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鉄壁の運び屋 零ノ式 ー記憶の欠片ー  作者: きつねうどん
第2章 愛しい君へ
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第伍話 氷襲

颯と初めて会ったのは青葉が入院した病院だった。

毎日お見舞いに来てるとちらほら同じ通院患者や入院患者を見かける事も多い。

そんな中で1番若かったのが彼だった。


第一印象は雪や氷のように儚くて直ぐ無くなってしまいそうな王子様みたいな感じかな。色白の肌と銀色の髪が印象的な男の子だった。

正直、今と昔じゃ印象も違うと思う。

と言うか、真反対かもしれないね。


「はい、これが取りたかったんだろう?どうぞ」


最初に会話をしたのは院内の売店だった。

颯は当時車椅子生活で、雑誌コーナーに手を伸ばしても届かなさそうだったのでお節介とは思いつつ手を貸した。


「あぁ、悪いな。アンタ、元気そうだけど良く見るよな。見舞いか?」


「...奥さんが仕事で怪我をしてさ。何とか命は助かったんだけど、完治には時間もかかるし。出来るだけ側にいてやりたくて」


「そうか、アンタも災難だったな。その奥さんも」


病院内で起こるごく普通の会話。しかし俺は背筋を凍らせていた。

颯は眼が充血し、瞬きも多い。隈もあり、寝ていないのが容易に分かる。

それ以上に真夏にもかかわらず長袖をきている。

病院着からうっすらと見える腕には包帯が巻かれている。

所謂、リストカットの跡だ。


今の颯も基本長袖で素肌を見せる事はない。

腕の傷を隠す為にピンクと紫の手袋。緑の上着は手放せない。

本当に颯は良く頑張ってくれてると思う。


どうしてそんな彼を仲間に招き入れたのか疑問に思う人もいるだろう。今回はそれを中心に話して行こうと思う。


「寿ちゃん、新しい依頼なの!はい」


「ありがとう小町。いつも助かるな」


青葉が離脱したとはいえ、俺もそうだが那須野、翼、小町とメンバーが残っている。

チームの中心、リーダーとして、仕事をしなければならないのだが何故か偶にオカルト案件の依頼が混ざる事がある。

小町の座敷童の件と良い、どうなっているのかと首を傾げていた。


「何だ、何だ。またオカルト案件かよ。飽きないな、周囲も俺たちも」


「地域に貢献しようと思って最初は受けたけど、こうもなると断ざるを得ないな」


那須野と呆れながらも依頼内容を見ると今回も本格的な依頼だった。


「本物のイタコを探して欲しい、だってさ。まぁ、偽物もいれば本物もいるだろうけど。俺達に真偽を確かめろって言われてもね」


「イタコって、お祓いとか降霊術が使える巫女さんの事なの。眼が悪い人って言うのも条件ね」


その時は依頼を受ける事もなく、無視していたが後で大変な事になるのを当時の俺達は知るよしもなかった。


『さて、次のニュースですが本物のイタコ降臨か?感動の再会。亡き母が娘に贈る最後のメッセージとは!?についてご紹介したいと思います』


新品の白黒テレビに釘付けになる翼と小町を見ながら遠目でその映像を見ていた。


「山岸さん、ウチもカラーテレビにしましょうよ。望海の所は買う目処が立ったって言ってるっすよ!」


「小町達だって、お仕事頑張ってるの!寿ちゃん、買って!」


「ダメ!俺も欲しいけど青葉に怒られちゃうだろう。そりゃ、児玉さん達の次に稼いでるって自負してるけどさ。2倍ぐらい離れてるからね売り上げ」


その翌日、俺は孫に会いたいというお婆ちゃんの依頼を受ける事になった。

しかし、彼女は盲目であり。時々、不思議な事を言う人だった。


「孫はね、生まれつき念力が多くて悪霊や病魔に取り憑かれやすいの。もう、心配で。心配で」


「は、はぁ。そうですか、それは大変ですね」


仕事柄オカルト耐性があるとは言え、ここまでくると恐ろしくなってくる。しかも、その孫も問題児だった。

目的地は青葉と同じ病院、そして入院患者の病棟。

老婆が立ち止まったのは“氷見戸颯”と書かれたネームプレートの病室だった。


「婆ちゃん、久しぶり。爺ちゃんは来てないの?」


「お爺ちゃん、ギックリ腰になっちゃって。今日は運び屋さんに手伝ってもらったの」


そのあと、見知った仲とは言え軽く会釈をした。

案の定、目を見開いていたが聞きなれない単語を口にした。


「アンタ、純血?それとも、1/2?1/4か?」


「え?」


「赤い血の割合だよ。運び屋は全員、濃薄はあるけど赤い血を持ってる。ウチの婆ちゃんは純血なんだ。念力を膨大に所持しているけど、その代償に眼が見えなくなった。俺は1/4引き継いでる。青い血の成分が強すぎてこの通り病弱だけどな」


その言葉を聞いて、この人達がオカルト寄りではなく寧ろ論理的思考をもっている人達だと言う事が分かった。

もう少し話を聞きたいと思い、ベット側にある椅子にお婆ちゃんと共に腰掛けた。


「ほら、最近話題になってるだろ?イタコがどうのって、アレは偽物だ。本物はそこにいる俺の婆ちゃん。49日で霊と身体が分離出来る訳がない。精々、100日待つんだな」


「うんうん、颯は良く勉強してるね」


「ごめんな、婆ちゃん。こんな身体じゃ、後継者なんて言ってられないよ」


「いいさ、颯が無事でいてくれるなら」


身内の話ではあるだろうが、颯は特別なルーツを持つ青年のようだった。赤い血のルーツについて詳しいし、念力についても俺に助言をしてくれた。


「あのさ、運び屋の奴らって武器に念力を送り込んで使ってるよな?

別にそれは間違ってない。でも、非効率過ぎる。力のコントロールがなってない。貸してみ?」


手のひらを差し出されたので比較的害のない“真偽の鶺鴒”を渡した。

形は折り紙で作った鳥と言えば笑われそうだが、念力を込めれば30羽は軽く生成出来る強力な偵察道具だ。


それを颯は手に取り、使い方も教えていないにもかかわらず最も簡単に鶺鴒を生成した。その数50羽。正直、お爺ちゃんではなく俺がギックリ腰になりそうだった。


「まぁ、綺麗。颯は鳥を作るのが上手いからね。今度は何を作るんだい?」


「熊とか面白そうだけどな。大きいから難しいかな。今日はこんなもんか、体調やコンディションでも質は変わるし。婆ちゃんは目は見えないけど念力とか悪霊とかを生まれつき見る事が出来るんだ。俺が病に倒れたらお祓いをしてもらう。基本は病院送りだけどな」


「はぁ、これはたまげたな。でも、辛くないか?どれだけ知識があっても活かせないんじゃ勿体ないだろう?正直、本業の俺たちでも理解出来ていない事を颯は良く知ってる。Dr.黄泉っていうさ、俺達の武器を作ってくれる人がいるんだよ。あの人は本当に天才肌の感覚派だから、論理的な人がいてくれると此方としては助けるけどな。一応、弟子を取るつもりではいるらしいんだけど」


「こう言う業界は町どころか村社会だからな。孤立し易くて、精神的に不安定になりやすい。俺もその1人だ、病弱なら尚更な。婆ちゃんが最後のイタコなんだ。後継者もいない。偽物がいてくれた方が精神的には安定するけどな、そのうち周囲に飽きられていなくなるだろう。そんな俺を庇う必要はないと思うけどな」


確かに特別な血筋は閉鎖的になりやすい。

しかも颯は病弱だ。今も偏食の隼と比べても年上にも関わらず此方の方が細い。

だとしても、勿体なさすぎる。それに背中を押してくれたのが彼のお婆ちゃんだった。


「颯、我儘は良くないよ。それに、小さい頃から運び屋になりたいって言ってたのは紛れもなく颯なんだ。お婆ちゃんはずっと、颯の事を応援してた。期待してたんだよ、颯が運び屋になるのを」


「婆ちゃん、ありがとう。でも、俺はこの通り病弱だ。周囲の支えがどうしても必要になる。今のアンタに俺を受け入れられる余裕はあるか?それならその誘いを受けるよ」


「余裕はあるものじゃなくて作るんだよ。分かった、約束する。良い案があるんだ。ウチさ、バディ制度って言って。同行する相方をつけてるんだけど、その1人を颯につけるって言うのはどうかな?小さくて可愛い女の子なんだけど、見た目によらずしっかりしてるしお姉ちゃんだから面倒見も良いし。良いコンビになると思うよ」


「大丈夫かよそれ、まぁ居ないよりかはマシだな。まずは病気を治さないとな。正直言って、宙ぶらりんな生活をしてたから助かるよ。期待には応える、絶対にな」


そのあと颯は病を克服し、俺達の元へと来てくれた。

だが、そう長くは続かない。

どれだけサポートしても、彼を活かそうと思っても、颯が俺たちの期待に応えてくれたとしてもやっぱり限界は見える物だ。

隼に会った時もそれを指摘された。正直言って図星だった。

俺達の組織は完成しない。それは良い事でもあり悪い事でもあった。

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