1-5・責任と覚悟
1-4で挙げた制約が満たされていない場合、前項までにも述べた通り良くて不発、体内の神経とは異なった法則で網目状に広がっている魔力回路を傷付けてしまい、その後の魔法行使力に支障を来すことがある。最悪は魔力暴走からの死亡事故も起こりえるのである。この本を読んでいる読者諸氏には十分気を付けていただきたい。
さて、ここからは随分と説教めいたことを書く。しかし、以降を心得ない魔法使いは魔法使いたる資格はない。
責任
序文でも触れていた責任について詳しく書いていこう。これは、精神的なものだけではなく、法的な責任にもなる。するとどうなるか。『知らなかった』では済まされないということだ。そのために、我々は常に学び続ける必要があるのだ。
魔法使いが法的に罰せられた有名な事例を挙げよう。近年の出来事の中では広く人々の口に上った。各国で魔法使いへの規制を見直させるきっかけになった事件はニヴァレルの月、空の日30日にその惨劇は起こった。元々、この日は各地で一年の終わりを祝う祭りが開かれ、家族連れや恋人たちで町はたいそう賑わう。
しかし、その年の祝祭は笑顔ではなく、人々の血と悲鳴に彩られる結果になった。若き魔法使いが、ほんの些細な悪戯のつもりで火の花を空に打つ魔法を発動。しかし、興奮と酒に酔っていたことから魔力のコントロールを失い、魔法は暴走。祭りの中心部で大規模な爆発が発生し、累計で百を超える死傷者を出す大惨事となったのだ。爆発の中心部にいた魔法使いは、肉片一つを残して跡形もなく吹き飛び、半径1メルトにいた者たちも原型は留めていたものの死亡。爆発の中心部から離れるごとに被害は小さくなっていくが、人々の心に残った傷跡は深い。
この事件を受けて当局は、成人したばかりの魔法使いに対し、公共の場での魔法の使用を制限することになった。若き魔法使いは、調査により前日29日に成人したばかりだったのが判明したのである。既にあった未成年魔法使いに対する魔法行使の制限を拡大したのだ。
この事件から分かる通り、魔法使いはその力の使い方を誤ればいとも簡単に大惨事を引き起こせる。故に魔法使いは常に冷静さを求められ、振るう力に対しての責任感を求められるのである。
覚悟
さて、責任については多くの読者諸君が納得するところであろう。しかし、覚悟については腑に落ちない者がいるのではないだろうか。責任と覚悟は、基本的に魔法においては一対であり、切っても切り離せないものだ。では、ここで触れる覚悟とは何か。
それは、命を奪い、奪った命の分まで生きる覚悟だ。
魔法を学んでいけば、軍属や冒険者になる者がいるだろう。冒険者になれば魔物だけではない。盗賊と戦闘になり、命を奪うこともある。時には、仲間を守り切れずに失うこともあるだろう。軍属であれば、戦争になったときに命令されただけの同じ立場の人間の命を奪うことになる。それでも、生き続ける覚悟が必要なのだ。これに耐えられないと思うのなら、悪いことは言わない。魔法や武芸とは離れて暮らしたほうがいい。これらは、常に命に対して容赦のない選択を突きつけてくる。そして、その事実から目を逸らして学べるほど、魔法は優しくない。常にこちらをふるいにかけてくる。
それでも、魔法を学びたいと願い、行動するのであれば。魔法は応えてくれるだろう。
しかし、魔法が応えてくれるのは覚悟を持った者だけだ。第2章以降も読み進め学ぶなら、気を引き締め、常に己の覚悟を見つめ続けるのだ。いずれにしろ、学んでいけば嫌でも覚悟を試される時が来る。その時、諸君は自らの命を守り、他者の命を守り切れるか。その際は、幸運を祈っている。