第壱拾参話 決闘
燕の家系はね、由緒正しい運び屋のお家なんだ。
その中でもね、お祖父ちゃんと大叔父さんは凄い人だったの。
若い頃、兄弟で大活躍したんだって。凄いよね。
燕もその名に恥じない素敵な運び屋になるんだって、昔も今も思ってる。
亘君の家程じゃないけど、歴史もあるし。
実はね、玉ちゃんとも接点があったりするんだよ。
というか、玉ちゃんのお父さんね。
今回は燕の家もそうだし、瑞穂と咲羅との出会いも話したいなと思ってるよ。よろしくね。
「斑鳩おじちゃん久しぶり!お祖父ちゃんに会いに来たの?」
「燕ちゃん、久しぶりだね。元気してたかい?」
斑鳩おじちゃん、昔は燕やお祖父ちゃんと同じ乙黒家の人だったんだけど、次男だし斑鳩家に婿入りしたんだ。
斑鳩家の人脈も凄くてね、本間家や夢野家と以前はビジネスパートナーだったし、東屋のスポンサーでもあるんだよ。
凄いのはね、ここからなんだ。来たよ、三羽烏の登場だ!
「父さん、俺は御当主の所に行ってくるよ。海鴎さんもそれで大丈夫ですか?」
「いやー、緊張するな。偉大なる先人だし。紫紋の言う通り、十字架を切っておこうかな」
「じゃあ、お二人とも此方へ。燕、叔父さんと一緒にいるかい?」
「うん!パパ、お仕事頑張ってね。燕、応援してるから」
斑鳩おじちゃんの息子さん、海鴎君のパパ、燕のパパのトリオは三羽烏って呼ばれてたんだ。
代々、世襲制で親戚も立派な運び屋として活躍。
正直言って、プレッシャーもあったけど周囲の期待を背負うのは嫌じゃない。寧ろ、燃えるよね。
「ねぇねぇ、斑鳩おじちゃん。燕ね、銃をカスタマイズしてみたの。見て見て!」
「おぉ!二丁もか。小型銃なのに良くここまで改造した物だ。試し打ちしても良いかい?」
「折角なら、二丁拳銃として使って欲しいな。斑鳩おじちゃんも拳銃使えるでしょ?お祖父ちゃんも飛び道具は得意だって言ってたし」
そのあと、おじちゃん一緒に射的場に向かう。
家は老舗の運び屋という事もあって、Dr.黄泉の支援は受けられない事を前提に日々の運び屋業務をしているんだ。
だから、武器の手入れとか傷の手当ても自分達でやるのが基本なの。
燕も幼い頃から拳銃の手入れをしていて、もう妹みたいな感じ。
枕元にいつも置いてて、大事な家族の一員なんだ。
「おじちゃん、どうかな?一応、軽量化を目指したんだけどそしたら大きな弾が使えなくなっちゃたんだよね。バランス調整が難しくて」
「このくらいの口径なら実戦でも通じるよ。燕ちゃんは天才だな。もうそろそろ、お許しが出るんじゃないかな?」
「本当!燕も運び屋デビュー出来るかな?」
意外かもしれないけど、燕は瑞穂や咲羅よりも先に運び屋になったんだ。
家系も影響してるかもしれないけど、乙黒家の中では最年少でデビューしたから周囲からは天才児って呼ばれてたんだ。
でもね、そのせいでご近所さんとか学校の友達とかから怖がられちゃったんだよね。「女の子が銃を持つなんて」ってね。
「ひっ、出たぞ!銃女だ!俺達も殺されるぞ!」
「燕ちゃん、真夜中に何してるの?パパとママが言ってた。人魚を殺してるって」
学校のクラスメイトからそう言った話を何度も聞かされた。
燕は白と赤のセーラー服を着てるから、制服の赤は血で染まってるって根拠もない事を言われた。
確かに、燕は運び屋業をして依頼人を守る為に戦闘をしないと行けないこともある。
でも、何でだろう。報われない仕事だなと思った。
「どうした燕?そんな浮かない顔して」
「...お祖父ちゃん。燕、運び屋辞めようかな。早すぎたんだよ、何もかも」
いつもは燕にも周囲にも自分にも厳しいお祖父ちゃんが優しい声色で話しかけてくれた。
燕が相当落ち込んでたから心配してくれたのかもしれないね。
辞めると言いつつ、銃の手入れを辞めないからお祖父ちゃんには自分の本心が丸見えだったのもあるだろうけど。
「知っているか。中心街の方で新しい運び屋が生まれたそうだ。近々、偵察も兼ねて私達の所にもくるだろう。下賤な奴らだ。名門乙黒家に刃向かうとは。七星家の護衛らしいが、運び屋の家系でもないズブの素人共だ。燕、そんな奴らに仕事を任せて良いのか?違うだろう?」
お祖父ちゃんはね、自分の家を誰よりも誇りに思ってたんだ。
無理もないよね、親戚も全員運び屋だし。
だからね、最初瑞穂と咲羅の事を信用出来なかったんだ。
今はね、一緒に酒盛りをするぐらいには仲が良いんだよ。
でも、当時はそうじゃなかった。自分の担当範囲を2人に乗っ取られると思ってたんだよ。だからね、抗争が起きちゃたんだ。
2人が下見に来たあの夜、お祖父ちゃんは部下をけしかけたの。
「咲ちゃん!一体どうなってるの!?この人達何者!?」
「燕の紋、乙黒家の人間か。これは面倒な事になったな」
その夜、燕はお仕事があって気乗りはしなかったけど依頼を受けてたんだ。その時に発砲音が聞こえたの。
完全に乙黒家の誰かが銃を使ったのは分かったから、助けが必要と思って其方に向かったんだ。
でも、そうじゃなかった。本当に名門の名が聞いて呆れるよ。
2人を囲うように部下がいたんだ。完全にリンチじゃないか。
「皆んな、何してるの?」
燕の声を聞くと皆、静まり返る。これはいつもの事で、乙黒家の正統後継者であれば誰でもそうなる。パパの前でもそうだしね。
「燕お嬢様!コイツらです!七星家から送られてきた下賤な運び屋は!お嬢様直々にコイツらを成敗してください!そうすれば、私達乙黒家は守られます」
「うん、そうだね」
瑞穂もそうだし、咲羅もこの時息が荒く、今にも倒れ得そうになっていた。幼い私でも殺す事は可能だっただろう。
私は一瞬、2人に対して銃口を向けた。
2人は怯え、周囲は歓喜していた。
「「パァン!!」」
「そんな乙黒家なら燕は要らないかな。早くこの2人を運んで手当てして。じゃないと全員蜂の巣だから」
先程口答えしてきた部下の顔を弾丸が掠める。
周囲は大慌てで2人を屋敷に運んだ。
「ごめんね。うちの家の者が迷惑かけて」
「全然!こうなるって予想してなかった私達にも非はあるし。ごめんなさい、私達も新米で。運び屋界隈の事は勉強してなくて、ここのお家が運び屋の名門なのは知らなかったの。でも、貴女って天才少女って呼ばれてるんでしょ?凄いのね!」
瑞穂はとても純粋でまっすぐだ。
蜂蜜色のロングヘアーも羨ましいなと思うし、瑞穂に良く似合ってると思う。燕は紺色のボブヘアーだから尚更羨ましいな。
そのあと、咲羅とも合流して一緒にお祖父ちゃんの所に向かう事になった。
彼の横に座っていたパパが緊張しているのを見るに相当怒っているのが分かる。
「燕、自分が何をしたのか分かってるな?何故、2人を庇う?何故、お前は乙黒家に刃向かう?」
「簡単な話だよ。2人が燕の仲間だから」
そういうと後ろで正座していた2人が目を見開いた。
「家より大切な物が出来たんだ。燕の事を怖がらないで接してくれるのは2人だけだから。燕の事を褒めてくれて、認めてくれる人の力になりたいの。2人とも新米で、業界の事も良く知らなかったみたいだし。ここは大目に見てくれないかな?」
そういうと、念を押すようにパパもお祖父ちゃんを説得してくれた。
「親父、名門乙黒家が2人を処罰したらそれこそ器の狭い家だと思われるぞ。ここは燕の言う通り2人を受け入れて、逆に立派な運び屋に育成すれば周囲からの評価も上がる。若者を受け入れる柔軟さも必要だと燕は言ってくれてるんだよ。乙黒家の後継者として立派じゃないか、先を見越してるって事なんだから」
「...うむ、そうだな。今回はお互いに非があるという事で痛み分けとしよう。燕、立派になったな。これで乙黒家も安泰だ」
「ありがとう。お祖父ちゃん、大好き」
そのあと、咲羅と瑞穂と手を繋いで庭先で話をしたの。
2人とも大きくてさ、咲羅は190cmあるっていうし瑞穂も169cmあるんだって。
燕が更に小さく見えちゃうよ。それに殆どブランコ状態だしね。
「ねぇ、燕も七星家に行ってみたいな。どんな所なの?」
「凄いのよ!お屋敷内にカウンターバーもあるし茶室もあるの!」
「乙黒家も立派だが、七星家はもっと立派だ。燕、本当に良かったのか?俺達を受け入れて」
「良いに決まってるよ。2人と一緒なら何でも出来る気がするんだ。今も宙に浮いてるしね。燕ね、参区にいってみたいんだ。壁の外は危ないかな?」
「大丈夫よ、この3人なら。でも、燕ちゃんには刺激が強いかしら?大人になったらね」
瑞穂はそうやって燕をいつも子供扱いする。
でもね、ちゃんと約束を覚えていてくれたんだ。
比良坂町の全ての壁が取り壊され、朝日と水平線を見たあの日。
燕を参区に連れて行ってくれたの。
これで燕も少しは大人になれたかな?
次回、14話+解説&作者の感想、時系列まとめの3つを同時投稿して完結とさせて頂きますのでよろしくお願いします。




