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18ー突然の来訪

曲が終わると慌てた様子で父が近づいて来た。


「お父さま?どうしたの?」

「ジュナ、ちょっと来なさい。今ー」

ジュナの父、クライス伯爵はジュナに寄り添う人物にチラと目をやると固まった。

「ん?エリアル君?いや、いつもの装いと違うので気付かなかった」


「クライス伯爵。お久しぶりです。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。ー何かあったのですか?」


周囲を見渡すと、少しざわついている。


クライス伯爵は少し迷ったものの、エリアルにも話してくれた。

「王宮から馬車が到着した。どうやら乗っていたのは王太子殿下らしい。」


「王太子殿下が?うちのパーティーへ?あ、ルナがいるから?」


「目的は分からないが、とりあえずローウェン侯爵令嬢はどこにいらっしゃる?姿が見えないのだ」


「ルナなら、あれ?」


つい先ほどまで居たはずのルナマリアの姿がなかった。

(あら?トイレかしら)

「ちょっと探してくるわ」

「いや、時間がない。他のものに頼んで、ジュナは私と出迎えに」


「来られたみたいですよ」


エリアルの視線の先を見ると、燃えるような赤毛が目に入った。

王家の証の朱い髪。


王太子エドウィン・ド・イゾルテが白いテールコートをなびかせながら入室した。



ジュナは見入ってしまっていたが、父が前に出たことに気づき、慌てて追いかけた。


「王国の次なる朱い太陽にご挨拶申し上げます。ルクソン・クライスでございます。ご訪問いただき光栄でございます」


エドウィンは金色の鋭い瞳をクライス伯爵に向けた。ジュナはビクリとしてしまったが、クライス伯爵は動じていないようだった。

「クライス伯爵。招待状もないのに来てしまい申し訳ない。ん?君はー···」


「殿下、ご無沙汰しております。エリアル・ラザインです」

「ラザイン侯爵の息子か。久しいな。君がなぜここに?」


「ラザイン侯爵閣下とは親しくさせていただいております。閣下の変わりに、来場してくれたのです」

クライス伯爵が答えた。


「ふぅん。なるほど」

「本日はどのようなご用件でしょう?」


王太子は視線をジュナに向けた。


「そなたがクライス令嬢だな?」

ジュナは挨拶のタイミングを見計らっていたものの、いきなり名前を呼ばれ慌ててカーテシーをとった。

「ジュナ・クライスでございます」


王太子は、聞くなりジュナの腕を掴んだ。

「ちょっと聞きたいことがある」


これにはさすがにクライス伯爵も慌てた。

「殿下?どうされたのです。ご用件でしたら、応接室でお聞きします」

「時間がないのだ。娘を借りるぞ」


王太子はジュナの腕を掴んだまま、大股でバルコニーへ向かった。会場は騒然となっている。ジュナは訳も分からず、掴まれた腕が痛いやら転けそうになるやら、半泣きだった。


王太子がいきなり止まったので、ジュナは王太子の背中にぶつかった。


「なぜ君がそこに立つ?」

「殿下、クライス嬢をお離しください。」


ジュナには姿は見えなかったが、エリアルの声がいつもよりだいぶ低く聞こえた。


王太子は肩越しに半泣きのジュナを見ると、納得したのか腕を離した。

「すまない。たが、急いでいる。エリアル・ラザイン、君も同席を許すからそこを通してくれ」



エリアルは道を譲った。そして王太子に続きバルコニーに向かった。ジュナは二人に付いて部屋から出た。


「クライス嬢。ここからルナマリアを探せるか?君にしか出来ない。急いでくれ」

王太子は暗くなったクライス邸の庭を向いて言った。


ジュナは慌てた。王太子がルナマリアの事をファーストネームで呼ぶ事も、自分が何を頼まれているのかも分からない。


「殿下、ルナマリア嬢がどうかしたのですか?私が探してまいりますが」

エリアルも王太子の様子に戸惑っている。


ジュナがおろおろしていると、王太子の表情がだんだん青ざめてきた。


「どういうことだ?クライス嬢。君はまだ覚醒していないのか?前回の生ではもう····」


そこまで聞いた途端、ブワッと風がジュナを包んだ。エリアルが王太子に鋭い視線を向けている。

「エリアル?何どうしたの?」


王太子は雑念を払うように首を振った。

「いや、今回は違うことが多すぎる。ー風をしまえエリアル・ラザイン。君も繰り返しているのか?」


王太子の問いにエリアルは答えない。

しかしすぐに風は収まった。


「とにかく、今は時間がないんだ。クライス嬢、狼だ。闇の狼の気配をたどるんだ。ルナマリアが危ない」


「···!」

ジュナはゾッと思い出した。

(獣のことかしら。ルナマリアが襲われている?)


ジュナはバルコニーから身を乗り出し、辺りを見渡した。

(私にしか分からないってどういうこと。ルナ····!)


不思議と庭の一部にモヤがかかったように感じた。

「殿下、あの女神の像の下です」

ジュナは叫んだ。地下だ。あそこには地下なんてないはずなのに、空間ができている。


「そこか」

王太子の瞳がギラリと光り、手を振り落とした途端に火柱が起こった。


「ラザイン、頼めるか」

エリアルは頷くと、二人で火柱の元へ消えていった。


ジュナには護りの風が吹いている。ジュナは目をこらして火柱を見ていた。

しばらくすると、火柱は消え、ジュナの感じたモヤも消えて行った。そして暗闇からエリアルと、ルナマリアを抱えた王太子が現れた。

 


王太子はルナマリアを大事そうに抱えて、ジュナに一礼した。

「ジュナ・クライス。ありがとう助かった」



ルナマリアは眠っているだけだった。

ルナマリアが宿泊している別棟は遠かったので、ジュナの部屋を案内した。

ルナマリアをそこで寝かせ、王太子とエリアルは部屋を出た。



王太子はクライス邸に留まる訳には行かず、「後日、王宮に召喚する」と言って部屋を出て行った。


ジュナはルナマリアの横に寝転び、すうすうと一定の寝息をたてるルナマリアを眺めていた。


色んなことが起きすぎて、考えたいことがたくさんあるけどまとまらない。

考えることを放棄してジュナは眠りについた。











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