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鉄壁の運び屋 零ノ式 ー記憶の欠片ー  作者: きつねうどん
第2章 愛しい君へ
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第陸話 初の音

「ねぇ、何で寿ちゃんあんなに緊張してるの?」


「今日、新メンバーが挨拶に来るらしいっすよ。山岸さんが同じ顔になりたいって言うぐらいだから相当気に入ってると思うっすけどね」


そうだ。俺は物凄く緊張している。

新品の緑のワイシャツとピンクのネクタイを引っ張り出してくるぐらいには緊張してる。


「来た!俺の今彼!」


「おいこら、山岸。走ると危ないだろ」


那須野の言葉を無理して本拠地の扉を開ける。

あまり外見に気を使わないのか無造作な黒髪の青年が現れた。

そう、隼だ。しかし、その表情は暗いものだった。

先日、話した時も終始無表情だったと思うが様子がおかしいのは俺でも分かった。


「...本当はここに来ようか迷ったんです。でも誠意は見せないと、と思いまして。とりあえず、これを見てもらえますか?」


そのあと、黄色い封筒を差し出された。

懐かしい。今は担当が変わったがDr.黄泉が診断の結果を同封してくれる時に使われている彼専用の封筒だ。

どうしてこれを隼が?そう思っていたが、彼の言う通り中身を開け医学にも詳しい那須野にも見てもらった。


そしたらどうした事か?とんでもない事実を俺は知る事になる。

正直、大地震レベルで震撼した。


「は、発達障害」


「成る程な。母親がADHD。そして隼がASDか。ありえない話じゃない。表面上に出ていないだけで、苦しんでいる人も沢山いるだろう。どうする、山岸?正直、颯の二の舞にはさせたくないし、させられないぞ」


「分かってるよ。ありがとう、隼。良く打ち明けてくれた。正直、ウチはメンバーが多いとは言え。颯の件がある。少し話し合いをさせてくれないか?」


「懸命な判断だと思います。正直、俺もどうしたらいいのかわからなくて。この病は根本的な治療法がない。一生向き合っていかないといけない。俺も、貴方達も。その中で解決案があるならこれ以上の物はない。どうかよろしくお願いします」



「良いんじゃねぇか?入れてやれば」


夜、協会の医務室で見舞いと相談を含め颯と会話をしていた。


「意外だ。颯なら止めると思ったのに」


「逆に親近感湧くけどな。俺も、その隼ってやつも病を抱えてる。見える病と見えない病。それだけの違いだろ?根本は変わらない。また、サポートしてやれば良いじゃねぇか。少なくとも、俺はそれで救われた。確かに上手く出来なかったかもしれない。でも、やって来た事は無駄にはならない。逆に俺達らしいと思うけどな」


颯はそう言いながら、微笑んでいる。

その言葉を聞けただけで十分幸せだった。

颯に会えて良かったなと思えたのだ。


「ただ、隼の母親は引退したけど偉大な運び屋だ。それを預かる身としてはプレッシャーもある。隼も颯も特別な子だ。色んな意味でな。生かしてあげたい気持ちと、それによってお前のように倒れてしまうんじゃないかって思いがある。...最悪、青葉のようになる可能性だってある」


「良いじゃねぇか、それで。俺達が受け入れなかったら、ソイツはどうするんだよ。多分だけど、音楽家の息子だからそっち方面に行くんだろうな。今後も俺達と会う事はないだろう。俺は知ってる。その道の先にあるのは孤独だ。隼は今、向き合おうとしてる。自分の病に、そして人に。なら、その気持ちに俺達が答えてやれば良いんじゃねぇの?」


「そうだな。ありがとう、颯。早速だけど、隼を壱区のエースとして売り出したいんだ。颯、いやそれ以上の範囲を担当する運び屋に育成したい。教育係になってくれないか?正直さ、望海みたいな子がウチにも欲しいんだよね。小町にも彼のバディを頼んでる。連携しながら業務に就いて欲しい」


「もう、大体のプラン練ってるのかよ。相変わらず仕事が早いな。山岸らしいや」


その数日後、隼と本拠地で面会した。


「いや、正直。断られると思ってました。こんな資料まで用意してもらえるなんて。俺が壱区のエースになる。それは彼も了承してるんですか?」


「あぁ、本人もその方向で進めてくれって背中を押してくれた。隼、約束してくれ。俺達はお前を全力で支える。だから、望海にも負けない。いや、それ以上の運び屋になってくれ。この際、一つだけ秀でてくれれば文句は言わない。どうだ?隼、お前はどんな運び屋になりたい?」


「そんなの決まってる。“1番仕事が早い運び屋”これしかないでしょう。シンプルかつ、究極の答え。それを俺は実現させます」


「良く言ってくれた。そうだ、隼は聴覚過敏ってきいてるから愛が発明品を送ってくれたんだ。小町、隼に渡してくれ」


「はいなの!ふふん、えっとね。雑音を消す事が出来るヘッドホンだって愛が言ってたの。小町は良く分からないけど、オーダーメイドなんだって。ピンクと紫。凄く可愛いの」


「俺は使えれば何でも。小町、これからよろしく。俺に付いてこれる?」


「これる?じゃなくてついていくの!隼の事は小町が守るから、期待してて!」


そう言うと隼は珍しく、安心したのか子供のような無邪気な笑顔を見せる。

これがギャップ萌えってやつか。恐ろしいなと思いながら、2人を見守っていた。


「じゃあ、俺は小町を守るよ。ずっと、1人だと思ってた。でも、小町がいてくれるなら俺も安心かな。頼りにしているよ」


「隼、100点!いや、320点なの!って、寿ちゃん。なんで倒れてるの!」


いやいや、これはとんでもない新人が来た。

そのあと、俺は隼をデートに誘った訳ですよ。そしたらね。

「時間とスケジュールを守ってくれるなら付き合いますよ。生活リズムを崩されるのは嫌なので」だってさ!

結局、小町に止められたんだけど。チャンスはまだあると思うんだ。


頼りにしているよ、俺達の若きエース。

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