第壱話 日陰者
「鉄壁の運び屋」から来て頂いた読者様ありがとうございます。初めての方もありがとうございます。
色々書きたい事はありますが後書きで説明させて頂きたいと思いますのでよろしくお願いします。
自分で言うのも何だが、俺は目立たない存在だと思う。
堅実、縁の下の力持ち、そんな事を昔から良く言われていた。
正直、俺はそれで良いと思っていたしその証拠に試験や模試で10位以内に入れば満足出来る程の人間だった。
しかし何処で間違ったか、そんな俺にもイレギュラーがあった。
運び屋という職に就いていた事だ。
しかも、普通の運び屋ではない。広範囲に跨り、仕事を受ける運び屋だ。
今回は俺が今の仲間達と出会う所から話をしよう。
忍岡の公園、そこは俺にとっては問題児の溜まり場だった。
自分の大学の近くにあるという事もあり、帰りに寄る事も多かったがいつも夕方や夜になると2人のクソ餓鬼が現れるのだから困りものだ。
それが一体誰なのか?意外な事に昔の山岸と旭だった。
2人とも揃ってこう言うのだ“地元に居たくない”と。
ただ、当時中高生な2人は補導対象になるのは明白だった。
だから、俺は咄嗟に奴らを庇い兄貴のフリをして「直ぐ帰ります」と言い訳をして事なきを得ていた。
そんな事をしたら次はどうなったと思う?面倒臭い事に懐かれてしまったのだ。
「児玉さん、今日もナイスガイだね。俺の好みではないけど」
「知ってるよ。山岸は面食いだもんな。どうだ?地元の方で何か面白い事、見つけたか?」
そう言うと目を逸らしてしまう。
山岸は自分の学校が終わってから来るのだろう、夕方にここに現れる。
逆に心配なのは旭の方だった。夜になって、深夜ギリギリまでいるのだから穏やかな顔をしてかなり深刻な悩みを抱えているのが想像出来る。
「別に。好きだった野球も怪我して辞めちゃったし、皆んな都合が良いよな。ピッチャーにバッターに散々こき使っておいてさ、辞めると人が居なくなって行くんだ。皆んな、次は学校のマドンナに夢中だよ」
「お前はそのマドンナには夢中にならないのか?」
「なる訳ないじゃん!確かに顔は良いけど、俺は森園の事良く知らないし。いつもクラスで本を読んでるか、刺繍みたいなのをしてる大人しい子だよ。俺とは正反対だ」
「良いじゃないか、正反対で。逆にお互い分かり合える事もあるだろうしな。何か共通点を見つけたら一気に仲良くなる事もあるだろう?どうだ?何か、ありそうか?」
そう言うと山岸は何か考えているようだが、自分で首を傾げている。
それが答えになるのかどうか?自分でも良く分かっていないようだ。
「いや、何か。俺、普段から自分で健康食作って試合前にコンディションを合わせるぐらいガチ勢なの。だから昼休みとか驚かれるわけ、それをさ。遠目からあの青葉さんがジッと見てくる訳ですよ。どう思う?」
「いや、どう思う?って、それはお前に興味があるからだろ。立派な事じゃないか。その青葉って子も料理に興味があるんだろう?今度教えてあげれば良いじゃないか」
そう言うと山岸は苦笑いを浮かべる。
今、こうしてみると昔の山岸は隼や颯にそっくりだと思う。
本人も自覚があるようで、昔の自分を見ているようだと可愛くて仕方がないのだそうだ。
山岸はまだ優等生な方で夜になると自分の家へ帰って行った。
俺はもう1人の問題児を探す事に専念する。
「さてと、1番の問題児は...いた、おい旭!」
夜中薄暗いの中に彼、旭はいた。
名前に似つかない事をするなと思いながら彼に話しかける。
「あぁ、児玉の兄さんか。この前はありがとな。運び屋の事教えたらさ、2人とも真似して久しぶりに楽しい時間が過ごせたよ」
「それは良いが。随分と遅い時間に来たな。俺は担当が違うから送ってやれないぞ。帰れるのか?」
「まぁ、自分で印を持ってるし。ギリギリまで粘るつもりだよ。今日は習字教室に行っててさ。トッキーが中々離してくれないものだからくるのが遅れた。...本当、どうしたもんかね」
そう言いながら旭は物思いにふけている。
以前から2人の幼馴染がいるとは聞いていたが、片方が問題を抱えているらしく、俺は出来るだけ親身に相談に乗っていた。
「その坊ちゃんがお前に対して悪気が無くともお前を傷つけているなら俺は離れるべきだと思うけどな。親しい仲だからこそ、お互い離れて自分の気持ちを整理するって言うのは大事だと俺は思う」
「まぁ、兄さんの言う通りではあるかな。正直、トッキーの態度は俺から見ても周囲から見ても“親友”や“幼馴染”の範囲を超えてしまっている。人前で恋人繋ぎをしてきたり、腕を添える事もあるんだ。生まれつき母親の影響で女装してて、それは無くなったものの髪を伸ばすのは辞めない。口調も俺の真似をしてるみたいで怖いんだ。本当のお前は何処にいるんだって、いつも思ってる。本人には言えないけどな」
旭は肩を震わせ、青ざめた表情をしている。
相当切羽詰まった状況なのは目に見える。
俺は出来るだけ安心出来るよう背中を摩り、一緒にベンチに腰掛ける事にした。
「1番心配なのは鞠理に対して当たりが強いって事だな。幼い頃からそうなんだ。鞠理に嫉妬しているみたいで、威圧的な態度を取る事がある。正直、鞠理は頑張ってくれてるよ。俺は感謝してるんだ、アイツがいてくれると心が休まるからさ。トッキーだって心の中ではそう思ってるんだろうけど、やっぱり表に出す事はない。俺が出来るだけ鞠理のフォローはしてるんだけど、それをトッキーが見ると...」
「また更に関係性が悪化するって事だな」
そう言うと旭は悲しげな表情をしながらも頷いている。
「トッキーはさ、普段はそうなんだけど本当は頼りになる奴なんだ。勉強も運動も優秀で常に成績も一位で、その上容姿淡麗で非の打ち所がない。おまけに家は金持ちと来た。俺は勉強もそこそこ、容姿も平凡だし、昔は銀行を経営してた旧家だったけど、俺が生まれた頃には経営破綻で没落してた。金庫には沢山の金塊があったって爺ちゃんが自慢してたっけ。正直、一緒にいて辛いよ。劣等感に蝕まれる時もある。“何で俺に頼るんだ”って思う時が多々ある。何と無く、本当に俺の事を思ってくれてるならお互い支え合える仲になりたいって思ってるのかもな」
「旭の考えは間違ってないよ。ただ、坊ちゃんの事を擁護させてもらうなら本人が自分の事を良く分かってない節がある。前に言ってただろ?母親にお人形のような扱いをされて、それを強制する為に父親やお前が協力して男としての振る舞いを教えた。そんな事をしたら紛れもなく自我が無くなる。多分だが、自分の性的対象が男だって事すら分かってない」
「それは俺も思った。親父さんもそうだけどおばさんも勘づいてるみたいでトッキーの事を良く聞いてるんだ。話した内容とかな。ただ俺の事はあくまでも“親友”で恋人扱いではない。と言うか付き合ってもいないけど。鞠理もさ、協力してくれて確認の為に色々聞いてくれたんだ。旭の事どう思ってるの?とか手を繋ぎたいと思う?とかな。でどちらもはぐらかすというか、動揺してるみたいで「何でそんな事を聞くんだ?」って」
その言葉を聞いて俺は何度も思考を巡らせるがアドバイスしようにも出来ないというのが今の現状だった。
旭は苦笑いし、その様子を見守っていた。
「児玉の兄さん、ごめんな。面倒な事に巻き込んで。話を聞いてもらえただけで嬉しいし、少し楽になった。ありがとう」
「旭は本当にメンタルが強いな。中学生で抱える問題じゃないぞ。周囲もお前も協力して策を講じても無理なら後は時が経つのを待つしかないか。本人に自覚がない以上はどうする事も出来ないしな。ただ思うのはその坊ちゃんは旭と同化している、或いは同化しようとしてる。もう1人の自分みたいに思ってるのかもな」
「それは勘弁して欲しいよ。ほら、比良坂町って壁に囲まれてるから朝日って見えないだろ?俺も一緒だ“元々いない存在なんだよ”“この世にないんだよ”いっそのこと居なくなった方が...」
「旭!」
俺はこの時珍しく怒っていたと思う。
旭はビクリと体を震わせた。正直、申し訳ない気持ちで一杯だったがこれだけはきちんと伝えておきたかった。
「それは絶対にない。お前は今、ここにいるだろ?今、ここに存在してるだろ?この小さな箱庭の中に。絶対に意味があるはずなんだよ。お前のいる意味が」
「...そうか。そうだな、児玉の兄さん。もうちょっとだけ頑張ってみるよ。もうちょっとだけ。また週明けの月曜日に来るよ。また会えるかな?」
「まぁ良いが。春休みになるし俺も実家に帰らないといけないんだ。正直言って憂鬱だよ。見合い写真とか見せられるしな」
「ははっ、まぁ兄さんエリートだしな。周りが放っておかないんだろう。....そっか、トッキーもいずれそうなるのか。俺もアイツもどう言う風に動くんだろ。正直、胸が痛いな。トッキーにとって俺はあくまでも親友だしな。何か、この世って残酷だな」
最後は何とか空笑いとは言え笑顔で別れる事が出来たが正直言って問題は山積みだ。後は本人に任せるしかないだろう。
そして一難去ってまた一難、俺の人生に転機が訪れた。
第壱話を読んで頂きありがとうございました。
何でこうなったし。新幹線でBLとか頭大丈夫?って言われそうですが、一応論理的に説明出来るようにはしてるので解説か何かで書きます。
別に連結させようという事ではなく、精神的なBLという事でお許しください。
今作について説明させて頂くと、本編連載終了後。作品を見返した時、作者視点で「あれっ?」と思う事が多々ありまして。反省会を行なっていました。
前作、三人称視点の為キャラクター達の過去回想は勿論、心理描写もなかった為、殆どのキャラの行動原理や心理が表現出来ていない。完全に秘密主義の集団と化していました。
一応、小話集で補完はさせて頂いたのですがそれでも書き足りない。全年齢対象では書けない表現も多いと言う事で新作を作らせて頂きました。
これを見た上で本編を見て頂くと再度発見があるようにはしていくつもりなのでよろしくお願いします。