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サトリ

 ひょんなことから、『サトリ』の能力を得てしまった。


 サトリとは一緒のテレパスであり、他人の思考を読めるチカラ、もしくはその能力を有する妖怪のことを指す。


 ある時から急に、周囲の考えていることが聞こえるようになった。はじめは幻聴かとも思ったが、ある日の放課後、仲の良い友人に試してみた。


「お前ん家、今日の夕飯はカレーだろ?」

「おお、よくわかったな。俺、カレー大好物だから嬉しくてさ」


 これは本物だと確信した。


 だが、俺の喜びはすぐに消えることになる。心の声というものは、普通の声と違って良かれ悪しかれ多大なエネルギーがこもっており、聞く俺にびしびしと突き刺さってくるのだ。


 ましてや、大抵の心の声には悪意が詰まっている。今、俺は学校の教室にいるが、耳を澄ますとこんなものだ。


 現実の声:

「えーなにそのアクセ、超かわいいじゃん。似合ってる」

「昨日さぁ、すげぇ面白いマンガ見つけちゃってさぁ。マイナーなやつだけど」

「お前この前のテストの点数、すごかったな。やっぱりお前にはかなわないや」

「塩ラーメン食いたくね?」


 心の声:

『ダッサいゴミ付けて見せびらかしてんじゃねーよ、ブス』

『ホントはネットでタイトル見ただけだから、内容なんて全然知らねーけどな』

『いい加減にしろよテメー。いつかボコボコにしてやっからな』

『塩ラーメン食いたい』


 これは中々にうんざりする。出来るだけ聞かないように、意識しないようにはしているが、頭の中に直接響いてくるのはどうにもならない。


「あはは、なにそれ。面白い」

『面白い話聞いちゃった』


 汚い心の声が渦巻くなか、綺麗で素直な声が聞こえてくる。クラスメートのひとりである、女の子。俺は彼女のことが好きだ。彼女にだけは、心の声を勝手に聞いていることに対する罪悪感を感じる。


 眺めていると、眼があった。照れくさくて、急いで視線を外す。すると、こんな信じられない声が聞こえてきた。


 『彼と眼があっちゃった。嬉しい。私、彼のことが好きなんだよね。恥ずかしくて、殆ど接することは出来ないけど…』


 サトリの能力を得てから、初めて良かった、嬉しいと感じた。


 それから俺は積極的に、彼女に接するようになった。最初は戸惑っていたものの、悪くは思っていないようだ。


 ある日の放課後、彼女が委員会の雑用で、重い荷物を運んでいた。もちろん俺はそれを手伝う。夕日の差し込む、誰もいない廊下を二人で、他愛のない会話をしながら歩く。つまらないことかも知れないが、俺にとっては最高の時間だ。


 荷物を資料室に戻し、教室から荷物を取り、帰路につく。そのときの俺は、高揚していたのだろうか。さらっと自然に言葉にしていた。


「俺、君のことが好きだ」


 言ったあとに我に返って、しまった!と思ったが、彼女も俺のことを好きでいてくれているはずだ。確信を持って返事を待っていた。


「え? 勘弁してよ。じゃあ私、こっちだから。さよなら」


 …フラレた? 何故だ? 彼女の心の声は、明らかに俺に好意を持ってくれていた。なのに、今の彼女は冷めた顔をし、冷たい眼をしていた。しかも、心の声が一切聞こえなかった。


 失意のなか、家に向かいながら考えた。これはもしかして、サトリの能力ではないのではないか。何かの病気で幻聴が聞こえているだけじゃないのか。幸い明日は土曜日だ。近所の精神科を予約し、受診することにした。


……


「統合失調症だね」


 検査の結果、精神科医の先生はこう結論付けた。俺が今まで聞いていたのは、『心の声』でもなんでもなく、単なる幻聴だったのだ。


 考えてみると、友人のカレーの話だって、好物だったら食卓に上がる頻度が高いだけで、たまたま正解しただけなのだろう。


 何よりも、彼女の『心の声』は、彼女の想いとは全くの別物だった。医者に言われるがまま、俺はそのまま精神病院へ入院することに決まった。


 期間は一ヶ月ほどだそうだ。しばらく学校に行けなくなるが、彼女に合わせる顔もないし、なんというか、もう何もかもがどうでもいい。どうにでもなれ。


……


 その夜、彼女は後悔していた。


「今日はびっくりしちゃって、心にもないことを言っちゃった…。私って、どうしてこうなんだろう。本当は彼に好きだって言われて、こんなにも嬉しいのに」


「明日、ちゃんと謝って、私の気持ちを伝えよう。ちゃんと、私も貴方が好きです、と伝えよう。早く明日にならないかな」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 現実が落ちなのですが、ある意味自覚出来てよかったのではと思います。 [気になる点] 個人的にはもう一段、どんでん返し(本物のギフト)があって、医者の内面(今日のお昼何にしようかなとか?)ネ…
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