表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/27

13ーエリアルの弱音

第3食堂の屋根の上、人が居るとは思えない場所から、エリアルは見ていた。

苛立ちを抑えるため、組んだ腕に人差し指で単調にリズムを刻む。

「許しがたい···」

この数日間、エリアルはジュナに会うのを控えていた。

それもこれも、聖女の一団が自分の前に頻繁にあらわれるからだ。

(ジュナに会う機会を奪った上、傷付けようとするなど)


最近、どうもおかしい。聖女であるルリ・ミズサワが自分に執着しているように感じる。

1度目も2度目の生でも、こんなことはなかった。


不安を感じ、苛立ちが増した。

ささいなことでも、彼女を失う原因になるのではないか。


下を見るとサイラスが手を振っている。聖女の一団が充分にジュナから離れるのを見届けて、サイラスと合流した。



「怖い顔して、あんなとこで何してたの」

「なんでもない」


サイラスは呆れ顔をしてそれ以上追及しないでくれた。

「まぁいいけど。今日は第3に行くのはやめよう。ルリ嬢たちが入っていくの見えたよな」

「ああ」

「やっぱりルリ嬢の狙いはお前だよ。随分気に入られたな」


ジロりと睨みながら答える。

「僕を狙う理由が分からない」

「正気か?君を狙う理由なんていくらでもあるだろう」

「明確な目的が気になるんだ」


「ふむ。気になるなら調べてやるよ」

少し考えたあと、ニヤリと笑ってサイラスは答えた。









午後の授業を終え、魔術書をトントンと整頓する。

「ふーーー···」

長めのため息と共に机に額が付くくらい項垂れた。


「おお。珍しいな。どうした」

サイラスが声をかけてきたが、振り向く気力がない。

単純に力が出ない。


会えないと分かっている時は我慢が出来るのに、会える距離に居て会いに行けないのはとても苦痛だ。


この1週間、遠くから眺めただけで会話も出来ていない。

「つらい」

3度目の生、初めて出た弱音かもしれない。


(いや、1週間会えてないだけで気力がこんなになくなるとは)

自身につっこむ。こんなに精神が軟弱だったか?


「あっ。おい、エリアル。ドアの方を見てみろ。」

「無理だ」

首を動かすのすら嫌だ。

「いいから!後悔するぞ」


急かされて視線だけ寄せる。ー途端、身体の芯に力が入り、トントンっと魔術書を整えて鞄に入れ、颯爽と席を立った。

「あとでな。サイラス」


声をかけられたサイラスは、開いた口が塞がらず見送るしか出来ない。






「ジュナちゃんが来てから、エリアルはどんどん面白くなるな」

しばらくして呟いた。










「ジュナ。どうした?こんなところまで」

ジュナは教室のドアから顔だけ出してこちらを覗いていた。


満面の笑みを隠せなかったエリアルとは違い、ジュナはジロりとエリアルを見た。

「ちょっとこっちに来て」


エリアルの服の裾を掴み、ジュナは引っ張る。


エリアルは幸せを感じながらジュナに付いて行き、空き教室に誘導された。

「エリアル、まだ私に護りの魔術を付けているの?」


「もうバレたのか。今回はかなり精密に作ったのだが」

隠すつもりはなかったが、ジュナはエリアルの魔力が減ることを気にしていたので、目立たず護るよう複雑な陣にした。


「もう解除していいわ。まさか四六時中発動してるの?」

ジュナは慌てている。たしかに、護身魔術は消費魔力が多い。発動時間が長ければ長いほど、大量の魔力が必要になる。


エリアルはしばらく考え、素直に答えた。

「わかった。ーと言いたいところだが、それは出来ない」

「どうして?」

「君が大切だからさ。何としてでも守りたい」


ジュナが大きな瞳を見開いた。頰から耳にかけて紅く染まっていく。


エリアルは自分の心が満たされていくのを感じた。自分の一言によって、ジュナがこんなに愛らしい表情に変わるとは。


空き教室で良かった。誰にも見られたくない。こんな彼女の一面を。

思わずジュナの頬に触れる。そのまま抱き寄せてしまいたい欲望をなんとか抑え込む。

エリアルは侯爵家の教育に感謝した。こんなに自制心が利く自分を誇る。



ジュナはパクパク口を動かして、なんとか言葉を吐き出した。

「う、うぅ。それは妹として···?」


ジュナの頬に触れていた手を滑らせ、髪を一房優しく包み、口付けた。

固まっているジュナを至近距離で見つめ、にやりと笑って言った。

「どうかな」


からかわれたと思ったのか、ジュナは真っ赤になり、わなわなと震えながら涙目になった。

もっと見たいと思う反面、さすがに申し訳なくなった。


(ごめんね。ジュナ。まだ言えない。言ってしまえば、溢れて止められなくなってしまう)


まだ、まだ何も掴めていないままだ。







落ち着いたジュナにぽこぽこ叩かれて、ひと仕切り謝ったあと、寮まで送った。










次の日、自室に戻るとサイラスは早くも情報を掴んで来た。


こういう時のサイラスは、とても頼りになる。


「仕事が早いな。だから今日の昼いなかったのか?」


「だろう?俺を次期侯爵の筆頭秘書に選んだっていいんだぜ」

「跡取りが冗談言うな」

本当はそうしたいところだが。


「今日は第3に行ってきたんだ。そしたらアンジェリカ嬢とルリ嬢達が来て、色々お話をしたのさ」


エリアルは呆気にとられた。髄分思い切った行動を取るものだ。

「まぁ俺としたのは他愛ない話さ。俺が席を外した後、色々と教えてくれたよ」


サイラスは魔力量はエリアルには劣るが、魔力の繊細なコントロールは抜群に上手い。エリアルが教えた言葉を風に乗せて運ぶ魔術も、今ではサイラスの方が上手だ。


「ただ、ルリ嬢がいくつか意味の分からない言葉を発していた。俺には理解出来なかったから、そのまま伝えるぞ」

「分かった」

「ええと、前はエリアルを攻略出来なかったから、今回は最初に狙ったのに。エリアルの好感度が全然上がらない。ーどうして、ジュナがヤミオチ?していないの」


「待て、なんだそれは」

どれも理解出来ない。

(僕を、攻略?攻める?どういう意味だ。前、ということは、聖女も生を繰り返している?)


自分と聖女に共通点があったなどゾッとするが、何か思い出しそうな気がする。

(ヤミオチ?聞いたことのない言葉だ。ヤミ···闇?)


パチンッと頭の中で記憶が弾けた。


グラっと傾いた身体を、サイラスが慌てて支えた。

「エリアル?大丈夫か?」

サイラスの問いかけはエリアルに届かない。手で額を覆い、頭痛をごまかしながら思い出したことを反芻する。


(ーー闇。そうだ。ジュナは闇属性に目覚めるんだ)









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ