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2ーエリアル

エリアル・ラザインが3度目の生を受けて目を覚ましたのは、6歳の時だった。


1度目でも、2度目でも、愛する婚約者を失った直後の目覚め。

もう二度と繰り返したくないと強く思っても、3度目が起こった。


なので、今回は慎重に慎重を重ねて過ごしている。

今後、どう動くか見極めなければ。


生来大人しい子供だったエリアルは、急に大人らしくなったとしても、最初は訝しがられたが、すぐ馴染んでいった。


2度目はどう動いていいか分からず、ある程度年をとるまで子供っぽく振る舞っていた。


だが3度目では、それでは思うように動けないと知り子供らしく振る舞うのをやめたのだ。



ジュナ・クライス。彼女は1度目と2度目の人生のエリアルの婚約者だった。

彼女は、二度とも自分の婚約者になり、悲惨な死をとげた。


1度目でも、2度目でも、エリアル自身が婚約者に望み、愛した女性だった。


何故繰り返すのな分からないが、今生ではなんとしても彼女の命を救いたい。 冷たくなる彼女を見るのは、もう耐えられなかった。


今回の生では、彼女をまだ婚約者に望んでいない。


だがジュナの配偶者の座を諦めるつもりはなく、危険な芽を詰んでから、彼女の安全を確保してから婚約を申し込むつもりだった。


「坊ちゃま。旦那様がお呼びです」


眉を寄せ、エリアルは言った。

「アドラー、坊ちゃまはやめてくれないか」


ラザイン家の執事は若い。数年前に、長く務めた執事から代替わりしたばかりだ。


昔からよく侯爵家に出入りし、執事に任命される以前はエリアルの世話係だった。

悪友のように感じている彼の「坊ちゃま」呼びには含みがある。


「ーふぅ」

父の執務室に向かいながら、自然とため息が出る。


呼び出しの件はだいたい察しがついている。

「仕方ありませんよ。旦那様も学園に入られる前に、エリアル様の意志を確認したいのでしょう」


斜め後ろに粛々と付いているアドラーが、エリアルのため息に返事をする。


「そうだな。父上はなんでもお見通しだ」

苦笑しつつ呟く。


6歳で目覚めてから、今後の自分に有利なように動いてきた。


自分で動けない時にはアドラーに、父のーラザイン家の力を頼った事も多々ある。


自分の手の内は、全て父には筒抜けだ。


(父に2度の生の記憶があることを、話すべきだろうか)


「エリアル様?」


立ち止まり思案しているエリアルに、アドラーは訝しげに声をかけた。


(いや、まだ早い)

瞬時に答えを出し、エリアルは少し下を向いたまま歩み始めた。

「なんでもない。いこう」








「エリアル、久しぶりだね」

執務室にはエリアルの父、ラザイン侯爵1人だけだった。人払いをしてあるようだ。


父は、久しぶりに会う息子にやわからい笑顔を向けた。

「さて、最愛な息子よ。父上は時間を無駄にするのは好きじゃない」


目を細め、口元は笑みを残したまま侯爵は問う。

「ジュナ嬢との婚約を断ったそうだね。何故だい?」


あまりに単刀直入だったので、エリアルは固まってしまった。父は読めない。のらりくらりと話す時もあれば、こんな風に本題をすぐ切り出すこともあるのか。


「ーあ」

「エリアルはそれを望んでいたのかと思っていたよ。まさか断るとは。せっかく私が親友にそれとなく打診したものを」


エリアルの答えを遮り、侯爵はまくし立てた。

「その為に他の令嬢も遠ざけていたのではないのかい?違うのであれば、父は君に相応な令嬢を今から探さないといけない」


エリアルは慌てた。

「お待ちください。その必要はありません。僕は、ジュナとの未来をー」


口にして、そこで詰まってしまった。2度目の人生での、動かないジュナが脳裏に浮かぶ。


その躊躇いを、侯爵は見逃さなかった。


「覚悟がないのであれば、やめなさい。侯爵夫人の立場は大変なものだ。私も、親友の娘に望むのは心苦しい。」


覚悟なら、ある。


だが、それとこれと、彼女の安全と自分の覚悟はまた別のものだ。


「答えを濁すことをお許し下さい。僕が他の女性を望むことはありません」

「ふむ?」

「ですが今、彼女を婚約者に望むことも出来ません」


「ー何故?」

「私の、個人的な意地の問題です」


「ん?」

侯爵は目を丸くした。

これまで、粛々と侯爵家嫡男の義務と礼儀を学び、勉学に励み、急に大人らしくなった彼に、無理難題を吹っかけても、文句も言わずこなしてきた息子が言った言葉が"意地"。


つまり、エリアルが駄々をこねている。


「ふふっははは」

侯爵は軽快に笑った。


「いいだろう。君がそこまで言うなら、張ってみなさい。その意地を」


言葉を選んだのは自分だが、いざ言ってみると恥ずかしくなったエリアルの顔は少し赤い。

「感謝致します」


「だが、待つのは学園の卒業までだよ。それ以上は待てない。時間は有限だ。君にも、彼女にも、貴族の義務がある」


充分だ。それ以上はエリアルも待たせる気はなかった。


「では僕はこれで。入寮の準備に戻ります」

要件が終わったので、エリアルはさっさと退散したかった。


父はまたニヤリと笑い、

「君への求婚はそれとなく断っておこう。ジュナ嬢のはどうしようもならないよ。君が自分でなんとかしなさい」


「承知しています」

父に半眼で返事をして、部屋を出た。

"入寮の準備"に、それも含まれている。



「色よい返事はいただけましたか?」

アドラーも一応心配してくれていたのだろう。部屋の外で待機してくれていた。


「僕が、望んた成果を挙げられない事案があったか?」

ニヤリと笑い、問い返す。


「ありませんね。こと、ジュナ様に関しては」


アドラーも、侯爵家の執事だ。エリアルにばかりかまっていられない。


エリアルの心情を察してか、アドラーは腰を折って言った。

「何なりと、以前の様にお申し付けください」


少し申し訳無さを感じたものの、申し出をありがたくいただく。

「ああ。忙しくなるが、頼む」

















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