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12-婚約保留

「えっ!婚約が保留?!」

ジュナたちは外へ出て、食堂からも寮からも離れた場所まで来ていた。ジュナとルナマリアはベンチに腰掛け、エリアルとサイラスは立って話を聞いている。


「先ほど、お兄様からそう伺ったの」

「ど、どうして?」


ルナマリアの婚約は、ローウェン侯爵家と王家との間で交わされたもので、政略的な面も含む。保留などと、あってはならない事だ。


エリアルは慎重に口を開いた。

「ー聖女か」


ルナマリアは下を向き、眉をひそめて答えた。

「ええ。そのようです。私の立場は婚約者候補に下がりました。ローウェン侯爵家は抗議しましたが、陛下の決定は覆りませんでした」


ジュナは理由が分からない。

「え?ミズサワ嬢がルナの婚約と何の関係があるの?」


ルナマリアではなく、エリアルが説明してくれる。

「聖女が、と言うより、教会が王太子と聖女を婚約させたがっているんだ。どこかの伝承に残っていた。どの聖女もゆくゆくは皇后になっている」


「でもルナは小さい頃から王妃教育がんばってきたのに···!」

ルナマリアが幼い頃から、他の同年代の子より落ち着いていて、頭も良かったのは、ルナマリアの努力の賜物だとジュナは知っている。


「ジュナ、ありがとう。まだ破棄されたわけではないから、もう少し成り行きを見守ってみるわ」

ルナマリアは人ごとの様に言う。だがそれしか出来ることはなかった。


「ルナマリア嬢、お付きの生徒は2人だけ?」

エリアルの問いに、ルナマリアはきょとんとしたがすぐに答えた。

「ええ。2人ですが何か?」


「少し増やそう。ルナマリア嬢が不利にならないように。ローウェン小公爵に伝えておこう」


「おいおい。聖女が何か仕掛けてくるとでも?聖女様はチラッとしか見てないが、虫も殺せないような風貌だったぞ」

サイラスが信じられないという様に口を挟んだ。


「警戒すべきは教会の勢力だ。おそらく近いうちに、教会側の令息令嬢に家からの手紙が届くことだろう。」


「なるほど。ルナマリア嬢に圧力をかけてくる可能性は充分にあるな」


不安な表情のジュナとルナマリアに、エリアルは優しく言った。

「念の為だよ。ジュナ。君もなるべくルナマリア嬢と行動するんだ。ーもちろん聖女にも、隙は見せてはいけない。」

最後の一言は、エリアルも声のトーンを下げた。

3人はそれを静かに聞いて頷いた。






ー夕方、ジュナが部屋へ戻ると、窓際にいるルナマリアを見つけた。


ルナマリアは窓の柵に肘を付け、頬を乗せてぼうっとしている。貴族の令嬢たる振る舞いではなく、まるで彼女らしくない。

ルナマリアはジュナに気付くと手招きをした。


「私、王太子妃にならなくてもいいのかしら。ずっとならなくてはいけないと思ってきたから、この道がなくなってしまうなんて、少し怖いわ」


ジュナはルナマリアのすぐ横に行き、前を向いたまま言った。 

「ルナなら、国民みんなに愛される王太子妃になるよ。でも、もし王太子妃にならないとしたら、ルナの未来は無限大だよ。なんでも出来る」


「ふふ。どちらに転んでも退屈しなさそうね。」

「どちらにしても、私はルナの近くにいれるよう努力する!」

ジュナは、ない力こぶを作ってみせた。

「たのもしいわ」

ルナマリアは綺麗に微笑んだ。











翌日から、ルナマリアの笑顔が曇ることになった。

聖女が王太子の婚約者候補になったという話が、一気に生徒たちに広がったからだ。


見られることに慣れているルナマリアも、連日不躾な視線に晒されて元気がなくなっていった。


「ルナ。今日は外でお昼にしよう」

「ええ。ありがとうジュナ」


ジュナは最近、ルナマリア、 リリアン、ノアの4人で昼食をとっている。

エリアルとサイラスは、魔術の実習が増えてきたことと、彼らと居るとどうしてもミズサワ嬢やアンジェリカ嬢が近づいて来るからだ。


ルナマリアとリリアンに先に場所をとってもらい、ジュナはノアと2人で第3食堂へ来た。

サンドイッチと魚のフリット、他にも何品かバスケットに入れてもらい、外へ出た。





出てすぐに、会いたくない面々と会ってしまった。


正面から、アンジェリカ・リエナ伯爵令嬢、アリア・シュバルツ子爵令嬢、ルリ・ミズサワ嬢、他数人の団体が向かってきている。およそ第3食堂に似つかわしくない面々だが、エリアルを探しているのだろうか?


今から向きを変えるのは不自然なので、ジュナはこっそり気合いを入れて立ち向かった。


とは言ってもジュナに出来ることは、彼女らに一礼して去ることくらいだが。


ジュナは廊下の端により、淑女のごとく軽く礼をして立ち去ろうとした。が、一人の令嬢がジュナの足を引っ掛けた。

身体がグラつき、目の端で相手を見ると口元をニヤリと歪めている。


(貴族令嬢のすること?!)

バスケットを抱えているジュナはなすすべなく、前へ倒れる。

地面にオデコをぶつける寸前で、ノアの手がジュナを支えた。


アンジェリカ嬢が声をかける。

「まぁ。大丈夫ですの?クライス令嬢」


声に心配が混じっている。グループのリーダーであるであろうアンジェリカ嬢には話してない暴挙のようだ。


ノアはジュナを軽々起こした。

「失礼しました。お連れの方に、足癖のよろしくないご令嬢がいるようですね。皆様もお気をつけください」

いつもの態度とは、180度違う笑顔でノアは言った。


ジュナ含め、ポカンとしている令嬢たちに背を向け、ジュナをエスコートして足早に去った。


「ジュナ怪我はない?」

「ありがとうノア。素早いのね。助かったわ」

ジュナは心からお礼を言った。あのままでは顔面を床に打ち付け、鼻かおでこか目立つ所に痣が出来るところだった。


「うーん、あれは俺が間に合ったというより、ジュナは何か加護がある?守りの魔術が発動してたような気がするよ。倒れる動きがゆっくりだったもん」

心当たりがあり過ぎるジュナは固まった。


(エリアル?!まさかまた護りの陣を私にかけてたの?!)

嬉しいやらエリアルの魔力が心配になるやら、ジュナは素直に喜べなかった。


「にしても悪質だな。うちのお嬢に手が出せないからってジュナを狙うなんて」

四大侯爵家のルナマリアに、危害を加えて無事ですむような身分の者は学園にはいない。

「ノア、さっきのことルナには言わないでね。心配させたくないのよ」


ただでさえ参っているのに、これ以上負担はかけたくない。ノアはわかり易く納得いかない顔をしているが、頷いてくれた。



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