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婚約破棄された駄作令嬢ですが、バッサリ髪を切ったら本物の王子様に見初められたようです  作者: 相内 充希


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第21話 どこか重ねてるのかな?

 ユーゴが何か考え込んでしまった様子に、内心首をかしげてしまう。


(私、なにか変なこと言ったかしら)


 実の兄は私に無関心だけど、トーマみたいな人がお兄様だったら、なんとなく色々なことが違ったんじゃないかなと思うのよ。タチアナ母様が言うには、お兄様はそこそこ女性にも人気があったらしいのよね。だったら政略結婚だったとはいえ、サロメみたいな裏表のある意地悪な人より、もう少し心根の優しいお嫁さんがいたのでは? なんて思うのだ。

 サロメには私だけが我慢すればいいだけだからと思っていたけれど、やっぱり時々寂しかったり切なかったりする。小さい頃は、お兄様にも可愛がってもらったように思うんだけど、今では私の願望か夢だったのかしらって思うくらいだ。

 多分、トーマはその理想にぴったり合う人だったんだよね。

 面倒見がよくて頼りになって、すっごくモテてると思うのに、なぜ独身なのか謎だけど。


(ニーナは、大きい兄様は騎士らしい騎士だからねって大笑いしてたけど、忠誠を誓った姫君がいるとかそんな感じなのかな。そう考えると、相手がどんな女性なのか気になってくるわ)


 沈黙が続くので、そんなことをつらつらと考えてみる。

 ちらっとユーゴを見ると一瞬目が合ったけど、なんだか笑顔が曖昧で不思議な感じ。ほんと、どうしたのかしら。


(ユーゴ……というか、ライナー殿下って、私の記憶が確かなら騎士になる予定だったわよね? 一人前の騎士にみっともない姿を見せたとかなんとか考えて、また落ち込んじゃったのかな)


 今朝も私なんかにがっつり頭を下げてたくらいだし、相当落ち込んでたのは確かだものね。

 うーん。ガイドとしては、楽しくない旅をさせるわけにはいかないのですよ?


(あ、そうだ)


 今日の私はガイドであってガイドではない。

 彼は気づいてないけど、同級生のよしみとして、仕事では案内しないところを見せてあげましょ。


「ヒュー、知ってますか? あの美術館って、昔は幽霊館って呼ばれていたんですよ」


 人差し指を唇に当てて、「普段は観光客には内緒なんです」といたずらっぽく笑って見せると、ユーゴはようやく悩むことをやめてくれたらしい。なぜか、「いや、まだだ」と謎の言葉を呟くと、ようやく私に向って笑顔を見せた。

 ふーむ、いったい何がまだなのかしら。


「そんなこと、俺に教えてもいいの?」


 それでもせっかく彼が興味を持ってくれたから、細かいことは気にしないことにする。


「かまいません。地元では有名な話ですもの」

「そうなんだ」

「はい。ただ、やっぱり怖がる人もいますし、せっかくの美術品を楽しめなくなるとつまらないですから、あえて話すことはしないんですよ」

「俺はすでに、美術品も釣りも堪能したから問題ないと?」

「そういうことです」


 ふふっと笑うと、ユーゴも釣られたようにのどの奥でククッと笑った。

 それがなんだかすごく甘やかで、私はあわてて正面に目を戻す。


(そういう表情(かお)は、本番にとっときなさいよねぇ。ほんとに)


 心の中でぼやきながら、幽霊館についての話を語っていった。


「コレットたちの死後、館にはある客人が隠れるように住んでいました。王位継承をめぐって戦争が続いたころのことです」


 ユーゴは歴史が得意だから、これだけでもある程度のことが理解できるのだろう。あの美術館にかつて、当時の王弟殿下の愛人が匿われていたことに気づいたらしい。


「もしかして、愛妾エズメが謎の死を遂げた城?」

「その通りです」


 かつて町で評判の女優だったエズメは、王弟ディディーの愛妾となった。まだ十七歳だったという。

 貧しい生まれで字も読めないエズメだったけど、抜群の記憶力の持ち主で、セリフを丸暗記していたように貴族のマナーもぐんぐん吸収していったらしい。愛嬌のあるエズメは庶民にも大人気だったそうだ。


「でも、いくら庶民に人気でも、どんなに殿下に愛されてても、エズメが妻になることは許されなかったんです」


 所詮は庶民。身分の間にはだかる壁は、今よりもっと高い時代だ。


「王の息子たちが王位をめぐって戦った時、当時すでに継承権を放棄したディディーも他人事とはいかず、エズメを安全だと思える土地へ逃がしました。おとぎ話を叶えたジョエル七世の城なら、きっと大丈夫だと。必ず迎えに行くと約束したんです」


 話しているうちに馬は湖のほとりまでやって来た。ちょうど見える城は、戦いとは無縁の美しい建物だ。


「しかし戦でディディーが亡くなり、ほぼ同じ頃、エズメが謎の死を遂げたと言われています。正確には、彼女を捕獲しようとした兵の目の前で、煙のように忽然と消えてしまったそうです」

「すでに幽霊だった、って言われてるあれか」

「そうです。――でも、エズメはずっとディディー殿下が迎えに来るのをここで待っている。そう伝えられているんですよ」


 先に降りたユーゴに馬から降ろしてもらうと、なぜか彼の顔が曇っていて戸惑う。ただの言い伝えだし、今では若者の肝試しに使われる程度の話なのに。


(ユーゴの好きな人って、身分の違う人なのかな)


 ふとそのことに気づいた。

 おとといコレットの話に冷たい態度だったのは、彼が自分と重ねたから……なんてことがあるのだろうか。まさか、ね。

 それでも、楽しんでもらうつもりがさらに落ち込ませてしまったのかもしれないと思うと、少し泣きたくなってくる。


「ねえ、ロキシー」


 何か思い悩むような表情で、とつぜんユーゴが私をふわりと抱きしめた。


「ごめん。少しだけこのままでいて」


 とっさに彼を突き飛ばしそうになったけど、私はこぶしを握ってそれをこらえた。触れるか触れないか程度の抱擁なのに、なぜか縋りつかれてるみたいだから。

 それに、あまりにも切ない声で、ユーゴじゃないみたいで驚きすぎてしまったのだと思う。


「ヒュー、どうしました? どこか具合でも?」


 あえてなんでもない声で問うと、ユーゴが小さく笑う。


「いや。――ちょっと反省と、気合を入れたいだけかも」

「気合?」

「なんでもない。ねえ、ロキシーは、王族に愛されて人生を変えさせられたエズメは幸せだったと思う?」


 やっぱりどこか重ねてるのかな。


(だいじょうぶ。あなたならきっと大丈夫よ)


 そう願いを込めて、彼の背をポンポンと優しく叩いた。


「じゃあ、それを確かめに行きましょうか」

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