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鉄壁の運び屋 零ノ式 ー記憶の欠片ー  作者: きつねうどん
第1章 始まりと栄光
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第参話 希望は叶う

「いらっしゃいませ」


反射的に、ドアベルの音に合わせ客に挨拶をすると正に大和撫子と言って良いほどの少女がいた。

光莉と同じ女学院の制服にも関わらず、此方の方が清楚に見えるのは目の錯覚だろうか?


黒髪のロングに黄色の髪飾り。そうだ、彼女が後に比良坂町一の運び屋となる望海だった。俺の自慢の弟子でもある。


「あの、光莉と待ち合わせをしていまして。此方にいると伺ったんですが?」


「あぁ、ちょっと待ってくれ。おい、光莉!友達が来てるぞ」


地下倉庫から慌てて出てきた光莉を見て望海は訝しいんでいた。


「あの、そこって関係者立ち入り禁止の所ですよね?この店のマスターと光莉はどのような関係なんですか?」


光莉は誤魔化しながら俺の方に近づいてくる。

正直、運び屋なんてこの町に溢れかえっているし隠す気もないのだが光莉はこの事を望海に打ち明けていないようだった。


「光莉、隠さなくても良いだろ。逆に誇りに思え。全区域担当してる運び屋なんて俺達しかいないんだから」


「いや、でも。私、学校だと問題児なの玉ちゃん知ってるでしょ?仕事人間だからさ。望海に言っても信じてもらえるかどうか」


「あっ、運び屋だったんですね。そうだと思いましたよ。習い事でも移動の為に利用してましたし。噂で聞いてました。光と音のコンビがいるって。光莉達の事だったんですね」


...案外、あっさりと俺達の事を受け入れていた。

若い子は柔軟で良いなと思いながら俺は望海にコーヒーを提供した。


「貴方が光莉の言っていた児玉さんという事ですね。改めてまして、東望海です。光莉とは習い事をサボる仲でして。良く映画館に行ったり、ご飯を食べに行ったり仲良くさせて頂いてます」


自分でも緊張するほどの品の良さというか、育ちの良さというかどうしてこの子が光莉と連んでくれたのかというのが俺自身良くわかっていなかった。


ただ、光莉から同時に望海の家庭環境について説明を受けると合点が言った。俺も親だ、教育本を読む事がある。

望海は所謂、毒親の元で育てられたアダルトチルドレンという言葉が不謹慎だが似合うだろう。

光莉と同じく、幼い頃から苦労している事もありお互いに理解し寄り添える仲と言ったところだろうか。


「じゃあ、今。家に親がいないのか。何かしてあげたいが俺に出来る事なんて一握りだしな」


「何言ってるの!児玉相談役!玉ちゃんのお陰で山ちゃんとか旭が救われた実績があるんだよ。もっと誇れよ!今日だけ偉そうにしていんだよ!」


「明日になったら光莉が偉そうにするからな。うちの店ならいつでも大歓迎だ。仕事で2人とも開けていて閉めてる時もあるけどな。勉強しにきても良いし、趣味でやってるお店だから客もそんなに来ないしな」


「ありがとうございます。でも、光莉が羨ましいですね。児玉さんがそばにいてくれて、こうして楽しく日々を過ごしてるということでしょう?何と言いますか、私は母親の事を疎く思っていますが父親の事は良い思い出として残っているんです。だから」


そう言って、照れ臭そうに望海は俺の方を見た。

俺には花菜ちゃんがいる。心は揺るがない。

そんな事を考えていると光莉にどっから持ってきたのかハリセンで叩かれた。


「私もいるだろうが!何よ、玉ちゃんデレデレしちゃって!良かったね、両手に花で。とは言えさ、私も望海も父性を求めてるって言ったらそうなのかもね。正しい父性って奴ね」


そう言いながら光莉は望海の隣に座る。

お互いに目を合わせながら思いを確かめ合うように頷いていた。

本当に仲が良いのだろう。仲睦まじい姉妹のようにも見える。

光莉が昼の太陽で、望海が夜の月と言えば良いのだろうか?


「どうしても大人に頼りたいなと思う時は多々あります。それでも私には限界があって。人に頼るのが苦手なんです。何でも1人で背負い込んでしまって。完璧主義な所もあって、0点か100点みたいな価値観で生きてきた時もありました。光莉と過ごすうちにちょっと休んだり、サボっても良いんだって思えてきて。それで大分楽になったんですよね。本当に光莉には感謝しかありません。ありがとう」


「良いって事よ。ねぇ、望海。ちょっとずつで良いからさ運び屋の仕事やってみない?望海、結構人気出ると思うよ。花があるしさ。正直、自分も限界があるんだよね。役割分担しないと組織も回らないしさ。良いよね?玉ちゃん」


「まぁ、容量も良さそうだし。真面目な性格なら運び屋の時間に正確な生活スタイルも適応出来るだろう。俺からもお願いするよ、望海。俺達の仲間になってくれないか?」


「えっ、私がですか?じゃ、じゃあ。よろしくお願いします!」


そのあと、2人は望海に対して拍手を送った。

そしてその事を後輩でもある山岸と旭に連絡したら想像以上の反響があった。

その中で山岸は同期の子がいるから紹介も兼ねて会わせて欲しい、そう言ってきたのだ。

旭の方も元々、光莉と親近感を抱いていたそうだが望海も同じく縁があるように見えたらしい。機会があれば会いたいと言ってくれた。


「わぁお!弐区の女子はレベルが高いな。児玉さん、早速なんですけどウチの翼と交換しません?」


「はぁ!?あれだけしつこく付き纏っておいて俺の事捨てるつもりなんすか!?嘘でしょ!?」


「何言ってるんだ。そんな事する訳ないだろう?俺は束縛が強い方なんだよ。一度手に取ったら離さないの。翼、お前の事も誰にも渡さないからな」


「いや、言い方!あぁ、もう!仕事が出来る人だって聞いてたからこの人について行こうと思ったのに。先行き不安なんすけど、大丈夫かな」


2人の会話を聞いてると、望海がヒソヒソと俺に話しかけてきた。


「山岸さんって方。面白いですね。あれは冗談で言ってるんですか?」


「いや、山岸の場合はガチだぞ。ガチだから面白いんだ。でも気をつけろ。山岸は両刀、二刀流なんだ。野球でも彼方でもな。普通に奥さんいるし、本当にやりたい放題してる奴だぞ。俺好みの美女、イケメン軍団を作り上げるって本気で言ってるからな。自分も好青年の爽やかイケメンと来た。誰も反抗出来ないぞ」


「でも、今日連れてる翼って人。イケメンじゃないですよね?どっちかって言うと可愛い系のような...」


「おっと!お嬢さん、お眼が高い!そうなんだよ。やっぱりさ、イケメンのバディって言ったら小さくて可愛い男の子の方が映えるわけ。やっぱり全体のバランスを考えた時にさ属性被りは好ましくない訳ですよ。先の事を見越して翼を仲間に引き入れたわけ」


「はいはい、分かってるっすよ。何だっけ?クール系と俺様系とワイルド系でしたっけ?あといないの」


山岸は翼に抱きつきながら嬉しそうにウンウンとうなづいている。

翼もう既に諦めているのか流れに身を任せているようだ。

望海は終始、笑いながら山岸の話を聞いていた。


と言うか、山岸は仕事でもプライベートでも基本何でも出来る奴だ。

本人は器用貧乏とか何者にもなれないなんて昔言っていたこともあるが、今こうして運び屋として大成してるのだから本人も努力を重ねたのだろう。時代の波にも柔軟に対応出来るタイプなのかもしれない。


「久しぶりに沢山笑いました。山岸さんも翼も面白い方達でしたね。えっと、確か壱区にもう一組いましたよね?旭さんでしたっけ?」


「あぁ、旭は本当に仕事熱心な奴でな。本当、生まれる時代を間違えたんじゃないかってぐらいの実力派なんだ。オーパーツって奴だな。

ただ、それとは正反対の幼馴染に人気を取られてるって言うのが現状だ。相方の朱鷺田は町長の息子でプライドが高い。俺もあまり会話した事がないくらいだしな「俺を従わせる事が出来るのは旭だけだ」って言われた事もあるぐらいだ。気難しいってのは否めないかな」


「本当に沢山の運び屋の方がいるんですね。その中で私は何になれるんだろう」


「ゆっくり考えれば良いさ。自分の道を突き進んでいけば見えてくるものもある。大事なのは諦めない事ぐらいだな」


「それが出来たら苦労はしませんけどね。でも、以前。光莉が私に夢をくれたんです。希望をくれた。今度はそれを皆さんに送りたい。そう思います」


望海の瞳は今やどこにあるのだろう?海のように透き通る青い瞳をしている。俺は彼女の思いを受け止め、笑顔で頷いた。

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