第壱拾弐話 もうすぐ
「浅間さん、お久しぶりです。3人はどちらに?」
「もう向こうに行ってるって張り切っているんです。今日は視察ですか?」
「えぇ!新鋭の3人が新しく行動範囲を広げたとなれば行かない訳には行きませんから」
希輝ちゃん達は尾山からさらに範囲を広げ、先日角鹿に手を付けた。
彼女達の目的は旭さんの行方を探す事。
その為には行動範囲を広げるのが先だと言うのが3人の考えだった。
「浅間さんは角鹿には行かれないんですか?」
「私は印を持っていませんし、信濃より先は彼らに任せていますから。本当に頼りになる後輩です。最初は巻き込まれたと落ち込みましたけど」
正直言って、自分が後輩を持つとは思っていなかった。
確かに研修当時、仲間がいる他のグループを羨ましいなと思っていつか自分にも相方なり仲間が出来るのかな?と思った時もあったが中々機会に恵まれなかった。
「そう言えば、Dr.黄泉はお元気ですか?貴女が担当になってから此方に来ている所を見た事がなくて」
「今、海外から電報が届いたとかで忙しくされていて。でも、楽しそうにしていますよ。黄泉先生、生まれた時から赤い血の割合が高い特殊体質の持ち主で、念力を見る事が出来るんです。私も一緒ですが。普通なら失明してしまう所を生き残って眼鏡は手放せないって言ってましたけど弱視で済んでいるみたいですね」
「愛さんは大丈夫なの?」
「えへへ、実は私もコンタクトなんですよね。目が悪いんですよ。何処かにいないかなって2人で探してるんです。それを克服した最強の運び屋がいないかって」
「素敵ですね。あっ、希輝ちゃん達から連絡が。ちょっと失礼します」
そのあと無線機から聞こえる声に耳を傾けた。
「浅間先輩!此方、準備出来ました!眼鏡屋まで来てもらえますか?」
「はい、剣城君がいつも買いに行ってる所ね。分かりました」
「折角だし、黄泉先生にも買っていこうかな。フレームの色どうしよう?」
「そこは黄色じゃないんですか?」
「分かりませんよ、案外無難な色が良いとか言い出すかもしれないし。黄泉先生とはそこそこ付き合い長いですけど、やっぱり何を考えてるのか分からない時があるので。でもね、時々。人と触れ合う機会を設けているんですよ。研究所とか協会を案内したりとかして。本格的な業務ではないんですが、嬉しくて。私も真似してるんです、工房を公開したりしてるんですよ」
その言葉を聞いて、自分も驚いていた。
私と同じように一匹狼だったDr.黄泉がこうしてまた人と向き合おうとしている。
私もそうだし、彼もまだまだ成長出来る。
そんな風に思わせてくれるのだ。
「じゃあ、Dr.黄泉は1人じゃないのね。それだけが心配だったから」
「あれ?浅間さん、ご存知ないんですか?黄泉先生が貴女の心配をされているのを」
「えっ?Dr.黄泉が、私の事を?」
「当たり前ですよ。長い間、ソロでご活躍されててどうしても危険と隣り合わせになりやすい貴女をずっと気にかけていましたから。そんな貴方に後輩が出来て「僕も安心だ」とおっしゃられていましたからね。噂では肆区の方にもソロで活躍されている新人の運び屋さんがいるみたいで。黄泉先生はその方もご心配されているみたいですね。海鴎さんって方だったかな?ただ、黄泉先生も中心街までしか行けないので彼のお父様に橋渡しをしてもらってるという形ですね。同業者らしいので」
「そう、親子で運び屋の業務に。それはとても大変でしょうね。世襲制の所もあるみたいだし、心配だわ。怪我をしないと良いけど」
「奥様が医者なのでまだ融通は効いてるみたいですが環境の整っていない肆区ですからね。今後の課題になると思います」
そのあと、無線機に着信が入る。今度は白鷹君からだった。
「...浅間先輩、早く来て。希輝がメチャクチャ怒ってる。「早く浅間先輩と愛さんに見せたいのに」って」
「ごめんなさい。じゃあ、愛さん行きましょうか?道案内しますので、異常がないかチェックお願いします」
「お安いご用意です。それが私の仕事ですから。まずは尾山に移動しましょう。それから角鹿ですね。何でも、貿易関連の施設が多いとか。珍しい物も見られそうです」
今思うと、私はなんだかんだ言って1人ぼっちじゃないと痛感させられる事が多い。
頼もしい先輩方がいて、仲の良い同期がいて、可愛い後輩がいて、支えてくれる人達がいる。
そう言う人達が私の知らない景色を見せてくれる。
1人では見られない景色を見せてくれる。
「浅間先輩、こっちだ!」
「先輩!早く!早く!この景色を貴女に最初に見て欲しくて!やっとここまで辿り着いた。でも、終わりじゃないよ。むしろ、まだ途中なんだから」
「僕達は完成してない。でも、誇って良い事もあるよね?」
「...っ!?」
私の、皆の知らない道の先には何があるんだろう?
その道の途中には何があるんだろう?
誰も知らない。誰も分からない。
でも、確信出来る事もある。これが当たり前になる時がきっと来ると。




