑問に答えてくれる。
「じゃあ。
今回は念の為、ギルドへの登録は見送ろうか。」
「ニンムシュ達が、兄さんみたいに用心深い奴等なら、このタイミングでギルドに登録した奴等の素性を片っ端から調べるだろうから、その方が良さそうだな。
とはいえ、身元を保証する者も居らず、ギルドにも登録していない余所者を受け入れたがならい町や村は多い。
だから、ギルドには、早めに登録をしておきたいな。」
僕の言葉の意図を察してくれたゼロヒト君が、苦笑いしながらも、僕の提案を受け入れてくれた。
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