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鉄壁の運び屋 零ノ式 ー記憶の欠片ー  作者: きつねうどん
第1章 始まりと栄光
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第弐話 悪夢

「えっ、児玉君。帰っちゃうの?」


「まぁな、親父も年だし。気は進まないけど、顔を見せておかないと」


2人で会った喫茶店で刹那そうに俺の顔を見る女性は後の奥さん、零央の母親となる花菜ちゃんだ。

この時俺は彼女の気持ちに気付けず、知らんぷりしていた。


「また家に帰ったら、見合いさせられそうになるのかな」


そんな事をボソリと呟くと花菜ちゃんは珍しく動転した。


「えっ、お見合い?誰かと結婚するの?」


「違うよ。親父も高齢で早く孫の顔を見せろって五月蝿いんだ。大学を卒業したら地元に戻ってこいとか言われて。多分、その時に結婚出来るようにって事じゃないかと俺は思ってるけどな」


「...嫌だ」


「えっ?」


「信二君が居なくなっちゃうなんて私、耐えられない。お願い、私と結婚して。離れたくないの」


一生懸命、細く小さな手で俺の手を包んでくれる花菜ちゃんをみて俺は決心がついた。

それからの行動はメチャクチャ早かったと思う。

音速のペースで入籍。自分でも学生結婚するとは思っていなかった。


惚気話はこれくらいにして、俺は新しく2人の問題児と出会う。

クソ餓鬼では無く、じゃじゃ馬お嬢様達だ。

最初に光莉と出会ったのは、零央が孕った頃だったと思う。

俺は最初、光莉が花菜ちゃんが務めるピアノ教室の生徒というぐらいの情報しか知らなかった。


負けず嫌いで1番になりたがる。

当時、ピアノ業界には神童と呼ばれる少年がおり彼が賞を席巻していた。

その正体は隼で、光莉は対抗心を燃やしていたが正直敵わないと言うのが現実だった。


しかし、光莉はそれで良かったのだろう。

何故なら、何をしても沢山褒めてくれる両親の存在があったからだ。

「光莉が1位だ」そう言ってもらえるだけで、彼女の心は安らいだ。

しかし、そうも言っていられなくなったのだ。


とある雨の日、ピアノ教室のスタッフから連絡を受け其方に向かった。


「信二君、光莉ちゃんが時間になっても来てなくて。私はこの通り身重だから動けないの。家の方からはもう出て、其方に向かってるって教えてはもらったんだけど心配で。子供1人だし、何かに巻き込まれてないと良いけど」


この比良坂町、人口減少により空き家も多くしかも低い建物ばかりだ。

迷路のように入り組んでおり、地下も蟻の巣のように入り組みその中で業務をこなす運び屋もいると言う。

正直、自転車もギリギリで車が通る隙間もない。


だからこそ、道に詳しく安全に移動出来る運び屋の存在が必要不可欠なのだ。

人であればそれ程スペースも取らないし、ある程度の地理も把握している。この場所にうってつけの仕事と言う事だ。


「分かった、俺も手分けして探して見るよ。ただ、手がかりが欲しいな。花菜ちゃん、その子が行きそうな場所は分かるか?」


その言葉に花菜ちゃんは気まずそうにしながらも耳元で周囲に聞こえないように囁いた。そのあと、俺は目を見開いた。



「クソッ!クソッ!どうしてだよ!何で居なくなっちゃたんだよ!一緒にいてくれるって言ったのに!側にいてくれるって、約束したのに!」


墓地で赤い傘を差した少女がいた。それが光莉だ。

両親の墓の前で泣き崩れ、蹲っていた。

10歳の少女に襲いかかった悲劇に俺は側で見ている事しか出来なかった。

しかしだ、彼女が側にあった石を持ち墓にぶつけようとしているのを見て咄嗟に腕を掴んだ。


「ダメだ。どんなに寂しくても、苦しくても両親を侮辱するな。後で絶対に後悔する」


「誰よ!アンタに私の何が分かるの!」


花菜ちゃんと同じ事を言われ、懐かしさに浸りながらもこう返した。


「分からないよ。でも、側にいる事は出来る。一緒に泣く事は出来る」


そう言われ、光莉は何か言いたそうにしながらも涙を堪えながら走り去っていった。

後で本人に聞けば、あの時止めてくれてありがとう。と言っていたので俺の行動は間違ってはいなかったのだろう。


ただ、問題があるのも事実だった。

光莉に親がいないという事実は揺るがない。

大きな家には料理長や家政婦はいるようだが、家族も親族も彼女には寄り添ってくれなかった。


光莉はその寂しさを埋めるように外で悪さを働くようなった。

壁に落書きをしたり、金をばら撒いたり、路地裏の不良に絡んで銃で脅したり、金で雇った強者同士で戦わせたりやりたい放題だった。


「おい、光莉。壁の近くにいたら危ないぞ」


とある日の事だ。光莉が壁に落書きをしている時に悲劇が起きた。

と言うのも当時壁は10m程で現在の高さに達していなかった。

そうだ、人魚が陸上に来る可能性が高い事を示していた。


何か歌声が聞こえる。人魚の歌声だ。近くにいるのが明白だった。

しかもこの声、水路に人を引きずりこむ為に親しい声に似せてくるのだから厄介だ。それは今の光莉に効果的面だった。


「....パパ....ママ」


何かに操られるように壁際にある梯子に向かおうとしている。

そうやって、自分達の餌を得ているのだ。


「やめろ、光莉!其方に行くな!」


光莉の腕を慌てて掴むと頭上にヒレとウロコが見えた。

そう、人魚だ。しかも、恐ろしい事に標的は光莉じゃない。俺だった。光莉は囮に使われたのだ。


「そうきたか!随分と小賢しい真似をしてくるな。俺を狙ってのが運のツキだ」


【コード:000 承認完了 磯天狗を起動します】


火の玉を持つ河童の力により人魚が焼けこげていく。

ほっと息を撫で下ろすとボロボロと涙を流しながら光莉が近づいて来た。


「うぅ...ごめん。私のせいだ。私がパパやママに会いたいって願ったから」


「何言ってるんだ。子供なんだから会いたいと思うのは当たり前だ」


光莉の目線に合わせてしゃがむと痛むが走った。

腕に引っ掻き傷があるのが分かる。

先程の人魚につけられたのだろう、それをみて更に光莉は泣き出した。しかし、泣きながらもポケットから取り出した高そうなレースのハンカチを取り出し、傷口に当てがった。


それを見て、光莉は優しい子だと知る事が出来た。


「おい光莉、良いのか?大事なハンカチ血で汚れるぞ」


「良いの。赤が好きだし、お兄ちゃんが無事ならそれで良い」


「お兄ちゃんって呼ばれるような立場じゃないんだよな。お父さんでもないし、おじさんでもないし」


「...玉ちゃん」


「良いな、玉ちゃん。じゃあ、これからはそう呼んでくれ。光莉、お前は優しい子だ。どうだ?自分の力を人の為に使ってみないか?今日、お前は守られた。そしたら今度は光莉が誰かを守ってあげれば良い。そうやって繋いでいくんだ。俺と一緒にコンビを組んでくれないか?」


「いいの?私、子供だよ?」


その言葉に俺は首を横に振った。


「姿形は関係ない。お前は光莉だ。紛れもなく光莉なんだ。俺はお前とコンビを組んで沢山の夢を運ぶんだ。どうだ?素敵だろう?」


そう言うと光莉は目を輝かせ、俺の手を握った。


「私、嫌だよ。玉ちゃんまでいなくなったらどうしたら良いのかわからない。約束して、ずっと一緒にいてくれるって」


「会議はすっぽかしても女の子との約束は守るからな。信用してもらって構わない。約束と時間は守る事に定評があるんだ。期待しててくれ」


そのあと、光莉と指切りげんまんをし。最初のコンビが誕生した。


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