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第11話 3

 ラインドルフ殿が医務室に担ぎ込まれたと聞いて、我は見舞いと称して向かう事にした。


 あやつは中原であれこれと暗躍しとったが、それでも改心の機会は与えられるべきだと我は思うのよ。


 我がホツマもその機会を与えられたからこそ、今日の発展がある事であるしの。


 ――だが、むつかしいかのぅ。


 オレア殿とラインドルフ殿の面会の場に居合わせたロイド殿に聞かされたのだが。


 ラインドルフ殿は挨拶もそこそこに、あの古代遺物――星船の所有権を主張したらしい。


 言い分としてはこうだ。


 ――たとえホルテッサで発見されたものであっても、目覚めさせたのはミルドニア皇女のリリーシャで、その血統が無ければ稼働させられなかったはずだ。


 故に星船はミルドニアが所有すべきであり、ホルテッサは現在、星船を不当に占拠している。


 占拠もなにも、アレ、リュクス大河に沈んどるんだがの。


 ……まあ、オレア殿とソフィア殿がアレコレ悪だくみしとったようだが。


 ラインドルフ殿の主張に、オレア殿とソフィア殿は即答できないと、保留する事にしたようだの。


 ソフィア殿がその弁舌でもって、なんとか言いくるめたらしい。


 だが、それが悪い方に作用した。


 あやつ、己より優れた者に会うと屈服させたい欲求に駆られる悪癖があるようでな。


 ソフィア殿に求婚しようとしたらしい。


 まるで変わっとらんの。


 二年前だったか。


 連合諸国会議で、ダストア王国の姫とそのお付きの金薔薇と呼ばれとった令嬢に手ひどく論破された時も、やたら執着しておった。


 オレア殿達には言わなかったが、ダストア王国での暗躍はあの時の意趣返しだと我は思っておる。


 女を自分のものにすれば屈服させられると考えるとは、いやはや青いというか生臭いというか。


 アレだけ女を侍らせておきながら、女心がまるでわかっとらん。


 あげくに武の国ホルテッサだから、武を示せば――と考えたのだろうな。


 オレア殿に模擬戦を挑んだというのだから驚かされる。


 あやつ、知能が自慢だったのではなかったのか?


 それを予想して、対策を立ててたソフィア殿もソフィア殿だが……


 ラインドルフ殿は多少、腕に自信があったようだが……正直、我でさえ「ちょっとやりすぎじゃね?」って思うレベルの鍛錬に耐えて熟しておるオレア殿に。


 ……多少の腕自慢がかなうわけがないだろうに。


 マジでヒくレベルの鍛錬を笑顔でこなすんだぞ、オレア殿。


 しかも政務もちゃんとやってから。


 魔法を使えるのが嬉しいって言って。


 我、最近、マジでドン引きしてるもん。


 頭おかしいんじゃねって思うもん。


 鍛錬を課してるコラーボ殿は初代ホルテッサ王の鍛錬を基準にしてるから、きっとメーターがぶっ壊れとるんだろう、アレ。


 そして、そんなオレア殿に鍛えられとるサラだ。


 恐らく無自覚に身体強化の魔法を使っておるのだろうが、まさかラインドルフ殿に勝ってしまうとはの。


 しかも拙いながらも歩法まで使えるそうだ。


 本人は騎士になりたいと言っとるそうだが、いやはやホルテッサの銀華にでもなるつもりかのぅ。


 数年後、美しく咲く華を思うと、今から楽しみな事だ。


 ――さて。


 医務室についた我はノックしてドアを開く。


「――魔王陛下っ!? アツッ……」


 我の来訪に驚き、ベッドの上で上体を起こそうとしたラインドルフ殿に、我は手を振って寝たままで良いと示す。


「ど、どうしてホルテッサに?」


「なあに。縁あって我とオレア殿は友人となっての。

 時折、こうして遊びに来ておるのよ」


 だから余計なマネはしてくれるなよ、と。


 言外に忍ばせたつもりだったんだがの。


「そ、そうなのですか。

 同盟国の隣国トップ同士が親しいのは喜ばしい事です」


 こりゃ、伝わっとらんの。


 股が痛むのか、顔を歪めながら笑みを浮かべてはおるが。


 これは我の登場に、己の計画をどう動かすか内心で必死に計算しとるのだろうな。


「……のう、ラインドルフ殿よ」


 だから我は諭すように告げる。


「我はどんな失敗や悪事をしでかした者であっても、三度はやり直しの機会が与えられるべきだと考えておる」


「――なんの事でしょうか?」


「良いから聞け。

 別にお主の話とは限らんだろう?」


 まあ、お主の事なんだがな。


「誰しもが、一度目は運が悪かったと考える。

 二度目は今度こそと考え、三度繰り返せば、大概が懲りるからだ。

 それでも繰り返すのは、よっぽどのバカか……」


 我は伝わってほしいと願い、ラインドルフ殿の目を真摯に見つめる。


「――生まれつきで矯正の効かない悪党よ」

 我が魔王の仮面を被って笑みを浮かべてみせてもなお――


「――含蓄のあるお話で。

 私には縁のないお話ですが、そういう者に会ったなら、私もそう伝え諭しましょう」


 我は思わずため息を吐く。


 ダメだな。これは。


 己が正義と疑っていない者の目だ。


 己を疑い、それでもと足掻くのではなく、抗うのでもなく、ただ与えられたモノを当然として享受し、己の行動こそ正義と信じる狂信者の目だ。


 ならば我も容赦はすまい。


「――ラインドルフよ。

 ……我は警告したからな?」


「――ははっ! 先程から陛下はよくわからない事を仰る」


 痛みに顔を歪めながらも、笑ってみせる気概は褒めてやろう。


「――主の思惑、きっと紅竜の末裔が挫くであろうよ」


 我は席を立ってそう告げる。


「人には器というものがあるのよ。

 それがわからんうちは、玉座は遠いぞ。

 ラインドルフよ……」


「――ご忠告、ありがとうございます。魔王陛下。

 ですが、無用なご心配かと」


 部屋を去る我にはわからんが。


 きっとアヤツは今、哂っておるのだろうな。


 慈悲はかけたのだ。


 それでも進むというのなら。


 我もまた、相応の対処をすべきだけだ。


 我が国もまた、そなたの思惑に翻弄されたのだ。


 やり返されたとて、恨み言は言うまいな?

魔王様の慈愛

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