1-1・前提知識
昨今の風潮では、『魔法は万能だ』とすることが多いように感じる。この本を読んでいる者たちにもいるかもしれないが、それは実に大きな誤りであると言わざるを得ない。
魔法にはいくつかの制約があり、それを破れば命を落とすような危険性を孕んでいるのだ。この章では、前提となるいくつかの知識、魔法の行使や付随する責任までを解説する。
これらの知識は、魔法を扱う者であれば誰もが把握しておくべきものであり、常に諳んじることが出来るまでに身に付けておくことが望ましいほどである。
この前提知識の節で触れる内容は3つ。『魔力』、『マギタス』そして詠唱だ。まずは魔力について知り、その後マギタスについて解説し、最後に詠唱の基礎について語る。
1・魔力とは
エルセリアでは、すべての生物・無機物に関わらず『魔力』が宿っている。これだけを聞くと、『エルセリア神典』で扱われている耐久値やルクタスを思い浮かべるかもしれないが、全くの別物だ。あちらは、寿命とその日の体力といった命を表しているのに対し、こちらは魔法に対するものだからだ。故に、その性質は根本的に異なる。
それは、生物の魔力は存在し続ける限り、個体差はあれど成長していくという点だ。しかし、不思議なことに無機物に宿る魔力が増える事は早々なく、種類によってある程度の範囲に定まっている。これが何故そうなっているのかについては、今現在も研究が続けられている。新たな発見が待たれるところだ。
魔力そのものの性質としては、4つある。順に解説をしていく。
普遍性
魔力は、生物・無機物問わず全てに宿っている。つまり、空気中にすら魔力は存在する。これを、魔力の普遍性という。第4章で触れるその他の魔法の1分類である儀式魔法では、術者の魔力に加え、この空気中に漂う魔力も重要になる。
万理性
魔力は、通常時はなんの属性も持たず、世界を漂う。しかし、古代エルセリア語などで特定の属性を表す言葉とともに詠唱や魔法陣を刻むと、その属性へと変化する性質がある。この変化の仕組みを理解することで、より魔法の根幹へと近づくことができるのだ。
循環性
このエルセリアという世界では、今は亡き光により絶対的とも言える法則が2つ敷かれている。『循環』と『等価交換』だ。この二つの法則は、魔法においても重要であり、蔑ろにすれば、最悪は命を持って贖うことになる。一般的に、魔力は絶えず流れ、循環していなければならない。そのため、特定の土地などに結界魔法などをかけても通常は半日から1日で効力を失ってしまう。これは、その場の循環を魔法が阻害しているために起こる。改善するには、魔法をその場の循環に組み込む必要がある。そのために見出されたのが、のちに触れる儀式魔法と魔法陣である。
等価性
前節で触れた2つのうち、等価交換の法則を魔法学においては等価性と呼ぶ。何故、等価交換である必要があるのかに触れるが、そもそも魔法とはその場の物理法則などを全て無視、あるいは捻じ曲げ、短縮する事で現象として起こっている。本来であれば、こういった行いは世界の根幹を揺るがし、崩壊へと導く。しかし、この等価性により、魔力や魔法陣に使用する媒体などを消費する事で世界は崩壊することなく魔法の存在を許容している。故に、『魔法は万能』足り得ないのである。
2・マギタス(MT)とは
さて、魔法を扱う上で知っておくべき指標がある。『マギタス(MT)』だ。MTとは、生物が保有する魔力量と行使しうる魔力量を数値化した指標である。魔法を扱う者にとって、自身の保有魔力量と行使魔力量を把握しておくのは、後に解説するような重大な事故を防ぐことに繋がる。
魔法は魔力を消費して発動している。この呼称に落ち着くまでには中々の論争が交わされていたが、これについては第4章魔法史概略にて語ることにする。