第壱拾壱話 三人娘
私の同期は二人いる。谷川さんと小町ちゃんだ。
当時、朱鷺田さんや青葉さんが抜け私達が入るという怒涛の時代にデビューし、周囲からは三人娘とひとまとまりにされた。
ただ、お互い面識はないというかそもそも担当場所も違うし、何故そんな事を言われなければならないのかと疑問にも思ったが今では何故か私の家を集合場所にしてお泊まり会を開くぐらいには仲が良い関係となっている。
今回はそのキッカケになった出来事について話をしよう。
「ふぅ、今日も何とか無事に終わった。偉いぞ、私」
恥ずかしいので言いたくなかったが私は独り言が多いタイプだ。
希輝ちゃん達がくるまでは本当にソロでやっていた為、人と会話する機会が少なかった。
喋るのをやめると本当に会話が出来なくなりそうで怖かったと言うのもある。
話が脱線してしまったが、協会に戻り書類を提出しようと思った時だった。
何故かシクシクと泣いている少女と女性がいた。
そう谷川さんと小町ちゃんだった。
「ほら、鞠理。帰るぞ、トッキーが飯作って待ってるんだから」
「やだよ、ご飯なんていらない。旭、谷川さんを動かす為には何か必要だと思う?」
「電気か?」
「違う!アルコールだよ!アルコール!谷川さんの血はアルコールで出来てるんだよ。それなのにみどり君は健康週間だとか言って、禁酒法を制定したんだよ!」
「しょうがないだろう?おばさんが倒れたばかりなんだから、健康にも気をつけるって。本人だってちゃんと減塩してるじゃないか、嫌そうにしてるけど」
谷川さんは不服そうな顔をしながら旭さんを見ていた。
その反対側では山岸さんが小町ちゃんを慰めているようだった。
「寿ちゃん、青葉はいつ戻ってくるの?小町、凄い寂しいの。ママも妹の世話で忙しくて構ってもらえないし」
「そうか、小町も紅一点だしな。うちは男世帯だし、身近に女性がいてくれれば色々と話も出来るんだけど仕方ないか。ごめんな小町、苦労をかけて」
通路の真ん中は空いている。私も通れるスペースもある。
でも、何故だろうか?面倒事に巻き込まれそうで怖かった。
「旭!今日はまーちゃんの家にお泊まりしてくるから!明日、協会に集合ね!」
「寿ちゃん!小町もお泊まりしてくるの!ガールズトーク、楽しまないと!」
二人にガッチリと腕をホールドされ、逃げられなくなっていた。
旭さんと山岸さんは何故が微笑ましそうに手を振っている。
「流石だな新入り。もう周りと打ち解けているのか。鞠理、浅間に感謝しろよ」
「旭、俺もお泊まり会したい!朱鷺田に伝えてくれよ」
「いや、何か襲われそうで嫌だわ」
彼方は彼方で楽しそうに会話してるし、もう夜も遅いという事で2人を家に招き入れた。
幸い、普段から大きなベッドを使っているので問題はないだろう。
「まーちゃんってさ、お嬢様なの?部屋を見てるとさ、お洒落で上品なのが伝わってくるしさ。立派だよね、キャリアウーマンって感じ」
「ウチはワインを製造してる一般家庭ですよ。谷川さんの方がお嬢様に見えますけど、実家って何をされてるんですか?」
「おっ、聞きたい?2人だけの秘密だよ。まーちゃんには泊めてもらったしね。実はね、谷川さんの家は軍人を代々輩出してきた家なの。
お祖父ちゃんも元々元帥っていう偉い人だったんだって」
その言葉に私も小町ちゃんも目を見開いた。
いつも、マイペースでのほほんとしている谷川さんが厳格な軍人の家出身。これは驚くに決まってる。
「えっ!?お祖父ちゃんは今何してるの?」
「もう病気だからさ、家で寝込んでるんだけど小さい頃から“睨みを効かせてる”って言ってたんだ。谷川さんは何の事か良く分からなくてさ。怖いけど、優しい所もあるんだよね。そうそう、みどり君と同じ感じ」
ここで情報を整理しておこう。
私達がそのあと知る事になる秋津基地、それを警戒していたのが谷川さんのお祖父さんだったのだ。
しかも、元帥という事は鶴崎と全斎の上司にあたる。
しかし、彼の死をきっかけに全斎が動きだした。
と言うより、全斎と協力していたのが朱鷺田さんのお父さんなのだから敵対関係にあったと言う事だ。
しかも、恐ろしい事に表面上は友好関係を築いていたと言うのだから谷川家の立ち回りの上手さには感服する。
そのあと身軽な旭さんは谷川家の支援を受けながら基地に関する情報を仕入れていた。従姉妹の紅花椿さんの協力も仰いだという。
良く、朱鷺田さんが“2人は媚びを売らない”と言っているのを聞いた事あるが媚びを売らなくとも良い程の名家に生まれたお嬢様とお坊ちゃんというのが2人の正体だ。
「す、凄いの!小町の家は貧乏だから羨ましいな。お菓子とか食べ放題なの!」
「へへん、良いでしょ?でも、みどり君ケチだからさ。食べさせてくれないんだよね。今日の内にさ、お菓子沢山食べとこっと。お酒も飲んでやる!」
そのあと、3人で時間が許す限り喋り倒した。
意外な人物の意外な姿に驚きつつ、1日を終えた。




